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第9話 水の精霊王リヴァイアサン②


 ポルボ湖は大きく渦巻いている。

 

 先ほど巨大な水竜が消えていった渦の中心あたりから、何かが飛び出してくる。


 小さな人影だ。

 それは俺たちのいる湖畔に向けて飛んでくるのだった。


「ほっ!」


 その人影は、湖畔の大きな岩の上に綺麗に着地した。


 人影は、ゆっくりと立ち上がる。

 そしてくるりと、こちらを振り向いた。


 人間の姿になった、水の精霊王リヴァイアサンだ。


 少し短めの水色の髪。

 透き通った青い瞳。 

 18歳ぐらいに見える美女がそこにいた。


 その胸元は……! 

 バスタオルのような大きな布が巻かれている。


 炎の精霊王イフリートも人間の姿になった時に、何故か初めから腰布を巻いていた。


 ……精霊王っていうのは、日本の公共の常識でも知っているのか?


 まぁ、別にいいけどね。


「さーて、サウナとやらを案内してもらおうかっ!」


 リヴァイアサンは意気揚々とサウナに向かって歩いていくのだった。



「何これ、目が乾くっ! お肌が砂漠になっちゃうよ」


 サウナの中に入るや否や、リヴァイアサンが大きな声を出した。 


「うるさいぞ、リヴァイアサン。サウナの中では静かにするものだ」


 イフリートがしかめっ面で注意する。


 何となく、イフリートは先ほどから表情が固い気がする。


 ……やっぱり炎の精霊だから水の精霊は苦手なのかな。



「まあ、二人とも、座りなさい」


 結構時間が空いたので、サウナの中は湿度が下がり、乾燥していた。

 

 俺は柄杓で水をすくう。

 そして、サウナストーンに水をかける。


 ーージュジュジュジュ!


 サウナストーンから心地よい音が鳴る。



「おっ、おー!」


「これが、ロウリュだぞ」


 イフリートが知った顔で解説する。


 お前もつい昨日、知ったばかりだろう。



「なるほどねぇ、サウナは水が大事なんだね!」


「……まあ、水は引き立て役だな」


「炎の熱さだけじゃ、不快なだけだね!」


「炎がないと始まらないけどな」

 

 二人はくだらない言い争いを始める。

 ……やはり、この二人はあまり相性は良くないみたいだ。



 しばらく3人でサウナの中にいると、リヴァイアサンの顔はすっかり赤くなっていた。


「……あ、あれだね。最初のロウリュは気持ちよかったけど、なかなか熱さでつらくなってくるね」


「おっ、リヴァイアサンよ。もう音をあげるのか?」


「ぐぬぬっ」


 イフリートは腕を組みながら、得意顔でリヴァイアサンを見る。


「イフリート、サウナは無理して入るものじゃないぞ」


「あ、ああ。そうだな……」


 俺に注意されたイフリートは、気まずそうに目をそらしサウナの床を見る。


 ……うん。

 そろそろ、リヴァイアサンはいい頃だな。


「よし、リヴァイアサン、出るぞ。付いてこい」


 俺はリヴァイアサンを連れてサウナを出た。



 ……先ほどから、考えていたことがある。


 冷たい水が苦手なイフリートは一回でやめてしまった、()()だ。


 ……水の精霊王リヴァイアサンにならば。

 この素晴らしさを、理解してもらえるのではないだろうか!



 サウナから出て、

 大股で一歩、二歩、三歩……。

 

 ーーザブンッ!!

 

 俺は冷たいポルボ湖に飛び込んだ。



「リヴァイアサン! 飛び込んで来いよ!」


 俺は湖から岸の方を振り返って言う。

 リヴァイアサンは火照って赤い顔をしている。

 

 彼女はぐっと頷くと、

 

 ーーザブンッ!


 ポルボ湖に思いっきり飛び込んだ。

 


「うわぁー! 冷たくて、最高だねっ」


 ……うん。

 水の精霊王リヴァイアサンは、やはりこのキンキンに冷えた春先のポルボ湖の素晴らしさが分かる女だった。


「こうやって、頭も水につけてしまってだな。水の中をたゆたうのが最高なんだ」


「ホントだ。最高だね〜」


 リヴァイアサンも俺の真似をして、湖にゆったりと浮かぶ。



「あれ? そういえば、イフリートはどこかな」


 突然、リヴァイアサンが頭を起こして、キョロキョロと辺りを見回す。


「ああ、イフリートは冷たい水は苦手だからな。あっちの水風呂に浸かってるんじゃないか?」


 俺は湖に浮かびながら答える。



「ふーん、この良さが分からないなんて、可哀想なやつだねぇ!!」


 リヴァイアサンが湖に響くような大声で言い放った。



「……クソッ!」


 遠くからイフリートの声が聞こえてきたのだった。


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