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春
僕らは春を失っていた。
夢を賭けていた、
春を失っていた。
奪われたわけでも、捨てたわけでもない、
ただ、春を失った。
年中の冬。
冷たい日々の中で、
普通の、典型的な、平凡な、マンネリ化した、
思い出を経て、
夏を過ぎた。
暑い夏だった。
幸運ではないが、不幸ではない。
僕らの夏だった。
何にも、誰にも、奪わせない、
誰も失えない、
夏だ。
僕らの春だ。
明日、また、夏が来る。
しかし、
それは欠けてやってくる。
春が来なくったって、出会いはやってくるのだ。
春が来なくったって、別れはやってくるのだ。
春が来なくったって、四月はやってくるように。
夏はやってくる。
特別な、
僕らの思い出のために。
やってくる。
欠けた月は美しい。
けれども、僕に、本来の現実を押し付ける。
冬が終われば、春が来ること。
春が終われば、夏が来ること。
そして、夏は終わり、秋が来て、冬が来る。
春が来る。
夏が始まる。
春を失った僕らに、
また夏がやってくる。
夢を失った僕らに、
夢を与えた、
夏がやってくる。
幸福だった僕らの思い出を、
過去にするため、
夏がやってくる。
僕らのために。
夏はやってくる。




