14 わぁすごいのですアンさん、お胸がおっきい……
一時間後──
「おっふろなのでーすっ!」
スキップでもしそうなほど、ファニーの心は弾んでいる。
なんとなんと、今日の入浴は一人ではないのだ。“親友”のアンベルクと一緒に入れる。
──えへへ、親友かぁ。親友。親友なんだぁ。
二番目にできた友だちが、親友。
本の世界でしか見たことがない。友だちのなかでも、心を通わせ、絆を深めあった人同士じゃないと親友と呼べないらしい。
嬉しすぎて、ファニーのにやにやがとまらない。
だらしのないほっぺたが、さっきから緩みっぱなし。
アンベルクのような大人びたレディになりたいのに、顔が引き締まってくれない。
「えへへ…………」
「なにがえへへなの?」
「ひゃぅ!?」
脱衣所に入った瞬間、まぶしい桜色の肌をさらしたアンベルクの姿が。
すでにいるとは思っていなかった。思いのほか素っ頓狂が声が漏れる。
「なに驚いてるの? 女同士でしょ?」
「ふえ!? だ、だだだだって、こうやって一緒に入るの、は、初めてなのですっ!」
「あら、そうなの。ふふ、さあ早く入りましょ? 脱いで脱いで」
あれやこれやと言っているうちに、服を脱がされ、生まれたままの姿に。
年相応以上に成熟しているアンベルクとは違い、ファニーのソレは小さなさくらんぼのよう。
おしとやかな双丘を腕で隠していると、黒髪乙女のにやついた顔が近づいてくる。
「うふふ。ファニーちゃん可愛い……」
「あ、アンさんが脱がしてくるのが悪いのです!! 早く入りますよっ!」
「あらあら、そんなに急いじゃって。可愛いなぁ……。あのお兄さんのベタ惚れ具合も、頷けるわね」
二人が入ったのはお風呂は、大きかった。
共用お風呂のはずなのに、珍しく誰もいない。時間帯のせいだろうか。なんにせよ、ファニーにとっては嬉しいことこの上ない。これなら飛び込みジャンプだって余裕だ。
「いやっほう!!」
「うわっ!」
津波が沸き起こり、アンベルクの顔がびしょ濡れに。
「大人びたレディになるんでしょ? これじゃあお兄さんもガッカリなさるわね」
「え!?」
──それはダメなのですっ!
「い、いいい今のはナシなのです!! 時を戻すのですっ!!」
「戻せないでしょ……っと」
湯船につかって、アンベルクが一息。
大人しくなったファニーが、その隣に座る。
「ファニーちゃんって、綺麗な髪よね。燃えるような、情熱的な赤い髪。太陽の光に照らされると、きらきらと輝いて見える。羨ましいぐらいだわ」
「そ、そんなことないですよっ!? アンさんだってすっごい綺麗な黒髪じゃないですか!」
「そう? ありがと、実はこれでも自分の髪は気に入ってるのよ。お母様と同じ色だから」
「お母……さま……?」
「そう、お母様。病気でね、三年くらい前に亡くなっちゃったの」
母親が亡くなるというのは、きっと、ファニーにとって兄が死んでしまうのと同じくらい悲しいものなのだろう。
「『星の見下ろす塔』はね、お母様が大好きだった場所なの。昔は、この街もそんなに大きくなかったの。あの塔の上から満点の星空が見えたらしいわ」
「お星さまなら、ファニーもいっつも見てますよ?」
「空の上だと毎日綺麗に見えるかもね。──星が好きなお母様は、あの塔でお父様と出会ったらしいわ。とってもロマンティックだと思わない?」
「なのですー」
星がよく見える場所で、二人は出会った。
あの怖いおじさんが昔、絵本のような恋をしていたのかと考えると、何だか不思議な気分になる。そして同時に、そんな思い出の場所を彼から取り上げるようなことを、していいのかと、ファニーは思った。
「いま、ちょっと遠慮したでしょ? 《パーツ》の回収するのは諦めようかなって」
「こ、心が読めるのですかっ!?」
「ファニーちゃん、分かりやすいんだもの。誰だって分かるわよ」
ぷにぷに、と。
アンベルクがファニーのほっぺたを突いた。
「お母様が亡くなってから、お父様は仕事浸りになったの。もとから優秀だった兄様には当たりが厳しかったんだけど、より激しくなったわ。おかげですっかり親子の仲が冷え込んじゃって」
そういえば、フレッドは父親のことを親父と呼んでいた。
口調も荒かったし、本当に仲が悪かったのだろう。
「目を覚まさせてあげてほしいのよ。お父様は過去に囚われるあまり、周りが見えていないの。だから手伝ってほしいの。ファニーちゃんとお兄さんに、兄様とお父様が仲直りできるように」
「ふぁ、ファニーもですか!?」
「ファニーちゃんならできるわ! 私が保証する!!」
「……分かったのです! アンさんが困っているのなら、頑張るのです!!」
「やったわ、ありがとー!」
「わひゃぅ!?」
正面から抱きしめられた。
──や、や、柔らかいのです……。
胸とか、胸とか、胸とか。
本当に胸が大きい。どうしてこんなに大きいのだろうか。あと二年も経てば、こんなに大きくなるのだろうか。
「ど、どうしたのファニーちゃん」
「さっきのお返しなのでーす!!」
──いざ、こちょこちょ攻撃っ!
「ひゃう……っっっ!?」
──すごいのです、この手に吸い付く感触……!
──柔らかいのに弾力があるのです……!
──むぅ、やっぱりアンさんはファニーの目標なのです!
「にゃっ、……こ、しょ…………ばいっ!! あっはっ!」
浴室では、しばらく乙女の笑い声が響き渡っていた。




