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7,使者到着

 太陽が顔を出し【圧殺隠者 ソリタリープレッシャー】と別れた後、エクリプスとサッドネスは交互に御者を務めながら馬車を走らせた。馬の疲労はエクリプスが魔法で癒した。馬の負担を減らすため馬具を即興で魔術具に変えた。魔術具に魔力を込めてやれば、馬の負担も軽減する。


 街中を魔法の絨毯を飛べないため、人間の国を出るまでは馬車は仕方ないにしても、魔物の国に入ればそのような法規制はない。魔物の国に入れば、魔法の絨毯に乗ってもいいはずだが、勇者一行にアノンがいるため、サッドネスとエクリプスは、存在を悟られないため馬車で移動を続けた。エクリプスが工夫することで、二日程度かかる道程を、休みなく十数時間で二人は魔王城までたどり着く。




 魔王城は、魔物が住む森に囲まれた街道の最奥にある。


 魔物の国リムディゾンは、名ばかりの国である。

 人間の国ヴァムリッサンから指定された国名を、名乗っているだけに過ぎない。


 人間の国では、魔王が従える魔物たちがどれほど恐ろしいかをほのめかす物語が流布されていた。幼少期より語り聞き育った国民は、魔物の国には人間を襲う狂暴で残忍な恐ろしい魔物たちがいると信じていた。時折、目撃される巨大な魔物がその信ぴょう性を裏付け、噂の種は尽きず、人々はけっして魔物の国に近づかなかった。


 現実の魔物の国リムディゾンは、人間の国から走る一本の街道沿いに集落が形成され、そこに魔人と呼ばれる人々が森を糧として生活しているだけであった。


 街道沿いに細々と生きる魔人を守るため、魔王城に住む魔人たちは、人間の国の要望を聞きいれているだけなのだ。




 魔王城に到着した時の御者役はサッドネスであった。


 魔王城の手前は、絶壁の崖となっている。その向こうに黒塗りの塔がそびえたつ。城の入り口に通じる橋を、ゆっくりと馬車は進む。

 渡り切ると、二人の魔女が立っていた。

 サッドネスは国の使者として何度か魔王城を訪ねている。二人の魔女とは顔見知りであった。


 双子の魔女【私の可愛い流砂 リキッドファントム】こと、リキッドと、【私の可愛い円錐 マーダーキャンドル】こと、キャンドルは、サッドネスを見てキャッキャッと喜んだ。十歳ぐらいの少女を思わせる姿。人間ではないのだと示す、くるりと巻かれた角がこめかみあたりからはえているのが特徴的だ。


「サッドネスだ」

「サッドネスだね」

「久しぶり」

「久しぶりだね」


 橋を渡り終え、城門をくぐり、サッドネスは馬車を止めた。


「ごきげんよう、リキッドにキャンドル。魔王様方はいらっしゃるかな」

「いるよ」

「いるよね」


 止まった馬車からエクリプスもおりてきた。角が生えた少女二人を見てぎょっとするも、すぐに感情は隠してしまう。愛らしい少女を化け物として見るのは忍びなかった。


「もう一人いる」

「もう一人いるね」


「彼は魔術師のエクリプスだ。私と同じ、人間の国からの使者だよ」


「エクリプス」

「エクリプスね」


「そう。よろしくね。まずは、馬車を置いて、魔王様にお会いしたいんだ」


 すると、キャンドルが馬車の御者席にぽんと座った。


「キャンドルが馬車をしまう」

「キャンドルが馬車をしまうね」

「リキッドが案内する」

「リキッドが案内するね」


 エクリプスが馬車から数歩離れる。キャンドルが手綱を握り、馬車を裏手に走らせて行った。


「こっちきて」

 

 跳ねるように歩き出したリキッドを追い、二人は城に入った。


 魔王城内はそれほど広くはなかった。円錐形の屋根を備えた塔があったものだから、バランスを考えると、てっきりもっと広いものだと想像できるだけに、エクリプスは驚いた。


「意外と小ぶりだな。城というより、塔を備えた屋敷だろ」

「そうだな。王城のような、広々とした王座もなければ、王と謁見する広間もない。これから案内されるのも、きっと質素な食堂だよ」


 さすがにエクリプスも面食らう。こそっとサッドネスに耳打ちした。

「魔王とか。城とか。言う割には、しょぼいな」

「人間の世界とは仕組みや考え方が大分違う。人口も少ないしな」

「話に聞いていたイメージと違いすぎだ」

「伯爵家も内情までは説明していないか」


 案内された部屋の両開きの扉を、リキッドが元気よく開く。

「魔王様、サッドネスとエクリプスを連れてきたよ」


 室内はしんと静まりかえり、誰もいなかった。リキッドは首をかいだ。


「いない」

 リキッドは難しい顔をして、うーんと唸る。腕を組んで、右からくいっと腰をひねった。

「魔王様迎えに行くよ。待ってて」

 廊下をさらに奥へと跳ねて行ってしまう。


 サッドネスが食堂と言ったように長広いテーブルがある。向かい合うように椅子が十脚ほど並んでいた。サッドネスは平然と入室し、適当な椅子に座った。

 どうしたものかと困惑するエクリプスも、仕方なく同行者に習う。サッドネスの前に座った。


 見回せど、ただ広いだけの食堂である。


「魔王城と言うからには、もっとこう、物々しいものとか、仰々しいものを想像していただけに、拍子抜けだ。ちょっと広い一般家庭の食堂にいる気分だ」


「だろうな。もっぱら魔王や魔王城へつなぎは侯爵家うちがしてきた。魔物とは恐ろしいものだと風聞を流し、人々に魔物たちが住まう地域へ足を踏み入らせないようにしていたのは事実だ」

「貴族まで情報統制していたのか」

「知る人間は少ない方がいい。内情を知る伯爵家でも一部の者しか伝えないのだろう」


「第一王子のところにあらわれるような、でかいのもいるんだろう」

「いる。だが、滅多にいない。魔物は小さく、無数に森に潜んでいる。それだけだ」


 エクリプスは混乱する。

 一般的に浸透している情報では、恐ろしい魔王や魔物に遭遇しないために、魔物が住まう樹海には近づいてはならないのだ。彼もまた、魔物は恐ろしいと幼少期から伝え聞き、信じていた一人であった。


「この屋敷を案内した子どもはなんだ」

 角がある魔物とも人間ともとれる少女二人は、大仰な魔物を想像していたエクリプスにとって予想外の存在だった。


「彼女たちは、魔女だ。ここに住まう預言者の側近だよ」

「魔女? あれが……」

「そうだね」


 エクリプスは腕を組み、頭を左右に振った。

 伯爵家のエクリプスは公爵家のアノンともつながりがあった。それなりに、魔王にまつわることは知らされている側の人間だと思っていたのだ。


「俺も、蚊帳の外に置かれていた、ということか」

「エクリプスだけではない。いまだ私も同じだよ」

「旅立った者たちも同じか」

「もちろん」


 エクリプスは苦笑する。

 知る者と、知らない者。何重にも情報が混在している。


「魔王、四天王、預言者、魔女、魔道具師はいるんだよな」

「いるさ」


(知らされていたのは肩書だけかよ。しかしだ、魔女でさえあれなら、他も予想を砕かれそうだな)

 エクリプスは天井を仰ぐ。


 廊下ががやがやと騒がしくなる。重々しい声や、重厚な雰囲気はない。姦しいと表現したくなるような、鈴が鳴る空気感が伝わってくる。

 

 エクリプスは肘をついた。

(もう何が来てもいいさ)

 冷ややかに廊下に通じる扉へ目をむける。


 扉が開き、魔王たち一行が現れた時、エクリプスは苦笑して、サッドネスに視線を流した。訳を知る者は、涼しい顔で座っている。

 現れたのは、魔女二人の他、好々爺のような魔王と、四人の少女だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] かわいいキャラが出てきました。 魔物の国、ほのぼのしてますね。
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