第7話 炎の精霊王イフリート④
炎の精霊王イフリートと俺はポルボ湖畔に吹くそよ風にあたりながら、二人で並んで寝転がっていた。
「……心地よいな」
イフリートが目をつぶったまま言う。
「……そうだな」
イフリートにサウナの良さを分かってもらえて、俺も満足だ。
サウナの入り方を丁寧に教えた甲斐があったよ。
「この大自然と、身体が一つになったかのようだ」
「……そういう時は、こう言えばいいんだ」
俺は寝転がったまま、空を見上げて言う。
「ととのったー!!」
俺の声が静かなポルボ湖畔に響く。
「ははっ!」
イフリートが今日一番の笑顔を見せた。
「オレも、ととのったぞー!!」
イフリートは身体を起こすと、大声で言った。
イフリートを見ると、胸から肩のあたりにかけて、炎のような形をした紅の紋様が浮かび上がっている。
イフリートは俺の視線に気づき、こっちを見る。
「……おい、人間よ。お前の胸にも、紋様が浮き出ているぞ」
「ああ、これね」
俺は身体を起こすと、自分の身体を見て言った。
俺はサウナで血行が良くなると、胸や二の腕のあたりに、赤と白のまだら模様が浮かぶことがある。
まだら模様は出やすい人と出にくい人がいるようだが、俺は結構はっきり見える方だと思う。
サウナ愛好家の間ではあまみと呼ぶこともある。
ちなみに何故そう呼ばれているのか俺はよく知らない。
どこかの方言が語源と聞いたことはあるけれど。
「まあ、ととのった証拠みたいなもんだな」
「ははっ! そうか、にんげん……。お前、名はなんと?」
「ああ、ケントだけど」
「……そうか、ケントか」
イフリートが腕を組みながら、俺の顔を見る。
俺も釣られてイフリートの顔を見る。
「ケント、オレと契約せぬか?」
「……えっ?」
「契約だ。わからんか?」
「いや、わかるけど……。俺、なんの修行もしてないんだけど」
この世界の常識で言うと……。
厳しい修行を乗り越えた者だけが、精霊に認められて契約できるんじゃなかったのか?
俺はなんの修行もしていないわけで。
精霊と契約する資格はないんじゃないかな。
「精霊と契約するためには修行が必要などと、どの精霊が言ったのだ?」
「ええ……」
確かに「精霊が人間に修行しなさいと言った」って話は聞いたことがないけれど。
でも、精霊との契約には修行が必要って、バルドゥル王国では常識なんだけどな。
「精霊たちは自然を愛し、楽しいことや心地よいことが好き。ただそれだけだ」
「……そうなの? 人間たち、ものすごい勘違いしてると思うわ……」
「精霊王でもない限り、人間と会話することなど出来ないだろうからな」
「そういえば普通、精霊って人間の言葉はしゃべらないもんな」
「人間たちが勝手に勘違いしたのも、致し方なかろう」
「でも、なんで修行で認められることにより精霊と契約できるって勘違いが広まったんだろう?」
「修行は人間にとって気持ちいいものなのか? とにかく、精霊達が楽しそうなことをしてると思い込んだのだろうな」
つまり、ドMな修行者が苦行中に気持ち良くなり、「何か気持ちいいことしてる!?」って勘違いした精霊と、たまたま契約できたと。
そして、厳しい修行こそ精霊との契約には必要なものであると、勘違いが広まってしまったってことなのか。
そこから、苦行も多種多様にエスカレートしていってしまったと。
……最初の勘違いって恐ろしいものだな。
「ケント、それで契約はするか?」
「炎の魔法が使えれば、サウナストーブのための薪割りが不要になるな。……契約しよう」
「精霊王級の魔法だぞ……。まあ、よいか。では契約しよう」
イフリートは一瞬呆れた顔をしたが、すぐに真剣な顔に変わる。
イフリートが右手を開くと、空中に炎をかたどった紅の紋章が浮かぶ。
紋章は光を放ちながら、俺のほうに向かってきて、……俺の左胸に吸い込まれるように消えていった。
そして、光の吸い込まれた自分の左胸を見て……。
俺は思わず膝から崩れ落ちそうになった。
精霊と契約した者の身体には、その精霊の紋章が刻まれる。
一般的に色は黒であり、下級精霊なら薄い色の紋章、中級だとそれが少し濃くなり、上級ともなれば遠目ではっきりわかるほどの濃い紋章が浮かび上がる。
精霊王の紋章ともなると……。
俺の左胸には淡く光り輝く、紅の紋章が刻まれていた。
光り輝く紋章だ。
刺青なんてレベルではない。
こんなものがあったら、日本なら銭湯に入れないよ。
……中二の頃の俺なら大喜びだっただろうな。
こうして俺は、転移後4年と少しが経過し、初めて魔法使いになったのであった。
【スキル】
ケント(中山健斗)
•炎属性 精霊王級魔法
【作者からのお願い】
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