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第6話 炎の精霊王イフリート③


 サウナでしっかりと身体が温まったイフリートと俺は扉を開けて外に出た。


 やさしい陽光が目に入り、爽やかな湖畔の風が身体をなでる。


「うん。涼しくて気持ちいいな」


 イフリートは満足そうな顔でこちらを見る。


「おいおい、イフリート。こんなもんじゃないぞ!」


 俺はニヤリと笑うと、


 ……ポルボ湖に向かって走り出す。



 ーーザブンッ!


 俺は湖に思いっきり飛び込んだのだった。


「最高だぞ! イフリートも入ってみろよ!」


「いや。オレは、ちょっと水の中はな……」


 俺はイフリートを誘うが、難しそうな顔をしてこっちを見ている。


「いいか。サウナはな、『水風呂が主役』と言っても、過言ではない!」


「うーむ……」


「さあ、騙されたと思って。さあっ!」


「……よし、オレも精霊王だ!」

 

 意を決したように、イフリートがこちらに向かって走ってくる。


 よし……!

 炎の精霊王よ。

 初めての、感動の水風呂を味わいたまえ。



 ーーザブンッ!!


「ぎゃあ! 冷たい! 死ぬっ!!」

 

 駄目だった。

 騙した形になってしまった。



 ***

 


「すまなかった。イフリート」


「冷たくて、心臓が止まるかと思ったぞ」


 イフリートと俺は、再びサウナに入って話をする。


「すまん」


「いや、いいのだ。しかし、水風呂というものはオレには合わないかもしれんなぁ」


 雪解け水が注ぎ込む春の湖だ。

 ……やり過ぎた。

 初心者を飛び込ませるには、難易度が高過ぎたと反省する。 


「いや、イフリート。誰でも心地よく水風呂に入る方法があるんだ」


「……何だと?」


 手順をしっかりと教えないと駄目だな。

 一歩一歩、着実に、だ。



 俺たち二人はサウナを出る。


 そして、また、湖に向かって走り出す! 

 ……のではなく、崖を数歩ほど降りたところに作っておいた『ため池』に向かう。

 

 これは俺が作った簡易的な水風呂である。

 湖から水を取れるようにしてあるのだ。


 今は湖から引く水を止めているため、水面は全く揺れていない。



「いいか、イフリート。俺の真似をして、水風呂に入るんだ」


「オレは冷たい水は苦手なんだよなぁ……」


「いいから、一回だけ! 騙されたと思って!」


「いや、そう言って、さっきは騙されたがな……。まぁ、話は聞くが」


「このように足先から、そっと入水するんだ。出来るだけ水面を揺らさないようにな」


 俺はイフリートに実演して見せる。


「水に入ったら、膝を抱えるような体勢を保つ。そして、手首は水面から出すんだ」


 手はほかの部分より敏感だからな。

 こうすることで体感温度を上げることが出来るわけだ。



「あとはジッと待つ。水面を揺らさないようにな」


 俺は水風呂の入り方を指南するが、イフリートは疑うような目で俺を見てくる。


 まぁ、特別なことは何もやっていないように見えるのだろう。



「俺の真似をして、水に入ってみるんだ」


 俺は水風呂から出ると、イフリートを促す。


「こんなことで、冷水に入れるようになるとは思えんがな……」


 イフリートはぶつぶつ言いながらも、俺の言うとおりに水風呂に入り始めた。


 炎の精霊王は結構素直なやつだった。



「むう……。やはり、水が冷たいな」


「……静かにしろ」


「むう。あれ、なんか冷たく無くなってきたような気が……」


「……ふふっ」



「あれ……? 何か心地よくなってきたような気が……」


「精霊王よ、それが、()()だ!」


 

 ()()()()()

 日本のサウナ愛好家たちの間では、お馴染みの言葉である。


 サウナで体温の上がった身体と冷たい水の間に温度の膜ができることで、水の冷たさをダイレクトに感じなくなる。

 この身体の表面にできる温度の膜のことを、羽衣と呼んでいるわけだ。


 羽衣に包まれながら水風呂でじっとしていると、やがて、スーッと身体が冷えていく心地よさが訪れる。


 ちなみに、身体の周りの水が揺れると、水流で羽衣が取れてしまうので、水の中ではじっとしてなければならない。



「……水風呂も、悪くはないかもしれんな」


 イフリートは羽衣の心地よさをしっかり味わっていた。



 こうしてサウナ初心者の炎の精霊王イフリートは、水風呂に入ることが出来るようになったのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 精霊王がただの水に浸かっただけで弱るのおかしい気がしますね!同じ精霊王が出した水ならともかく、ただの水で弱るの(笑)って感じです! 世の中には水つけても消えない火があるくらいですからね。
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