第70話 苦痛派VS断食派⑨
俺は空に向かって挙げた右手に魔力を集中させていく。
空からは先ほどにも増して、強く雷鳴が響くのが聞こえてくる。
今日俺が使える精霊王級魔法は残り2回。
ここが本気で勝負どころだと思う。
苦痛派の総司令ダミアンを一気に倒すのだ。
そして、同時にこいつら全員の戦意を根こそぎ奪い取ってやる。
俺は右手から火柱を放つ。
天を衝くような巨大な火柱だ。
火柱の周りを高熱の炎が螺旋状に渦巻く。
その強大な魔法に、周りの魔法使いたちは言葉を失ってこちらを見ている。
「……ケントさん、いくら何でもそれはないだろう!」
ダミアンは声を振り絞ると、2本の剣を構え、一直線に走ってくる。
……だが、遅いな。
こちらは、もう完成だ。
俺は巨大な火柱を一気に凝縮していく。
精霊王級魔法ーー。
「 煉 獄 王 剣 !」
俺は右手に暴力的なエネルギーを持つ一本の炎の剣を完成させる。
完成した煉獄王剣を空中で一振りすると、空間が歪むかのように、その軌道に陽炎が見える。
俺は煉獄王剣を正面に構える。
ダミアンが左手の雷の剣で煉獄王剣に斬りかかってくる。
ーーシュンッ!
俺の持つ煉獄王剣に触れた瞬間、雷の剣は蒸発するように一瞬で消えてしまった。
ダミアンは両目を大きく見開く。
「次はこっちの番だ」
俺は煉獄王剣でダミアンに斬りかかる。
ダミアンは右手の炎の剣でそれを受け止める。
ーーボギィッ!
「ぐわぁぁっ!」
ダミアンの持つ炎の剣が煉獄王剣に触れて消えて無くなるのと同時に、莫大な魔力を受け止めきれなかったのか、ダミアンの右手がおかしな方向に折れ曲がる。
「ダミアン、水の魔法障壁を使っても、これは受け止めきれなかったみたいだな」
「くそっ! 何だそれは!」
「もう、降伏するしか無いんじゃないか?」
俺がそう言うと、ダミアンは右手を押さえながらこちらを睨みつける。
ーーゴロゴロゴロゴロォッ!!
後ろからは相変わらず激しい雷鳴が響き渡っている。
「ダミアン支部長! 雷雲の制御も出来ません。先ほどから、何度も広場に落雷があります。これ以上はもうどうしようもないです」
苦痛派の魔法使いが、ダミアンに言う。
「ダミアン、もう諦めろ」
俺はダミアンに煉獄王剣の切っ先を向ける。
「……断食修行派の奴らも」
「何だって?」
ダミアンは俯いており、よく聞き取れない。
「全員、道連れだぁっ!!」
ダミアンはそう叫ぶと、折れていない左手をこちらに向ける。
ダミアンの左手から水魔法が放たれる。
ダミアンの最後の渾身の魔法。
ダミアンの水魔法は激流となり、正面から迫ってくる。
突然のことにずぶ濡れになってしまったが、煉獄王剣を消し、風魔法を展開して激流を避け流されないようにする。
「……ダミアン、やってくれたな」
俺は後ろを振り返る。
ーードドドドドドドッ!!
巨大な津波のようになった水魔法は後方に広がっていく。
その津波は苦痛派の魔法使いたちを押し流しながら、断食派の集団まで達する。
すぐに広場全体が水浸しになった。
「この馬鹿ヤロウっ!」
俺は一気に距離を詰めると、ダミアンを地魔法で強化した拳で殴り飛ばす。
ダミアンは魔法障壁を展開する魔力は残っていなかったようで、俺の拳を受けてゴロゴロと転がっていく。
俺は振り返って、雷雲を見上げる。
ーーゴロゴロゴロゴロォォッ!!
雷雲からは無数の雷がほとばしっている。
そして、広場はダミアンの放った水魔法で水浸しだ。
俺は最高速度で広場の中心へ飛んでいく。
この広場にあの雷が落ちたら大変なことになる。
広場に落雷しないように、何かを作らないと。
雷を引きつける高くて巨大なものを。
……俺の残りの魔力は、精霊王級魔法一回分。
「残りの魔力は、全部くれてやるっ!」
俺は地面に両手を向ける。
精霊王級魔法ーー。
「 氷 雪 の 霊 槍 !」
俺の両手から最大級の氷魔法が放たれる。
広場の中心に、雪の結晶をいくつも集めたような文様が現れた。
その文様の中心から氷雪の霊槍の切っ先が現れる。
地面から真っ直ぐに、物凄い速度で巨大な氷の槍が生えてくる。
精霊王級魔法、氷雪の霊槍。
バルドゥル王国で最も高い山と同じ名前の氷の槍。
これで、完成だ。
広場の中心には、天を衝くような氷雪の霊槍が堂々とそびえ立ったのだった。
「これまた、ど派手な精霊王級魔法だね」
リヴァイアサンが霊槍を見上げながら言う。
「……ああ。今日はめちゃくちゃ魔力を使う日だな」
俺もリヴァイアサンの横で霊槍を見上げる。
ーーゴロゴロゴロゴロォォッ!!
空では雷鳴が激しく鳴り響く。
「それで、これは一体何なのかなっ!」
雷鳴に負けないよう、大きな声でリヴァイアサンが訊いてくる。
「ああ、避雷針だ!」
避雷針。
これに雷を呼び込んで、雷を逃していくわけだ。
……ん?
雷を呼び込むためには、電気が通りやすい素材じゃないと駄目だったのでは……。
氷魔法は雷を通さないんだよな。
これって、避雷針にならないのでは。
もしかすると、広場から少し離れたところに、鉄塔みたいなものを建てるのが正解だったかな。
ーーゴロゴロゴロゴロォォッッ!!
今日、一番大きな雷鳴だ。
俺はそびえ立つ氷雪の霊槍を見上げる。
空全体が大きな雷で光ったかと思うと、
ーーズガァァァァンッ!!
氷雪の霊槍の切っ先に巨大な雷が落ちたのだった。
「おお、何かよくわからないが、うまくいったみたいだ」
俺は胸をなでおろしながら、空を見上げるのであった。
【作者お知らせ】
お待たせしました。
次回、雷の精霊王登場です。
 




