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第8話 水の精霊王リヴァイアサン①


 炎の精霊王イフリートと俺が契約をした翌日のこと。

 イフリートは人間の姿になって、また俺の自作のサウナ小屋に来ていた。


「イフリート。お前、毎日くる気なの?」


「ケントとオレは契約をしたのだからな。一緒にいてもおかしくあるまい」


 イフリートは腕を組みながら、サウナの中で堂々と座っている。


 ……まあ、別にいいんだけどね。



 俺は今日、早速、炎魔法を使ってサウナストーンを熱している。


 これまではストーブで薪を燃やして、サウナ内を温めていた。


 精霊王級の魔法だからなのかはわからないが。

 思っていたよりも繊細に温度調整が出来るようで、大変重宝している。



「まあ、なんだ。炎魔法ってやつは、便利なものだな」


「オレと契約したからには、もっと凄い力を発揮できるんだがな」


 イフリートは両手を広げて言う。

 こんなことを言いながらも、しっかりサウナを楽しんでいる様子だ。



 サウナでしっかりと身体を温めた後、俺はイフリートの後を追って、水風呂に入っていく。


 ーースーッ。


「……なぁ、ケントよ」


 イフリートが俺の顔を見つめながら言う。


「ん、なんだ?」


「お前が水風呂に入る時は、まるで気配を消しているようだな」


「ああ、他人の()()を取らない気遣いも、サウナ愛好家のマナーってもんだ」


「な、なるほど……」



「水面を揺らすのは、己の心臓の鼓動のみってところだ」


「なるほどな……。深いな……」


 出来るだけ水面を揺らさないように、かつ、出来るだけ素早く水風呂に入るのは、実はなかなか練習がいる。


 水風呂の中を歩きまわるのは駄目だ。

 どんなに気を遣って歩いても、水の中で水流が出来てしまう。


 この水流が、先に水風呂に入っていた人の羽衣を取ってしまうことになるわけだ。


 「ここに入る!」と決めたら、スルッと入ってピタッと止まる。

 これが大事なのだ。


 ちなみに俺の頭の中では、水を張った調理ボウルに、コンニャクがトゥルっと入るイメージをしている。



「ははっ! しかし、水風呂がこんなにいいものだとはな。オレは感動したぞ!」


 イフリートが豪快に笑ったその時。


 辺りが急に暗くなった。



 そして……。


 ーーゴゴゴゴゴッ。


 ポルボ湖から津波のような水流が押し寄せてきた。



「うわぁ、羽衣が取れてしまうっ!」


「いや、羽衣どころじゃないだろ!」


 俺は津波に流されまいと、そばにあった大きな岩にしがみつく。


 津波が通り過ぎた後、俺たちはポルボ湖のほうを振り返る。


 ……急に暗くなったのは、こいつのせいか。

 

 自分たちは巨大な影の中にいることを知ったのだった。


 そこには湖から長い首を出す、巨大な水竜がいた。



「イフリートが水に入って喜んでるなんて。今日は隕石でも降ってくるのかな?」


 水竜からは意外にも若い女性のような声が聞こえてきた。


「げ、水の精霊王リヴァイアサン……」


 イフリートが水竜を見て顔をしかめる。


 水の精霊王リヴァイアサンね。

 この水竜は、イフリートと同じ精霊王であるようだ。



「イフリートは人間の姿になって、さっきから何をやっているのかな?」


 水竜が長い首を傾げる。

 また湖面が波打った。

 

 おいおい。

 津波はもう勘弁してくれよ?


「リヴァイアサン、お前には関係なかろう。さっさとどっかに行っちまえ」


 イフリートが手で払うような仕草をする。


「……うーん。そこの人間さ。さっきまで二人で入ってたそこの小屋はなに?」


 水竜はイフリートから聞き出すのを諦めたようだ。

 俺の方に目線を移して話しかけてきた。



「あれは、サウナだ!」


 俺は大きな声で、水竜に向かって言う。


「サウナだって?」


「あの熱い小屋で身体を温めて、その後、水風呂に入って温冷交代浴をするんだが……。まあ、そのデカい身体じゃ、サウナには入れないだろう!」


「私は水の精霊王だよ。人間の姿になるぐらいわけないよ」


 水竜は長い首を俺の方に寄せてきながら言う。



 ……あれ、この展開さ。

 つい昨日も見たような気がするんだが。


 突然、ポルボ湖に巨大な渦が発生する。


 そして、水竜の大きな姿は、その渦の中に消えていったのだった。


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