第55話 雷電会VSケント④
「てめぇ、どういうつもりだ?」
「ここがどこだかわかってんのか?」
屈強な体格をした門番二人が俺を見下ろす。
「ああ、雷電会だろ? ちょっとここに用があるんだ」
俺は腕を組みながら二人を見る。
「てめぇ、なめるなよ。その仮面は何だって聞いてんだよ!」
おお。
よくぞ聞いてくれた。
今日の俺は、ケントではない。
雷電会に正義の鉄槌をくだす……。
「雷の精霊王、トールだ!」
俺は腕を組んだまま大声で叫ぶ。
俺の顔には、木彫りのトールの仮面が付いている。
「おい、さっさとコイツを……」
「……やっちまうぞ!」
門番の二人は、腰につけた剣を同時に抜いた。
ふーむ。
門番は魔法使いじゃないようだな。
……しかしだ。
魔法使いじゃなかろうと今日は関係ない。
俺は両手をそれぞれの門番に向けると、
ーーキン、キン、キン、キン。
二人の首から下を一瞬で氷漬けにした。
今日は雷電会を制圧に来たのだ。
一人残らず氷漬けにする。
ちなみにこいつらの身体自体は凍らせてはいない。
身体の周りを氷で固めているだけだ。
誰一人怪我をさせずに、無力化だけをする。
今日の俺の戦いの方針だ。
雷電会にとって、これ以上の屈辱はないだろう。
俺は氷漬けになった門番二人の間を通り抜けて、雷電会本部へと向かっていく。
「し、侵入者だぞ!」
「氷の魔法使いだ!」
後ろで、二人が叫ぶのが聞こえた。
雷電会本部、1階。
俺は足を地魔法で強化すると、玄関の扉を蹴破った。
「おい! てめぇ、誰だぁ!」
入り口近くにいた男が、俺に向かって雷魔法を放つ。
雷は俺の氷魔法障壁に当たってすぐに消える。
下級魔法使いってところかな。
俺は、すぐさまその男を氷漬けにする。
「雷の精霊王、トールが成敗する!」
俺は部屋にいる男どもに向けて言い放った。
「魔法が効かない!」
「氷魔法だぞ!」
「ケントだ、ケントが来たぞ!」
正体はバレていた。
まぁ、それもそうか。
別に本気で変装したかったわけじゃない。
気分が高まればそれでいいのだ。
何人もの男が俺に手を向ける。
ーーバチンッ!
雷魔法が同時に放たれる。
しかし、その全てが俺の魔法障壁に当たって消える。
「悪いが、雷電会の奴らは全員氷漬けだ」
俺は手当たり次第に、1階の奴らを氷漬けにしていくのだった。
雷電会本部、2階。
俺は階段を登ると、すぐにそこにいた二人の男を氷漬けにする。
「駄目だ、ケントだ!」
「コイツには、雷魔法は効かねぇんだ!」
それを見た2階の奴らが奥に逃げていく。
「逃がさん。全員、氷漬けだ!」
俺は風魔法で加速し、追い抜きざまに男たちをどんどん氷漬けにしていく。
逃げていく奴らの中に知った顔を見つける。
トニーだ。
水浸しにして、自分の雷で自滅させてやった奴だ。
中級魔法の使い手のくせに逃げるんだな。
1階の下級魔法使いでも、俺に向かってきたのに。
「トニー、お前も氷漬けだ」
俺は順調に2階の奴らも氷魔法で制圧したのだった。
雷電会本部、3階。
3階にいた奴らは、下の階よりも強い魔法を使う奴が多かった。
俺に魔法を向けてきた者は少なくとも中級以上。
時々、上級魔法使いかな? と思うほどの雷魔法を使ってくる奴もいた。
まぁ、上級魔法だろうが、俺の魔法障壁を通ることはなく、全員氷漬けにしてやったわけだけれど。
順々に部屋を巡り、中にいた奴を氷漬けにしていった俺は、最後の部屋の扉を開ける。
「おう。すぐに会ったな、ケント」
部屋の奥には、顔に大きな傷のある男が仁王立ちしていた。
「ライノ。お前も頑丈な奴だな」
雷電会幹部のライノ。
雷の上級魔法使いだ。
「テメェの氷魔法と俺の雷魔法、どっちが強いか勝負しろぉ!」
ライノはそう叫ぶと、その両手に大きな雷がほとばしる。
俺に両手を向けて構えるが、すぐに雷を打ってこない。
「真っ向勝負だな。いいだろう」
俺は部屋の中央まで歩いていくと、ライノに右手を向ける。
「行けぇぇぇえ!」
ライノが叫ぶの同時に、雷魔法を放ってくる。
俺も氷魔法を放って応戦する。
その瞬間。
ーーバリバリバリバリッ!
俺の真上から雷が落ちてきた。
ライノの雷魔法と俺の氷魔法の冷気がぶつかり、部屋は蒸気が充満して真っ白になる。
「はははっ! ケント、雷魔法を食らっただろう。お前が魔法障壁を使っていたことは、俺にはわかってたぞ。だが、これほどの攻撃魔法を使う時に、魔法障壁を維持する魔力なんてなかっただろう? まぁ、もう意識はないだろうがな」
真っ白の部屋の中にライノの声だけが響く。
「おい、アーロ。ケントの野郎はどうなってる? ぶっ倒れてるか?」
ライノが言う。
俺の真上から雷魔法を打ってきた奴がアーロだな。
「ライノさん。間違いなく雷魔法は当たったと思いますが、なんせ部屋が真っ白で……」
俺の真上から声が聞こえてくる。
俺は天井を見上げる。
右手を天井に向けたまま、蒸気が晴れるのを待つ。
だんだんと蒸気が薄くなってきた。
天井には四角い穴が空いており、何となく人間の輪郭のようなものが見えてくる。
俺はすぐに氷魔法を使う。
「ぎゃっ!」
天井の穴の中にいる男を氷漬けにした。
「おい! どうしたアーロ!」
ライノが叫ぶ。
更に蒸気が晴れてきた。
先ほどの俺の氷魔法はライノの雷魔法に打ち勝ち、ライノに当たっていたらしい。
ライノの両手は氷漬けになっており、ぶらんと下を向いている。
俺はライノの方に向かってゆっくり歩いていく。
「ライノ、魔法障壁は正解だ」
「な、ケント、テメェ何で……!」
「だが、攻撃中は魔法障壁を維持できないってのは不正解だ」
「テメェ! ふざけるなぁぁぁぁ!!」
ライノが物凄い形相で叫んだ。
俺は、すぐさまライノを氷漬けにして、4階へと向かうのだった。
【作者つぶやき】
昨日、急にアクセス数が伸びました。昨日の話で10万字を超えたからでしょうか。
感想もいただきまして、誠にありがとうございます。
「雷電会VSケント」のお話は、あと2話で完結予定です。是非、最後までご覧ください!




