第47話 雷魔法の力②
ガタイのいい男は、痩せた少女の腕を引っ張りながら、部屋の奥へと歩いていく。
「おら、その辺にいろ」
男は少女の肩を力任せに押した。
バランスを崩して、地面に倒れ込む少女。
入り口の方から、またさらに足音が聞こえる。
俺は地面に転がりながら、入り口の方を見る。
「お、この野郎。もう起きたのか」
「……ライノさん、早くやっちまいましょうよ」
男が二人入ってきた。
髪の長い若い男とひょろりとした陰気そうな男だ。どちらも頰に大きな傷がある。
「まぁ、ちょっと待て」
部屋の奥に行った、最初の男が言う。
ライノと呼ばれていた男だ。
男はゆっくりと大きな椅子に腰をおろす。
「おい、隠れ魔法使い」
ライノが俺に向かって言う。
俺は背中を反らせて、ライノの顔を見る。
坊主頭で目つきが悪く、迫力のある顔つきをしている。
額から右頬にかけて大きな切り傷の跡のようなものがある。
「お前、トニーの奴をやってくれたらしいな」
トニーか。
数日前、タルモと一緒にやっつけてやった雷魔法の使い手だ。
「やられっぱなしってわけにはいかねぇんだ。雷電会のメンツってもんがある」
雷電会。
聞いたことはないが、暴力団みたいなものか?
トニーは雷電会の一員だったってわけだな。
俺は立ち上がろうと、手足をバタつかせる。
しかし、うまく立ち上がれない。
手枷に重りがくくりつけられているようだ。
「やめとけ、無駄だ。お前、魔法が使えなかっただろう?」
ライノはニヤニヤしながら言う。
「その手枷はな、魔封石で出来てるんだ。上級魔法すら吸収しちまう力を持ってんだぞ」
俺はライノの方を見ない。
地面に顔を伏せたままだ。
猿轡をつけられたままの俺の口角が上がる。
上級魔法ね……。
この手枷は、上級魔法までしか性能が試されていないと。
余計なことを言ったな、ライノ。
「そうだなぁ。これからお前がどうなるか教えてやろう」
顔を伏せたままの俺に向かってライノが言う。
俺は勘付かれないように、全身から両手に少しずつ魔力を集中させていく。
「雷電会に手を出したからには、ただじゃ済まねぇ。殺すわけじゃねぇから安心しな。お前にはな、雷電会の力と残酷さを示す、生き証人になってもらうんだ」
こいつ、ペラペラとよく喋る奴だな。
「要するにだな、お前の腕をぶった切ったり、目玉をくり抜いてやったりするわけよ。それで、お前が街を歩く度にな、周りの人間は雷電会のことを思い出し、震え上がるっていう寸法よ」
ライノは扉の近くに立つ二人の方を見る。
「おい、お前ら。なんかいいもんが思いつくか?」
「足をぶった切るってのはどうです?」
「馬鹿野郎。それじゃあ、街に出られねぇだろう。人目に触れるから意味があるんだ」
若い方の男が言うが、ライノに否定される。
「……まず、首から上を雷魔法で全部焼いちまってですね、額に『雷電会』って、焼きごてを入れるのは?」
ひょろりとした陰気そうな男の声だ。
うん、こいつの方が性格が悪そうだ。
よくもまぁ、そんなことが思いつくな。
……しかしだ。
議論が白熱しているところ悪いけどな。
全部、無駄な議論になってしまうぞ。
俺は魔封石で出来た手枷に向かって、地魔法の魔力を集中させていく。
すると、突然、
「んんっ! んんんっ!」
ゴロツキたちの会話を聞いていた少女が騒ぎ出す。
一瞬、みんなの注目が少女に集まる。
いいタイミングだ、少女。
……上級の魔力で駄目ならな。
精霊王級の魔力ならどうだ。
ーーキィィィィィィィイン!!
手枷からさっきよりも甲高く大きな音がなる。
よし、もっとだ。
ぶっ壊れちまえ!
ーーパァァァァン!!
背中の方で、手枷が粉々に砕け散ったのがわかる。
俺はすかさず、猿轡と足の縄を炎魔法で焼き払い、その場に立ち上がる。
「お前ら、趣味悪いよな」
俺はライノを見ながら言った。
ライノは眉間にシワを寄せながら、ゆっくりと立ち上がった。
目線は俺には向いてない。
俺の左後ろの若い男の方を睨んでいる。
「ヘンリー、てめぇ。不良品をつかませられやがったな?」
「ら、ライノさん。いや、そんな、はずは……」
若い男が狼狽えながら答える。
「たぶん不良品じゃないんじゃないか?」
俺が少し魔力を込めた時には、ちゃんと魔法を吸収していたからな。
「お前が準備させた魔封石が弱すぎただけだ」
俺はライノを見てそう言う。
ただし、右手は後ろに向けて、一瞬で魔法を構築する。
地魔法だ。
ーーゴゴゴゴゴゴ!
後ろにいた2人と俺の間に、石壁を作り出した。
石壁で区切られた空間。
その中にいるのは、向かい合う俺とライノ、座り込む少女。
そこに、いつの間にか現れた二つの人影があった。
「やっちゃいなよ、ケント」
リヴァイアサンが壁にもたれかかって立っている。
「形勢逆転かしら?」
反対の壁際の椅子に、シヴァが足を組んで座っている。
「……お、お前ら、どこから」
二人をチラリと見た後、坊主頭の額に血管を浮かべながら俺を睨むライノ。
3人のゴロツキの注意を逸らしてくれた陰の功労者である少女は、ボーっと俺たちの方を見ていたのだった。




