42 これで最後の一つですね、お兄様!
最後のアヴィアンヌのパーツ。
それは、花畑だった。
しかもただの花ではない。
夜になって月の光を浴びると青色に光るという、美しい花畑。
ラキール王国の端の端、深い谷の底にあるはずだ。
ただ、今までと違って建物ではなく、土地そのものが落ちたような形なので、損傷が激しいかもしれない。でも、しっかり回収しようと思う。
ファニーを助けながら洞窟を進む。
途中、何度か魔獣と遭遇したが、そこはすべて魔術で倒した。
「ファニーに聞きたいことがあるんだけど、いいかい?」
「どうしたのですか?」
「ファニーは、お家に帰りたいと思うかい? アヴィアンヌじゃなくて、ティーゼ家のほう。そこには、僕以外の血のつながったお祖父様がいたり、たくさんの使用人たちがいるんだ」
「ファニーは、いつでもお兄様と一緒にいたいです!」
ぎゅっと服を掴んでくるファニー。
「それに、ファニーは誰のことも覚えていないので、あんまり良くわからないです」
「うん」
「でも写真を見たとき、あったかいなぁと思いました。メイドさんの笑顔とか、お父様とお母様の笑顔とか」
「うん」
「だから、最後はお兄様に決めてほしいのです」
ヴェルデライトはまだ迷っていた。
ティーゼ家に帰るか、アヴィアンヌに乗って旅を続けるか。
「アヴィアンヌを完成させて世界中を回るという夢なんだけどね」
「はい」
「実は、もう叶ったようなものなんだ」
「え?」
「あの雪深い森でグラスさんやリタさんに出会って、歴史の街でアンベルクさんやフレッド君、ロイスさんに出会って、ドラの国ではリルムさんやニーチェさんに出会った。とても楽しかった。だからそろそろ、僕も昔のやり残しを片付けないといけない」
昔のやり残しとは、火事の日に家を飛び出したこと。
誰にも何も言わず、いたずらに心配だけをかけた。
自分もいい年だ、ケジメをつけないといけない。
「お兄様…………」
「大丈夫、ティーゼ家の人たちはいい人たちばかりだ。お祖父様は気難しい人だけど、きっと快く受け入れてくれるはずだから」
安心させるためにファニーの頭を撫でる。
「これからもずっと一緒だ。頑張ろう、ファニー」
「はい! ファニーは、お兄様にずっとついていきます!」
ファニーの笑顔を見るだけで心が癒やされる。
本当に、妹がいなければどうなっていたことか。
──両親を殺されたから、もっとグレてただろうな。
今の自分がいるのは、妹のおかげ。
「そろそろ外に出るね」
眩しさに目を細めていると外に出た。
千里眼で確認してみると、崖の上に花畑がある。
そらくあれだ。
「よし、じゃあ僕に掴まって」
「待ってください、ファニー、ちょっとやってみます!」
そう言って、ファニーは「ふぬぬぬ!」と拳に力を入れ始めた。
そうすると、妹の足が地面から浮いた。
バケツ一個で息切れしていたのに、ここまで浮遊魔術を上達させていたなんて驚いた。
「で、出来ました…………ひゃぁ!!」
「落ちるよ?」
危うところでキャッチ。
「えへへ。ごめんなさいです」
「いいよ。僕が見ててあげるから、上まで行こう」
「はいなのです!」
ファニーが己の浮遊魔術で体を浮かび上がらせた。
その様子を注意して見つつ、ヴェルデライトも上昇する。
登りきると、美しい花畑が一面に咲き誇っていた。
「キレイなのです…………」
「アヴィアンヌのお伽噺の中に、光る花畑があるんだ。これのことだよ」
「そうなのですか?」
どうせなら、夜になるまでここで待つことになった。
持ってきたサンドイッチを食べながら、暗くなるのを待つ。
「ねえお兄様」
「なんだい?」
「最後のパーツを集めたら、ぜひしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「いいよ」
「アヴィアンヌにある街に、今までお世話になった人を全員呼びたいと思っているんです。いいですよね? お兄様」
ファニーが言っているのは、アヴィアンヌの中央部分にある街《忘れられた繁華街》のことだ。
──空飛ぶ城が、多くの人々を街ごと運んでくれたら。
そんな空想で造り上げた、かつての賢者の産物。繁華街らしく楽しげな雰囲気にしよう。多くの人が住んだら、毎日花火をあげてお祭り騒ぎをしよう。
そんな思いで作った街なのだが、今まで誰も住ませたことはない。
前世では、完成間近で死んでしまった。
だから今世で、お世話になった人を呼ぶのは名案だ。
「うん」
「やったのです!!」
そうこうしていると。
夜。
月の光だけが支配する世界で、その花々は可憐にも気高く咲き誇っていた。
青々と輝く幻想的な光景。
「よし、じゃあアヴィアンヌに戻ろうか。今からみんなを集める準備をしないと」
「はいなのです!」




