04 どうしようお兄様、リタちゃんが大変なのですっ!
休憩をはさみながら、ヴェルデライトたちは棘森の奥へと進んだ。
魔獣除けの結界石が設置されているのだが、森の奥地にはそれもない。まさに秘境だ。
吹雪けば方向感覚が分からなくなり、遭難というのもありえる。
「ここからは多少の危険が伴います。僕もそれなりに注意しますが、完璧な安全は保証できません。よろしければ、グラスさんはリタさんと一緒に戻ってください」
「何を今さら言うんだよ。じいちゃんが言ってた大昔の神殿ってのがあるかどうか知りたいしな。リタもそうだろ?」
「探検したーいっ!」
手を上げて訴える小さな女の子に、ヴェルデライトも苦笑い。
「杞憂でしたね。では、先に進みましょう」
グラスとリタが乗る荷車が進み、ファニーもたぬ吉を進ませる。
ヴェルデライトはというと、たぬ吉と並ぶように走っていた。
脂肪燃焼のために。
「張り切りすぎると明日の筋肉痛がやばいぞー。無理すんなー」
「だ、だ、大丈夫ですっ! 僕は兄としてっ、当然の責務を果たしているだけなのでっ! け、決して無理など、してませんっ!!」
歯を食いしばりながら雪道を行く。
魔術での身体補強はいっさいなしだ。
がちんこで己の筋肉と向き合っているのだから、貧弱賢者には中々キツい。
「あいつ、けなげだなー」
「師匠のお兄様は、けなげで凄いのだー」
「だなー」
──そのとき。
荷車をひく獣人族のミミとメメが、唸り声をあげた。もがくように身を捩ったかと思えば、思い切り首をしならせる。ガンッという衝撃が荷車を襲い、グラスの体が大きく傾いた。
「どうした!? ミミ、メメ、落ち着け!!」
「お父さん。ミミとメメ、どうしちゃったのっ?」
「分からんっ。……っまずい! リタ、父ちゃんに捕まるんだっ!!」
暴れまわるミミとメメが、鉄製のリードを大きくしならせた。
ギチギチという奇怪な音とともに、首輪とリードの繋ぎ目が引きちぎれる。衝撃で荷車が勢いよく滑っていく。
「うわぁぁあああ!」
「グラスさんっ、リタちゃん!!」
「ファニー動くな! ……ヌシ様のお通りだよ」
雪が波立つ。
隆起したそこから、魚のような鱗が顔を出した。
ありえないくらい、でかい。
「ファニーとたぬ吉はその場で待機! 僕はグラスさんとリタさんの様子を確認してくるよ」
浮かび上がるヴェルデライト。
空から二人が乗った荷車を追う。
──おかしいな。リタさんの気配が近くにない。
その気になれば半径数十キロ圏内にいる人間はすべて把握できる。居場所の特定など簡単なはずだ。なのに。
「グラスさん!」
「ヴェルデライトさん!! しくじった、リタが雪魚に連れ去られた!!」
──どうりで。
とりわけ柔らかい雪を好むという、雪のなかに棲む魚。
縄張りに入ってきた動物を雪の中に引きずり込む特性がある。そのくせ、魔術で探知しにくい魚だ。雪深くに潜られれば、すぐにはリタを探せない。
「どうしよう!! リタが、リタがっ!!」
「凍死することはありませんから、安心してください」
ここに来る前、ヴェルデライトは全員に寒さ対策を施した。
火の加護だ。
もっとも得意な火系統の魔術の一つ。たとえ雪の中に引きずり込まれても、体温の低下を防ぐことができる。
「探しだします」
「できるのか?」
「五分、いや……三分いただければ」
ファニーとたぬ吉に気を取られすぎた。
自分の不注意が招いた事故だ。
責任をもって助け出す。




