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1.事のあらまし(4)

ご無沙汰しております。

3年前、現国王が病に倒れ、しばらくして王宮の一角に突如聖女が現れた。遠い昔、国の危機に際し現れるといわれた黒髪の乙女は、その美しさと歌声で万民を癒し、穏やかな国を創造したという。賢君と言われた現国王が倒れ、一気に混乱した国政だったが、突然現れた聖女の歌声で落ち着きを得たことにより、穏やかで平穏な日々を取り戻したのである。


現国王が倒れる半月前、この国の王太子は国王の命で外国へと留学していた。父王が倒れた際に帰国を試みたが、「道半ばで帰国してはならぬ」という病床の王の意思に沿い、彼は予定通り留学を続けた。

そして、混乱の中現れ、国に平穏をもたらした聖女は、次期王妃となるべく、王太子の婚約者となることが宰相をはじめとした国の中枢で決定された。その時、現国王は病に倒れて1年が経ったころであり、すでに病床から起き上がることができず、国の実権は中枢が握っていた。


その決定に異を唱えたのが、すでに王太子の婚約者であったセレスティナの生家、アストライア公爵家であった。

そも王が病床に伏しているにもかかわらず、国政の要事を宰相はじめ国の中枢だけで決定することに異議を唱えた。王の意思を待たず、議会の承認にて決めることは急を要する事案だけに絞っていたのに、1年かそこらで今後の国政を左右する王太子妃のすげ替えを勝手に決めてしまったのである。

当時、議会の場で宰相はアストライア公爵にこう告げた。


「国王陛下が病床にある今、王太子殿下が帰国した暁にはすぐにでも王位を継承されるだろう。そのために陛下も留学を半端に辞めず続けるよう殿下におっしゃったのだ。王妃殿下がすでに身罷られ、一人で立たれる王太子殿下を支えるには、通例を覆す有力な王太子妃が必要だと、我々は考えるが?」


宰相はさもありなんといった体である。その言葉に公爵は方眉を上げる。


「この国の成り立ちから、わがアストライア家から3代に1人王妃を輩出することは必須であるはず。このしきたりは一度たりとも覆ったことはなかったはずだ。かつて聖女が現れた時も、婚約者のすげ替えなど行われなかった。かつて国を興した神々のしきたりを、王の意思なく変えてよいのだろうか」


その言葉を聞いた宰相の目が揺らぐ。はじめ、公爵は自分の発言で考えを改めたのかと思ったが、再び顔を上げた宰相の目が赤黒く濁っていることに気づいた。


「…古の神々のしきたりなぞ、もはやこの国に必要でしょうか。混乱の中、歌声一つで万民を癒した聖女を、国母としない理由がありましょうや。王の意思なくとも、今やこの国の中枢がこの国の意思。これを覆そうと画策することは、国家反逆ととらえてもおかしくないのではないですか…?」


「な…なんという…」


あまりの暴論に公爵は混乱した。公平を擬人化したような人物だった宰相が、急にこのような発言をとったからである。

いや、王の判断を仰げない今、公平を保った発言ではある。しかし、この国では王は神の末裔であり、その意思には常人では判断できない神の意志が宿っているのだ。

それを無視した宰相の発言は、公爵にとって驚きでしかなかった。


周りを見渡すと、ほかの議員も同じように、仄暗い瞳のまま宰相への同意を示していた。


「アストライア公爵、これ以上の発言は反逆の意があるととるが、如何か?」


「…………」


公爵は沈黙によって異議なしを示した。


この国に名はなく、特殊な盆地形の中に守られるように存在しつつ、周辺諸国とのつながりもある。そしてこの国は興国の時より不可侵を約束されており、領土を拡大せず、古のときから文明やしきたりを更新しながら同じ規模を保っていた。


それは、この国の起こりに由来する。この初代王とその妃は、天から参られた夫婦神であり、この国と地続きとなる広い大陸を興し、この国を神聖なる地と定めたのだ。

以来、この国は争いに巻き込まれず、ことを起こすことも許さず、時に防衛し、時に仲裁を行い、時に天災に助けられ、存在を保ってきた。

記録にある限り国が興って千年以上経つが、すでに世界は共通してこの国を神の造りし国と定め、大陸の礎として“侵してはならぬもの“と認識している。


この国の公爵家は2つあり、一つはセレスティナが生まれたアストライア家、もう一つはアーロンの従兄弟がいるイレイナ公爵家である。イレイナ公爵家は先代の王弟が臣下に下ったことで新たに興った公爵家であり、古くからの公爵家は実質アストライア家唯一だ。

アストライア家は、興国の頃から存在する由緒ただしき貴族家であり、初代王妃が始祖と言われている。神々の血を末永くつなぐため、妻であった女神は夫である男神の元を離れ、アストライア家の始祖となった。以来アストライア家から3代に一度、王家に娘が輿入れするしきたりだった。


王家では、アストライア家からの輿入れまでの合間の2代でそれぞれ国内の貴族令嬢や周辺諸国の王女を迎え、神と人の血は都度交わりつつこの国の根幹を作り上げてきた。アストライア家も同様に、代々他の貴族から婿や嫁を迎えつつ、脈々と血をつないできた。

セレスティナはその3代に1人の王太子妃候補であり、当代唯一の公爵令嬢であった。


そうしてこの大陸全土が認めるしきたりと”ルール“を、中枢は聖女の存在だけで覆そうとしているのである。明らかに、おかしな状況であるのに、まともな人間が一人も存在しない。否、中枢には公爵以外に誰もいないのだ。


帰宅した公爵は、隠しても仕方ない、と娘であるセレスティナに婚約破棄の件を告げた。

その時、公爵の妻であるミスティナも同室にいたため、同時に報告することとなったが、すべて聞き終えたミスティナは顔を真っ青にして気を失ってしまった。


「…ミスティナにはまだ言うべきではなかっただろうか」

「お母様は緊張に弱いですから…」

そういう当の本人は、残念そうな顔こそしているが、一切取り乱さず淡々と公爵の話を聞いていた。

「…セレスティナから異議や抗議はないのか?」

そう問うと、困ったような…さみしそうな顔をして告げた。

「生まれた時から決まっていた結婚でしたから、この先どうしたらいいかわかりませんが…アーロン王太子殿下とは、いずれまたお会いできますでしょうし。聖女様がこの国に安寧をもたらしたのも事実。わたくしは、潔く身を引きますわ」

そうしてふわりと微笑み、セレスティナは婚約破棄を受け入れたのだった。



改行のタイミングがつかめず、読みづらくてすみません。スマホで見返して、ちょこちょこ直そうと思います。

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