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水屋詩集  作者: 水屋 燈
16/40

うわごとの嘆願


いやあ、にくい。にくいったらありゃしない。

なに。おれがなにか、具体的な不利益を被っただとか、

そういう話じゃあないけどな。

おれの中に巣食っていた、にくしみと言うべきか、

妬みってもんなのか、

そういうわるい感情が、

とうとうおれを本格的に蝕み始めた。

おれは気持ちのわるい嫉妬で生きてきた。

そういう自負はある。もちろん。

だからここまで、耐えてきたんだ。

どうだ?おまえは、

大の大人が、子どもみたいな嫉妬心で、

怒ってるって思ったら、嫌だろう?

うん。うん。

だから、おれは、ここまで耐えてきたんだ。

や、ほんとうに、ありがたい。

ほんのちょっとで終わる話だ。

長くはない。

しばし愚痴に付き合ってくれや。


おまえも知っているだろう?

おれは、長いこと物を書いている。

むろん、書くのも好きだが、とうぜん読むのも好きだ。

だから人の物を見る。

するとどうしたって、

ああ、こいつにゃ敵わねえ、

おれにこんな物はかけねえ、

参りました。

感服だ。

脱帽だ。

そんな物がある。

当たり前だあな、

そういうのの連続だ。

しかし、このあいだ、旧いともだちに会った。

竹馬の友といっても差し支えねえ、

気心知れた仲の人間だ。

そいつは昔から何でもできた。

おれはそう思ってきた。

そいつはおれに文章を見せてきた。

なんてことはない。

なんてことはないものだったんだろう。

その文章は、面白かった。

底抜けに、面白かった。

物語という物を心得ていた。

人が好きと云う物を分かっていた。

そいつは、昔から文章を書いてきたおれを知ってる。

だからおれに見せたんだ。

おれがどれだけ苦心して物を書いているか知っている。

だが、おれがどれだけ、気持ちの悪い感情で、

生きてこようとしたか、

書こうとしてきたのか、

知らない。

おれはどれだけおれを嫌って文章を書いてきたか、

知らない。

おれは、最高だって言った。

それから、もう二度と喋りたくなくなった。



申し訳ない。

ほんと、

帰りは?大丈夫かい、

うん。おれは、良いんだ。

聞いてもらってるだけだからな、うん。


な、才能と努力を並べちゃいけないよ。

最初からちがうものなんだから。

おれはおれだというのと同じで、

おれはおれに書けるものしか、書けねえんだ。

面白いやつになりたい。

すごいやつになりたい。

そう思っちゃあいけないよ。

いちばん駄目なのは、ひとに好かれようとすることだ。

どうせ己自身が嫌いなやつはいるんだ。

おれは、ひとが嫌いになって、仕方ない。

あ、ああ、良くないことをおもい出した。

どうしたって、おれは、嫌われている。

そんな気がしてならない、


悪い酔い方をしちゃった。

もうそろそろお開きにしよう。

な、今日の話はどうか水に流してくれ。

おまえのせいじゃあないんだ。

おれのにくしみのせいなんだ。

 

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