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第15話 地の精霊王タイタン②


 地の精霊王タイタンは人間の姿のイフリートを厳しい目つきで見下ろす。


 これに対し、イフリートは作戦をしっかり思い出そうとするように手を顎に添え、目線を上にやる。

 少し頭を整理した様子で、淡々とタイタンに話し始める。


「……不器用ではないと。では、お前はすぐに洞窟が作れるか? 洞窟内の高さはオレの身長の1.5倍ほどだ。入り口は狭く、入ったら左右に段差が3段ずつあって、1段の高さは膝丈より少し低いぐらいだぞ。お前、そんなものはすぐに作れないだろう?」


 ……だから、イフリートさ。

 不自然すぎるって。

 そんな説明調で、ケンカを売っても駄目だろう。

 さっきもそうだったけど、演技力ないんだから。


「……馬鹿にするな、イフリート。お安い御用だ」


 ……いや、タイタンもね。

 イフリートのセリフを不自然に思わないかね。


 タイタンが右手を地面に向ける。

 地面が突然、盛り上がったかと思うと、


 ーーゴゴン、ゴゴン、ゴゴン。


 地の精霊魔法によって、あっという間に洞窟型のサウナが出来上がる。



「じゃあ、地面に四角い穴は掘れないよね! 深さはね……。えーと、ケントよろしく」


 水の精霊王リヴァイアサンは、少し物覚えが悪かった。


 ……こうなれば、やけくそだ。


「俺が背筋を伸ばして座ったら、顎先が指一本分入るぐらいの深さで、四方は俺が両手を広げたぐらいの幅の精密な四角形だぞ。出来ないだろう!」


 俺はタイタンに向けて両手を広げながら言う。


 湖にザブンと潜るのも最高だけど、俺は静かな水風呂も好きなのである。

 水中に潜るのがマナー違反の水風呂では、俺はしっかり首筋まで冷やしたいタイプなのだ。


「……朝飯前だ」


 タイタンの地魔法によって、あっという間に石造りの水風呂が出来上がる。



「てめえ、この木偶の坊! 口から水を吐き出す獅子の石像は作れないですよね! とんだグズ野郎です!」


 風の精霊王シルフィードは辛辣だった。


「……貴様だけは凄い剣幕だな。彫刻など、自分の一番の得意だ」


 水風呂の横に、石造りの獅子の像が出来上がる。


 細かいところまで繊細に作り込まれた石像だ。


 背中に水を貯められるような構造になっており、獅子の口の部分とつながっているようだ。


 石像の口からチョロチョロと水が出せる構造になっているわけだ。

 

 ……まぁ、獅子の石像は別に必要ではないけどな。


 しかし、地魔法を使いこなすと、これほど繊細な作業が出来ることがわかった。



「よーし、すぐに出来たな! では、みんなでサウナに入るか!」


 イフリートは上機嫌で服を脱ぎ始める。


「……貴様ら、謀ったな」


 地の精霊タイタンは、すぐに騙される奴だった。



 イフリート、リヴァイアサン、シルフィードと俺の4人は、ぞろぞろとサウナの中に入っていく。


「作戦、大成功だね!」


 リヴァイアサンが振り返って笑顔で言う。


 そうなのかな? 

 確かに洞窟サウナは出来たけどな。


「タイタンだけ、外においてきちゃったけどな。何か難しい顔してたような気もするけど」


 俺は早速、石を積んで、炎魔法で熱し始める。


「オレたちが気持ちよさそうに、楽しそうにしてるのを見れば、どんな精霊王でも黙って見ていられまい」


 イフリートが確信しているかのように言う。


 彼らの言う作戦どおりならいいんだけどね。   

 まぁ、俺は俺で、せっかく完成した洞窟サウナを楽しむだけだ。


 しかし、その後、水風呂に入っているときも、外で涼んでいるときも、タイタンはこちらを静かにじっと見ているだけだった。



 ***



 そして2回目のサウナ内だ。


「タイタン、着いてこないです……」


「少し作戦を変えなければならんか」


「じゃあ、タイタンの作ったものを褒める、作戦第二だね!」


 精霊王3人が話し始めるが、俺は洞窟サウナに集中し、この時間を堪能する。


「……石造りのサウナもいいなぁ。壁からじっくり熱を感じるのがたまらないな」


 ポルボ湖畔に建てた俺のサウナは安く仕上げた木造であるため、もちろん壁の断熱などは考慮されていない。


 同じぐらいの温度でも、石壁から放出される熱を感じると言うか、じっくり体の芯から温まるような感覚があるのだ。


 精霊王3人は一瞬俺の方をチラリと見たが、再びガヤガヤと作戦会議を再開したのだった。


 

「素晴らしいサウナだったな! あれほどのものを即座に作れるとは、凄い地魔法だ!」


 サウナを出てすぐに、イフリートが大袈裟に声を上げる。


 タイタンはイフリートをじっと見る。


「この水風呂も寸分の狂いもない平面で出来てるね。すごい技術力!」


 リヴァイアサンが水風呂を褒める。


 タイタンは無表情でそれを見る。


「この獅子の石像なんて、今にも動き出しそうな迫力です! 芸術のセンスもありますね」


 シルフィードが石像を両手で撫で回しながら言う。


 タイタンは時が止まったかのように、微動だにせずそれを見る。

 


「タイタンのやつ、全然乗ってこんな」


「乗ってくるまで、何回もサウナに入るしかないかな?」


「ぶっ倒れるまで、やる覚悟です」


 精霊王3人は外で涼みながら、また作戦会議をしている。


「おいおい、みんな。サウナってそういうものじゃないだろう」


「……むむっ」


「無理してサウナに何回も入るのは駄目だ」


「ううっ、そうでしたね……」


「俺がタイタンに声をかけてくるよ」


「えっ、ケントが行くのかな?」



 俺は立ち上がると、さっきからずっとこちらを見ているタイタンに向かって歩き出すのだった。


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