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8,魔王城の四天王

 真っ先に食堂へ入ってきたのは魔女二人、角のあるリキッドとキャンドルだった。その後に、魔女の少女より少し大きい薄桃色の髪をした眠そうな小さい子と黒い服装をした無表情な女の子が続く。


 ついで、ミルクティー色のふわりとした長い髪に、眼光鋭い黒目の少女とさらさらとした若葉色のショートヘアの少女が黒い装束を纏った好々爺を支えながら現れた。

 足元もおぼつかないご老体が入ってくると、サッドネスが立ち上がった。


 エクリプスは、口角が無条件にあがり、口元へ手をやった。笑ってはいけないという、無意識の反応に近い。

 

 サッドネスが好々爺へと最敬礼を示す。

「お久しぶりでございます。魔王【 混濁僭主 クリムゾンディシプリン】様、お加減はいかがですか」

「ぼちぼちだよ、長く生きるのもあちこち大変だ。久しぶりだね、今日は魔術師さんもいらしているんだろう」


 エクリプスは、サッドネスにならい、立ち上がった。

「お初にお目にかかります。魔王様、私は魔術師の【魔導瘴気 エクリプスメソッド】こと、エクリプスと申します」


「はじめまして。よろしくね。

 初めての方だ。みんな、挨拶しなさい」


 魔王はそう言うと、若葉色の髪をした女の子の手を借りて、よっこらしょと端の椅子に座った。


 魔女と呼ばれた少女たちが、エクリプスの前を跳ねまわる。

「【私の可愛い流砂 リキッドファントム】のリキッドだよ」

「【私の可愛い円錐 マーダーキャンドル】のキャンドルだよね」


 すでに、エクリプスの目には二人がお手伝いを楽しむ幼子にしか見えなくなっていた。


「リキッド、キャンドル」

 鋭い声を発し二人を制したのは、ミルクティー色の髪と大きな目には似つかわしくない鋭い眼光を称える少女だった。この中では一番の年長者のように見える。


「お客様の前で、はしゃぎ過ぎないで!

 ごめんなさい。エクリプス様、私は長女の【悪の華 テンペスト】こと……」


「姉さん」

「白姉様」

「いちねえ」


 残りの三人の少女が声を揃えてつっこんだ。


「「「私たち、今は四天王よ!」」」


【悪の華 テンペスト】と名乗りかけた少女が、はっと我に返る。


「わっ、わかっているわよ」

 かっと頭に血が上ったような声で叫ぶ。

 姉と呼ばれており(なるほど長女か)とエクリプスは納得する。


「改めまして、エクリプス様。私が、四天王が一人【悪の華 テンペスト】こと、テンペストです」


「「「長女です」」」


 三人の揃った声に、エクリプスは苦笑しながら(さっきも聞いた……)と思った。


「いいのよ。今は誰が長女が次女かなんて関係ないでしょ。勇者を迎え撃つ四天王なんだから!! あっ、でも、どうしてもって言うのなら、いつも通り私が代表者ってことでもいいわよ、もちろん」


「実質、姉さんが、この魔王城を切り盛りしています。父……、すいません。魔王様はお飾りです」

「とりえは、まじめさよねえ。白姉様は、真面目、実直、勤勉、強いて難を言うなら……」

「男っ気はなし」


「うるさいわね。あなたたちだって、四天王と命名されたのよ。しっかりしないと、それっぽく見えないじゃない」


「姉さん、本質は隠し通せないよ」

「パパが魔王なんて、だれが見ても違うでしょ」

「いちねえは、肝っ玉母さんタイプ」


「四天王の立場ぐらい少しは見せつけようと思わないの。ここは一応魔王城で、あんなんでも魔王がいることになっているのよ」


「姉さん、ひどい」

「白姉様、そこまでは言わないであげて」

「いちねえもちゃんとわかってるね」


「せっかく勇者がくるのに、人間の国から四天王と任命されて、恰好つけないでどうするのよ~!」


「姉さん、ドンマイ」

「白姉様、ま・じ・め」

「いちねえ、かわいい」


「せっかく勇者がくるのよ。魔王討伐よ。晴れ舞台よ。こんなんじゃ、ただ城を明け渡して終わりじゃない!!」


「姉さん、王子様がくるからって張り切りすぎ」

「白姉様にも春?」

「いちねえ、応援するよ」


「ちっがーーう!!」

 

 テンペストが嘆くと同時に、エクリプスも呻きそうになりこらえた。

(……自己紹介なげえ……)

 腕を組み、表情を整える。ため息は心の中だけにとどめた。


(こいつ知ってて黙ってたのか)

 エクリプスがうろんな目をむけても、サッドネスはそ知らぬ顔だ。




 長々とした自己紹介を要約するとこうなる。

 

 ミルクティー色のふわりとカールした長い髪を流す、眼光鋭い黒目が輝く、ご令嬢風の四天王もとい長女。

【悪の華 テンペスト】こと、テンペスト。


 ストレートな黒髪を肩ほどまでのばす、薄茶の瞳をした、聖職者を思わせる黒い服を着た表情薄い次女。

 長女を姉さんと呼んだ【虚構論理 サイレントレクイエム】こと、エム。


 魔王を支え入ってきた、さらさらした若葉色のショートヘアを揺らす、深緑の瞳を持つ三女。

 長女を白姉様と呼んだ【狂音模型 トーキングデイジー】こと、デイジー。


 四人の中では一番小柄な、薄桃色の髪と赤い目が特徴的な、四女。

 長女をいちねえと呼んだ【忘却消去 デイドリームデリート 】こと、ドリーム。



 

 エクリプスは、これだけ理解するのにどれだけ時間がかかるんだと、表情が引きつりそうになった。





 サッドネスは長くなるであろう自己紹介を右から左に流していた。すでに知っているだけに、今さらというのもある。はじめて知るエクリプスがうろんな目を向けてきても、知らぬ顔を通す。事前に知っておいて、対処できるものではないため、伝えずに来ていた。


 自己紹介を終えた、しっかり者を自称する長女テンペストがサッドネスに声をかける。

「勇者一行の予定は何か知ってらっしゃるの」


「今、勇者一行は、山の頂上部に向かっております。今夜はそこで野営予定となります。そこから明日、街道の一番端を目指す予定となっております」


 サッドネスが答えると、長女はにやっと笑った。

「では、私最初に挨拶に行ってまいりますわ」


「姉さん、王子様に興味あり」

「白姉様、積極的」

「いちねえ、玉砕覚悟」


「あんたたちうるさいわよ。どんな人かとりあえず、見に行ってみるだけよ。誰かが、最初に接触するのよ。とりあえず、長女の私が代表って言うのが筋じゃない!」


 三人の少女たちがキョトンとする。脳裏に浮かんだのは共通の一言。

(((……筋ってなに……)))


 三人の無反応にテンペストは、むっとする。

「とにかく行くわ!!」

 捨て台詞を吐いて、長女は廊下へ出た。右へ行こうとして、振り返る。ずんずんと歩いて行き、また戻ってきたときには、何か浮遊する黒い影の尻尾が握られていた。


「白姉様、【闇黒 イリュージョン】を連れて行ったわ」

 三女がぽつりと呟いた。


「なあ」

 諦めて彼女たちの様子をぬるまゆく見守っていたエクリプスが、声をかけると三人の少女が同時に振り向いた。

「四天王って今回だけの役割なら、いつもは何しているの」


 きらんと次女の目が輝く。

「正義の味方」

「街道にでてくる、でっかい魔物を退けて、魔人を守るんだよ」

 四女が補足する。


(なんだそりゃ。魔物を寄せる第一王子こそ災害のもとじゃないか)

 エクリプスは口を真一文字に引き締め、眉間にしわを寄せた。


挿絵(By みてみん)

長女テンペスト、次女エム、四女ドリーム、三女デイジー。

作画:管澤捻様 ありがとうございます。

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