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第23話 魔獣の急襲②


 俺たちはカヤニ村の雪道を小走りで進む。

 俺の隣にはヨアキム爺さん、その後ろからイフリートがついてきている。


「それで、魔獣の群れは今どのあたりに?」


「この道をずっと進んでいった先……、村の北側のあたりじゃ。今は、魔獣の群れがカヤニ村に入らないよう、村の自警団が抑えているところでして」


 オレが尋ねると、ヨアキム爺さんは息を切らしながら答えてくれる。


「……旅の人、魔法使いであられるそうで。大変助かりますぞ……」


「どんな魔獣が現れたんですか?」


「……シルバーウルフが20頭ほど、確認できておるそうで……。ハァ、ハァ」


 そこまで速いペースではないが、ヨアキム爺さんはついてくるのが苦しそうだな。

 このままでは到着するまでに時間がかかってしまう。


「急いだほうがいいですね。先に行っていますので!」


 俺は風魔法の()()を使って、空中に浮かび上がる。


 後ろから「どひゃあ!」という、ヨアキム爺さんの声が聞こえた。



 俺は魔獣の群れが現れたという地点を目指して急いで飛んで行く。


 ここ数日の魔法訓練の甲斐があり、安定した飛翔が出来ていると思う。

 体勢を崩さないよう、かつ、なるべく速いスピードで飛行できるよう、慎重に魔力を調節する。


 ちなみに、ヨアキム爺さんと一緒にイフリートも置いて、一人で飛んできている。

 契約した精霊は、いつでも契約者の紋章から発現することができるため、頑張ってついてくる必要もない。

 到着してから出てくれば良いというわけだ。

 

「おっ。あの辺りだな」


 上空から見ると、槍を持った自警団らしき集団が、村の入り口に集まっている。

 ざっと見た感じ、30人ほどはいるだろうか。

 

 その先の林の中に、白い狼の背中がちらほらと見える。

 シルバーウルフの群れは、林に紛れて自警団の様子を伺っているようだ。



 俺は上空から自警団のそばへ着地する。


 ……うん、綺麗に着地できたかな。


 頭から雪山に突っこむことはもうないのだ。


 すぐに、イフリートが俺の左胸の紋章から出て来た。


 自警団の人たちは、シルバーウルフとの睨み合いをやめ、唖然とした顔で俺たちを見る。


 ……そりゃ、空を飛んできた人の紋章から、いきなりパッと見は人間のイフリートが出て来たら驚くわな。


「……なんだ? 老人ばかりではないか」


 イフリートが自警団の人たちを見回しながら、無遠慮に言う。


 しかし、イフリートの言うとおりであった。

 自警団の中には若い男は一人もおらず、老人たちが長い槍を抱えている。


「皆さんの加勢に来ました。見てのとおり俺は魔法使いです。この中に魔法使いは何人いますか?」


 俺は自警団を見回しながら聞いてみる。


「……おらん」


「えっ?」


「……魔法使いは一人もおらんよ」


「……そうですか」


 若い男もいなければ、魔法使いも一人もいないというわけだ。

 辺境の村の自警団なんて、こんなものなのだろうか。


「では、俺が魔獣の相手をしましょう」


 一緒に戦ってもらったとしても、動きが悪くて逆に魔物にやられそうになれば、守るのも大変そうだしな。



 俺はシルバーウルフの群れに、一人で向かって行くのだった。


「寒いところに住んでいる魔獣だからな。この俺の炎魔法が一番有効だぞ!」


 後ろからイフリートの声が聞こえる。


「ああ、わかった!」


 俺は振り返らずに返事をする。


 精霊は人間に魔法の力を与えるが、人や魔獣の戦いに直接参加することはない。


 ヨアキム爺さんは、シルバーウルフは20頭ほどいると言っていた。 

 狼は木々に紛れており、全てを見通せるわけではないが、概ねそれぐらいの数がいるような雰囲気を感じる。


 遠距離から炎魔法をぶっ放すのが、一番手っ取り早くはあるんだけど……。


 問題は、狼たちが密集した木々に紛れ込んでいることだ。


 あんなところに炎魔法をぶっ放したら、たちまち山火事になってしまいそうだ。


 山火事になったらなったで、水魔法をお見舞いしてもいいんだけど……。


 まぁ、そこまで遠距離戦闘にこだわらなくても、今の俺なら大丈夫だろう。



 林の手前が少し開けた空き地になっており、俺は空き地の真ん中の辺りまでゆっくりと歩いていく。


 すると、俺の様子をジッと伺っていた狼たちが少しずつ俺の周りを囲み始める。


「おい、兄ちゃん、何をやってるんだ! シルバーウルフに囲まれて連携攻撃をされたら一溜まりもないぞ!」


 後ろの自警団の方から焦った声が上がった途端、狼が5頭まとめて襲いかかってきた。


 正面、右、左、とまず3頭が、俺の視線を隠すように高く飛びながら襲いかかってくる。


 そして、その後ろに隠れるようにして、2頭の狼が低い軌道で襲いかかってくるのが見える。

 

 ……まずは、バックステップだ。 


 俺は風魔法を使い、後方に素早く引き下がる。


 狼たちは標的を失って、バランスを崩す。

  

 俺は、狼たちの方に右手を向ける。


「火球!」


 俺は手の平より一回りほど大きい炎の球を5つ作る。

 それを狼たちに向かって順番に放つと、風魔法を使って一気に加速させる。


 ーーボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!


 ーーキャイン、キャイン!


 ……よし。

 ちゃんと火球をコントロールできたぞ。


 火球に当たった狼たちは、地面に真っ逆さまに落ちていく。

 そして、よろよろと起き上がると、急いで林の中へと逃げ出していく。


 俺を取り囲んでいた他のシルバーウルフ達も、俺の火球に怖気づいたようだ。

 互いに目を見合わせると、同じように林の中に逃げていくのだった。



 俺は逃げていくシルバーウルフの群れを見送ると、自警団のいる村の方へ向かって行く。


「うむ。無駄のない、美しい魔法の使い方だったな」


 俺の魔法の師匠であるイフリートは満足げだ。


「兄ちゃん、すごいな!」


「炎属性と風属性が使えるのか!」


 自警団の老人たちが俺を取り囲む。


「兄ちゃんさえいれば安心だな」


 老人の一人が、俺の肩を叩いたとき。


 ーーガサッ、ガサッ、ガサッ、ガサッ。

 

 突然、シルバーウルフの群れが逃げていった林の方向から、何かが動く音が聞こえてきた。


 ……さっきの狼達よりも大きな音だ。


 俺は林の方を振り返ると、目を凝らして林の中に現れたモノを見るのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公が放ったのは…火球!…と言う名の…フィンガーフレ○ボムズ!!?
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