第10話 水の精霊王リヴァイアサン③
俺たち三人は横並びで座りながら、ポルボ湖を眺める。
ポルボ湖畔の涼しい風が身体中を撫でる。
「……風が気持ちいいね」
リヴァイアサンは、目を細め、水色の髪をかき分けながらつぶやく。
「……血液が身体のすみずみまで行き渡ってるような、不思議な心地よさだね」
ふと、リヴァイアサンの肩を見ると。
その肩に、青色の紋章のようなものが浮かび上がっているのが見える。
そう言えば、イフリートもととのった時に、胸のあたりに炎の紋章が浮かび上がっていた。
……なるほど。
精霊王はととのうと紋章が浮かぶものなんだな。
「そういうときに、ちょうど良い言葉があるんだよな。ケント」
イフリートは俺を見て、にっと笑う。
「ああ、こう言えばいい」
俺もイフリートを見て、ニヤリと笑う。
「「ととのったー!!」」
俺たち二人の声がポルボ湖に響く。
「……なにそれ?」
リヴァイアサンは俺たち二人を見て、呆れたような顔をしながら微笑む。
リヴァイアサンは正面を向くと、大きく息を吸った。
「ととのったよー!」
リヴァイアサンの声も、ポルボ湖に響きわたった。
ポルボ湖は陽光を反射し、水面がキラキラと輝いている。
「ととのいを感じるときは、普段なら気づかないような音を感じたり、感覚が鋭敏になったりするんだ」
精霊王の二人は黙って俺の話を聞いている。
「俺は特に太陽の光を反射して様々な美しい模様を見せる、この水面が好きなんだよな」
ととのった状態の俺は、ついつい恥ずかしげもなく語ってしまうのであった。
「ふふっ」
リヴァイアサンが俺の方を見て小さく笑う。
「……ねえ、ケント。私と契約しようか」
リヴァイアサンが微笑みながら小首を傾げて言う。
……うっ。
不覚にもドキッとしてしまった。
美女に微笑みかけられながら、こんなことを言われては仕方がないと思うが。
「……なっ! ケントは、オレと契約してるんだぞっ」
イフリートが横入りしてくる。
「なに? 精霊は一人しか契約できないなんて決まりはないでしょ」
リヴァイアサンは、イフリートの言うことなど気にも留めていない様子だ。
確かに、2つの属性の精霊と契約している人間も、王国にいることはいる。
かなり珍しい存在ではあるようだが。
……まして、二人ともただの精霊ではなく、精霊王だけど。
「……まぁ、水魔法が使えれば、どこでも水風呂が作れるようになるだろうし、契約してもいいかな」
俺はリヴァイアサンに向けて言った。
「……ケントは変な奴なんだよ。」
「……変な人間だね」
二人は呆れ顔で目を合わせる。
精霊王と契約できることになると、普通の人間なら、どんな反応をするのだろうか。
精霊王に畏敬の念を示す?
あるいは、感激のあまり涙を流す?
そんなことは、どうでも良い。
俺は、炎魔法はサウナを温めるのに使う。
水魔法は水風呂を作るのに使う。
今考えているのは、それだけだ!
「まあ、いーや。じゃあ契約だね!」
「ああ、いいぞ」
リヴァイアサンは左手を開くと、空中に水滴のような形をした青色の紋章が浮かぶ。
青い紋章は光を放ちながら、俺のほうに向かってきて、……俺の左胸に吸い込まれるように消えていった。
そして、光の吸い込まれた自分の左胸を見て……。
俺は地面に右膝をついた。
左胸の紋章が、格好良すぎるのである。
中二病の少年ならば、垂涎の仕上がりなのである。
俺の左胸には、炎の紋章の横に、競い合うような形で水の紋章がはっきりと浮かんでいた。
「うむ。なかなか美しい紋章ではないか」
「だよね」
そんな俺の心中など知らず、二人の精霊王は俺の左胸に浮かんだ2つの紋章を褒めるのであった。
【スキル】
ケント(中山健斗)
•炎属性 精霊王級魔法
•水属性 精霊王級魔法
 




