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第41話 水と氷の精霊王との旅路②


 俺と水の精霊王リヴァイアサン、氷の精霊王シヴァの3人は、開発都市クロピオの降船場に到着した。



「なかなか、魔導船ってやつも楽しかったねっと」


 リヴァイアサンは元気だ。

 階段をジャンプして降りる。


「リヴァイアサン、落ち着きがないわよ」


 シヴァに注意されていた。

 この二人が一緒にいると、シヴァがお姉さん役といった感じだ。



 俺は、二人の後を追って魔導船を降りる。

 そして、降車場のすぐ近くにある待合所に入る。


 待合所は人で混み合っている。

 待合所の中心に目を向けると、大きな石像が立っているのが見える。


 筋肉質な若い男の石像だ。

 逆立った毛髪。

 猛禽類のような鋭い目。

 口元は不敵に笑っている。

 その右手には巨大な(つち)が握られていた。



「うわー。この石像、あいつだね」


「結構、特徴を捉えているわね」


 リヴァイアサンとシヴァが石像を見上げる。

 上から下までジロジロと見ながら話し始めた。



「あいつって?」


 俺が聞くと、二人は俺の方を振り返る。



「「雷の精霊王、トール!」」


 二人の声がそろった。



 雷の精霊王か。

 開発都市クロピオは地理的要因なのかは分からないが、雷がかなり多い地域らしい。

 従って、雷の精霊たちが住む場所と信じられており、実際、雷魔法使いも多くいると聞く。

 

 精霊王の顔は知らなかったけどな……。

 しかし、こんな石像が飾られているなんて。

 クロピオでは精霊王をしっかり祀っているみたいだな。



「何というか、ワイルドそうな精霊王なんだな」


 俺は石像を見上げながら言う。

 雷の精霊王トールの表情は、かなり攻撃的に見える。



「ワイルドって言うかねぇ……」


「戦闘狂って感じかしら?」


「空気を読めないって言うか……」


「喧嘩好きの馬鹿って感じ?」



 雷の精霊王よ、散々言われてるぞ……。


 戦闘狂ね。


 俺が炎魔法をぶっ放した時の、イフリートの楽しそうな顔を思い出す。


「イフリートみたいな感じか?」


「はぁ!? 何言ってんの? イフリートなんて超おだやかじゃん」


「イフリートレベルを思い浮かべて、トールと会ったら、ケントくん卒倒するわね」


 ……イフリートっておだやかだったんだ。

 

 雷の精霊王とは、お近づきにはなりたくない。


 そうしっかりと頭の中に刻み込んだ俺であった。



 ***



 俺たち3人はクロピオの街の中心部を歩く。

 不動産屋を探しているのだった。


「こりゃ、王都よりも人がすごいな」


 人口は王都の方が開発都市クロピオよりも多い。

 しかし、王都の整然とした街並みと比べると、開発都市クロピオは街全体がごちゃごちゃしている印象だ。

 市場のあたりなんて、特に人がごった返している。


 

 ふと、前方の人混みが、ざわざわと騒ぎ出したのが聞こえる。


「テメェ! どこ見て歩いてんだ! ぶん殴られてぇのか!」


 肩から腕にかけて傷だらけの筋肉質な男が、ガリガリに痩せた男の首元をつかんで、大声で怒鳴っている。



「おっ、喧嘩だ、喧嘩」


 リヴァイアサンが人混みの中を、見に行こうとする。


「やめなさい、リヴァイアサン。巻き込まれるわよ?」


 シヴァがリヴァイアサンの肩に手を置いて止める。


 人口が急激に増えているというだけあって、とても勢いを感じる街なんだけど。

 ……何と言うか。

 治安はあまり良くなさそうな印象を受けるな。



 俺たちはそのまま「ティモ不動産」と看板に書かれた店に入る。


「こんにちは。借家を探してるんだけど」


 俺がそう言うと、店の奥から男が出てきた。

 愛想良く笑顔を浮かべた、太った親父だ。



「いらっしゃいませ。えーと、3人ですかな?」


 店の親父は俺の顔をチラッと見る。

 リヴァイアサンを見る。

 シヴァに目をやると視線が止まる。

 シヴァをジロジロと見だした。


 わかるぞ、親父……。

 シヴァほどの美女に会ったら、ジロジロ見ちゃうよな。


 

 俺の視線に気づいたのか。

 ハッとした顔をして、俺に向けて誤魔化すように言う。


「……し、失礼しました。えーと、3人のご家族でしたかな?」


 あ、人間1人と精霊王2人なんだけど。

 まぁ、そんなことは言えないわけで。



「ええ、3人家族なんです」


 シヴァがにっこりしながら言った。

 流石、落ち着いたお姉さんシヴァだ。

 対応が早くて自然だ。


「そうですか。大変お綺麗な奥さまで」


 店の親父がシヴァを見ながら言う。


「娘さんも、とてもお可愛いですね」


 今度はリヴァイアサンを見ながら笑顔で言う。



 「なっ……!」


 リヴァイアサンが目を見開く。


 俺と店の親父は借家の打ち合わせを始める。

目を見開いたまま、固まっているリヴァイアサンは気にしない。



「……シヴァ姉、何、奥さんぶってるの?」


「その方が話が早いでしょう?」


「子供扱いされたんだけど……」


「子供みたいな行動ばかりしてるからでしょう?」


 後ろで二人がボソボソと小声で言い合ってるのが聞こえる。

 しかし、無視だ、無視!



 結局、俺は街の中心部からはちょっと遠い、郊外の広めの借家を借りることに決めた。

 俺はまた土木現場で働こうと思っているので、現場が街の中心部になるとは限らないしね。


 そして、何よりも庭が広めのところが良い。


 庭にサウナを作るのはマストなので、あまり人目につかない郊外の広い借家というのは理想的だったわけだ。



「ねぇ、借りる場所決まったなら、さっさと行こうよ。ここ、飽きちゃったかな」


 リヴァイアサンは、演技の必要もなく子供のようだった。


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