第67話 苦痛派VS断食派⑥
元雷電会の幹部8人を無力化した俺は、広場の中心あたりまで歩いて戻る。
「あれを何とかするのが最優先だな」
俺は空に浮かぶ巨大な黒い雷雲を見上げる。
正直、先ほどの2度の雷撃には、かなりの魔力を持って行かれた。
また、断食派の修行地の方でもそれなりの魔力を消耗している。
今日使った魔力を全て合わせると、精霊王級魔法一回分といったところだ。
精霊王級魔法は、これまで2度使ったことがある。
精霊王級魔法は上級魔法とは比較にならないほどの強大な力を持つ一方、その消費魔力も比較にならない。
精霊王1体と契約した場合、全力の精霊王級魔法を使える回数は、恐らく1日に1回だ。
俺の場合は、5体の精霊王と契約しているため、1日に使える精霊王級魔法は5回。
さらに今は、魔法障壁の方での消費魔力もあるため、以前と比べて残りの魔力を気にしながら戦っていく必要があるわけだ。
「そうは言っても、あの雷雲は全力を出さないと壊せそうにないな」
俺は空に浮かぶ雷雲に右手を向ける。
対象が遠いため、魔法の調整が難しそうだけれど。
俺は氷魔法で、雷雲を下の方から凍らせていく。
--ゴロゴロ、ゴロゴロゴロッ!
雷雲は稲光を放ち、雷鳴が響き渡る。
……何だろう。
雷雲が、氷を嫌がっているように見えるというか。
「何だか生きてるみたいだな」
俺はどんどん氷魔法を強くしていく。
ここは勝負どころだ。
残りの魔力を気にしている場合ではない。
精霊王級クラスまで氷魔法を強くしていきさえすれば……。
「氷魔法は雷には負けないっ!」
俺は一気に魔力を集中させて、雷雲を凍らせていく。
その瞬間、目を開けていられないほどの、雷光が空に発生する。
--ゴロゴロ、ゴロゴロゴロォォッ!!
ーーズドォン! ズドォン! ズドォン!
雷雲の下側を覆っていた俺の氷魔法に、無数の雷が落ちる。
「……本気かよ」
俺の大量の魔力を使って作った氷魔法は雷を受けて粉々になっていた。
--ゴロゴロ、ゴロゴロゴロォォッ!!
稲光を放ちながらうごめく雷雲。
……何だろう。
とても嫌な予感がする。
あの雷雲、俺に対して怒ってないか?
ただの雲のはずなのに。
意思なんてないはずなのにな。
……これは絶対にやばい。
俺は自分の予感を信じて、氷魔法障壁を展開していく。
最大級の魔力を込めた精霊王級の魔法障壁だ。
--ゴロゴロ、ゴロゴロゴロォォッ!!
ーーズガァァァァンッ!!
……やっぱりだ。
やっぱりこうなった。
物凄い威力の雷が俺に落ちてきたのだった。
俺はそのあまりの威力に意識を持って行かれそうになる。
精霊王級魔法一回分の魔力がごっそりとなくなっている。
「氷魔法は雷に強い属性なのに、これはおかしいだろ」
氷の精霊王級魔法一回分の魔力が持って行かれたってことは、その雷は精霊王級魔法よりも強い威力だったということだ。
「ケント、ど派手なやつ受けちゃったねぇ」
後ろから声が聞こえて、俺は振り返る。
リヴァイアサンだ。
リヴァイアサンが空を見上げている。
いつの間にか俺の紋章から出てきていたようだ。
「……リヴァイアサン、これはまずいぞ。シヴァはどうした?」
こういう時は、シヴァが頼りになりそうなんだが。
リヴァイアサンを否定するわけではないけれども。
「シヴァ姉なら、あそこに行ったよ」
リヴァイアサンが空に浮かぶ雷雲を指差す。
「雷雲の方に行ったのか? 何をしに?」
「えーと、抗議するため」
「……抗議?」
「あの雷雲の中には、トールがいるんだよ」
「トール……。雷の精霊王か」
雷の精霊王トールの仕業か。
道理であんな物凄い威力の雷撃が落ちて来るわけだ。
「精霊が直接、人間の争いに手を出すのはルール違反だからね。まして、トールは精霊王だ。だから、抗議」
「……なるほどな」
頼むぞシヴァ。
雷の精霊王トールの方はお前に任せた。
「とすれば、俺は……」
俺は苦痛派の魔法使いの集団の方を見る。
8つの石と氷の彫刻のようになった元雷電会幹部たちの奥に、その集団はある。
そして、集団の中、広場を見渡せるように小高い足場が組まれており、そこに奴の姿が見えた。
苦痛派クロピオ支部長のダミアンだ。
恐らく苦痛派側の今回の作戦の総司令。
「ケントは、人間同士で出来ることをやるしかないね」
リヴァイアサンが俺の後ろからそう言った。
「ダミアン、精霊王同士の話し合いが終わる前に、俺が決着をつけてやる」
俺は、苦痛派の魔法使いの集団に1人で向かっていくのだった。
 




