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40,滞在許可

(まじん?)

 ライオットは街道に住む魔人を思い出していた。


 首領は、語り続ける。

「森の奥にある遺跡には魔神が封じられていると言われててな。その封印が解けそうになっているらしい。それに呼応し魔物たちが狂暴化しているのではないかと言われているんだよ」


 話から、ライオットが思い描く魔人とは異なる存在だと気づく。


「実際、魔物たちがえらく強くなってきているのは確かだ。それに伴って、砂漠にあるの国イドでは、魔神討伐のために異世界から聖女を呼び出そうと、国教の司祭たちが必死になっているとまで言われている」


 首領が手を伸ばし、アノンのフードを少し上げた。アノンはびくっとして、身を縮める。手はすぐに引かれ、机の上に組まれた。

 首領はじっとライオットを睨むように見つめる。


「あながち、嘘ってわけでもなさそうだよな」


 睨まれて、ライオットは値踏みされていると感じ、緊張した。


「まあいい。異世界から聖女を呼び出すと言っても、聖堂内で行うことだ。俺たちの知ることじゃあない。イルバー、お前こいつら預かれるか」


「サラがいいなら問題ない。たぶん、ダメとは言わないだろう」


 首領は満足そうに笑った。

「しばらく、イルバーのところにやっかいになるといい」


 首領と呼ばれる長に滞在を許可され、宿泊場所も決まったことでライオットは安堵した。落ち着いて過ごせば、アノンも今よりはましになるだろう。リオンとフェルノを探すのはその後でも、かまわないと踏んでいた。とかく今のアノンでは人探しをする以前の状態である。


 外に出た三人は、階段をのぼる。イルバーが寄る場所があるというのでついて行く。

 歩きながら、ライオットはイルバーに話しかける。


「俺たちが魔物を屠った話はしないんだな」

「見てないからな。きっと信じてもらえない」

「なぜ?」

「あんな所業。俺だって見ていないと信じられない。仲間たちも、俺だから疑いながら、仮に信じてみているに過ぎない。

 魔物の両前足の凍傷も、額の傷も、変だとは思っても、俺の話を信じるには至らないさ」

「証拠があるのに?」

「想像を超える力は、この目で見ても、信じがたいよ」


 イルバーは両手を握ったり、開いたりを繰り返す。


「俺は、その子に助けてもらった。彼女がいなければ、死んでいたかもしれない。だから、君たちを捨てれない。それだけだ」


(悪い奴じゃないよな。むしろ、良い奴だ)

 ライオットは背後にアノンの気配を感じながら、イルバーを信用しようと心に決めた。


 程なく、三人は高い屋根だけがある壁のないむき出しの建物にやってくる。

 奥には炉があり、その手前では作業する数人の男がいた。周辺で掃除などの雑務をしている少年がおり、イルバーの姿が目に入ると駆け寄ってきた。


「イルバーさん。いらっしゃい」

「サイクル。頼んでいたものを取りにきたんだが、できているかな」

 人懐っこい少年だった。アノンよりも身長はあるが、歳は若い。少年は、すぐにアノンとライオットに気づく。


「イルバーさんこの人たちは?」

「旅の人だ。しばらくうちに滞在する」

「へえ。始めまして、僕は【溶解再帰 リキッドサイクル】。サイクルです。よろしく」

 軽く挨拶すると、彼はイルバーに急かされ奥へと向かった。炉の前にいる男たちに話しかけている。


「ここは」

 ライオットがイルバーに問うた。

「ここは鋼を打つ鍛冶場だ。主に魔物の核を加工している。武器も作っている。奥には武器庫もあるな」


「魔物の核を加工するのか。あれを加工できるのか」

「ああ。あれを鋼に練りこんで鍛えないと、魔物を狩れる道具を作れない」


 ぴったりとくっついていたアノンの気配が少し離れる。ライオットは背後に目をむける。

「どうした、アノン」


 アノンは建物の端に固められた箱を見つめていた。アノンの様子からライオットは察する。


「イルバー、あの箱には魔物の核が詰められているのか」

「よく分かったな。その通りだ。ライオット」


(やっぱり)

 アノンが魔物の核を食すのは、魔法使いだからと思っていた。

 しかしだ、魔法使い並みの魔力を保有するフェルノは魔物の核を欲することはない。


 ライオットがアノンの内部を覗き見てしまった時、彼の体に無数に張り巡らされている黒々しい筋があった。あれは何なのか。人間がケガした時に、血が流れても、あんな黒い筋が見えることはない。


 ライオットはイルバーを見上げた。「失礼」と声をかけ、彼の腕をつかんだ。


(見えないか。いや、見たい)


 念じると、イルバーの肉体が見え、皮がはがれ、肉が露になり、内臓があり、血管に骨が見えた。それらに、黒い筋はなかった。

 ライオットが手を離すと、逆回転の映像が見えて、映像は消えた。


「どうした」

 訝るイルバーに、ライオットは首を振った。

「何でもない」


 アノンの体には何かある。あの黒い筋は、魔力そのものなのかもしれない。仮説は立てれても、結論は出せなかった。


「イルバー」

 サイクルと共に一人の男がやっていた。奥で作業していた男の一人だ。

 んっと彼もまたライオットとアノンに気づく。


「誰だ、彼らは」

「旅の人だよ。うちに泊める予定だ」

「はじめまして、ライオットです。後ろにいるのはアノンと言います」


「ふーん」

 男はまじまじと二人を交互に見る。(髪の色が違うだけで結構目立つな)とライオットは苦笑する。

 見かねたイルバーが間に入った。

「この方は、【嗜虐立体 キュービックサッドネス】さんだ。この鍛冶場にいる技術者の親方の一人なんだ。でっ、頼んでいた品は……」

「ああ、イルバー。これだな」

 

 鞘に収まった太く反り返った短刀を男はイルバーに渡した。彼は鞘から抜き出し、刃を確かめる。


「きれいになってますね」

「少し魔物の核を多めに練りこんでおいた。これで、欠けないといいな」

「……ですね。最近は、特に魔物も皮膚も硬貨しているようで、力も強く、切りさくのも難しくなっていますよ」

「大変だな」

「仕方ないですね」


 嘆息する二人をライオットは交互に見つめる。アノンはただじっとしていた。


 鍛冶場を後にすると、「もう一か所、寄っても構わないか」とたずねられる。

 気にしないでいいと告げると、更に上に登って行った。最上階はだだっ広く何もなかった。奥に小屋があり、イルバーは「少し待っていてほしい」と去った。

 

 何人もの男たちがいて、(兵士とか騎士のようなものかな)と彼らのいでたちから推測する。四人一組でまとまっており、ライオットが森で出会ったイルバーたちも四人だったことを思い出す。


(四人一組でチームを組んでいるか……)

 一人ではかなわない魔物に彼らなりに工夫しているのだろうとライオットは考えた。


 端の方で、アノンと二人でイルバーを待つ。ちらちらとみられる視線が痛く、さらに隠れるように縮こまるアノンもいて、ライオットもさすがに(早く去りたいな)といたたまれなくなってきた。


 日が傾いた空が赤みを消し、紺色に染められていく。もうすぐ夜だ。


 広場の中央に、男たちが火を焚いている。

 用事を終えたイルバーが「遅くなってすまない、これから家にいく」と申し訳なさそうに戻ってきた。


「いいですよ。邪魔するのは俺たちの方ですし、気にしないでください」

「いや、それだけじゃなくてな」

「どうしました」


「妹がいるんだ。が、なかなか元気で、少しうるさいかもしれないなと……」


(女兄弟に頭が上がらないのはどこも一緒だよな)

 ライオットの口元がほころぶ。イルバーとの接点を見つけて、親近感がわいた。


「俺も妹が二人いますから、どこも女兄弟には頭あがりませんよね」

 イルバーも少しほっとする表情を浮かべた。


 アノンは変わらず、ライオットの後ろで小さくなっていた。




 イルバーの自宅の扉を開いた時、ライオットは彼の歯切れの悪さを正しく理解することになる。


「お兄ちゃん! 役場に行ったんでしょ。父さんと会えるなら、遅くなると伝言ぐらい頼んでよ!!」


 玄関先で怒る身の丈アノンぐらいの女の子の勢いに、ライオットは身が竦む。

 イルバーも苦笑いを浮かべて、暴れ馬を抑えるかのように両方の手のひらを向けている。


(こういうことね)

 ライオットが苦笑すると、彼女の視線がこちらを向いた。


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