第48話 雷魔法の力③
俺が石壁を作って部屋の入口側を塞いだので、余計な人間は入ってこれない状況だ。
ライノと俺は睨み合う。
ライノの横には、痩せた少女。
俺の横には、リヴァイアサンとシヴァ。
「なぁ、リヴァイアサン」
俺はライノから目を離さずに話しかける。
「ん、何?」
「お前、俺がピンチの時には来てくれなかったのな」
魔法を封じられて。
身体も縛られて。
本当にやばいと思ったんだぞ。
「うーん。ケントが意識を失ったのはわかってたんだけどね」
「そう。なぜかケントくんの紋章から出てこれなくなってたのよ」
「なるほどな……」
あの、魔封石の手枷のせいか。
あれを粉々にしてやったら、出てこれたわけだな。
「お前ら、何をごちゃごちゃ言ってやがる」
ライノが静かに言う。
「3対1になったからって、余裕のつもりか?」
ライノは俺たち3人をジロジロと見回す。
「カルロの娘も捕まえた。お前も捕まえた。さっきまでの俺の上機嫌をどうしてくてくれる?」
カルロの娘。
あの痩せた少女か。
どこかの要人の娘なのかな?
しかし、ライノも随分と余裕に見える。
首をゴキゴキと鳴らしている。
「水、風、地の魔法……」
「何だって?」
「トニーの奴から、3属性だけって聞いてたんだけどな。使えねぇ奴だ」
「……ああ。俺の魔法のことか」
さっき、俺が猿轡を炎魔法で焼き切ったのを見ていたんだな。
「4属性ってのは、初めて見たけどな」
ライノがニヤリと笑う。
「最強なのは、雷魔法だ!」
ライノがそう叫ぶと、開いた両手に雷光がはしった。
その瞬間。
俺はライノに向けて、水魔法を発出する。
圧力をかけて速度を上げた水だ。
一瞬で、ライノは水浸しになる。
ーーバリバリバリバリッ!!
ライノの全身に、雷が張り付いたかのようにほとばしる。
「ははっ!」
しかし、ライノはそのまま高笑いする。
「本気かよ」
トニーは自分の雷でやられてたぞ。
「中級のトニーと一緒にするな。俺は上級の雷魔法使いだ」
そう言って、ライノは一気に距離を詰めてくる。
その身体中に雷がほとばしったままだ。
雷の上級魔法使い。
自分の身体に雷が走っていても何ともないのか。
一方、こっちは触れるだけで感電だ。
確かに雷魔法は対人間という意味では、かなり強いのかもしれない。
「4属性を使えようとな、この距離ならどうしようも無いなぁ!」
ライノはそう言いながら、近距離で拳を繰り出してくる。
この戦い方に慣れてるのだろう。
無駄な動きがなく、コンパクトな振りだ。
向こうからしたら、触れるだけで相手を倒せるのだから、大振りする必要もないってわけだ。
俺は風魔法で加速する。
ライノの拳を躱す。
何度も躱す。
しかし、どんどん距離を詰められていく。
このままじゃジリ貧だ。
俺はライノの拳を、風魔法でさらに加速しながら真横に大きく避ける。
そして、そのままバックステップをし、ライノから距離を取る。
「ケントくーん?」
後ろから、シヴァの声が聞こえる。
「ああ、わかってる!」
何回も言われなくても、ちゃんと覚えてる。
雷魔法に強いのは、氷魔法だろう?
俺は両手に氷の魔力を集中させる。
そして、作り出したのは氷の槍だ。
「な、氷魔法だと?」
ライノは驚愕したように目を大きく開いた。
「おらぁ!」
俺は風魔法で一気に距離を詰めると、ライノの顔を目がけて、氷の槍を振るう。
ライノは両腕で頭部を守る。
身体中にほとばしる雷が強くなるのが見える。
一撃、二撃、三撃。
氷の槍はライノの腕に突き刺さり、その肉をえぐる。
……よし。
氷の槍を伝って雷は来ないぞ。
「ふざけるなぁ!」
ライノが腕から血を流しながら叫ぶ。
「5属性なんて、そんな話があるか!」
そう言いながらも、ライノは距離を詰めてくる。
ここで下がっても、槍で追撃されるだけだと思っているのだろう。
戦いの勘は流石だと思う。
……しかしだ。
俺はライノよりもずっと速く後方に飛ぶ。
遠距離攻撃をするためじゃない。
俺は両足で踏ん張って止まると、すぐに前方に向かって加速する。
カウンター狙いだ。
こちらに向かってくるライノの勢いも利用して、この一撃でライノを倒すのだ。
「終わりだ、ライノォ!」
俺はライノの胸を目がけて、氷の槍を突き立てる。
ーードゴォン!
鈍い音がなった。
氷の槍はライノのみぞおちのあたりに当たっている。
その切っ先の刃は、当たる直前に丸めておいたのだった。
「……が、はっ」
ライノは、そのまま地面に倒れ込んだ。
「ケントくん。氷魔法、なかなかうまく使えてるじゃない」
シヴァに褒められたのだった。
「ああ、流石、氷魔法だ。雷魔法には負けないな!」
俺は振り返って、笑顔でシヴァに言う。
その時、
--ゴロゴロ、ゴロゴロゴロッ!
突然、雷が鳴った。
一瞬、雷魔法か? と思ったが違った。
雷は上空から鳴り響いていたのだった。
 




