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2-1 西の防備を強化する


「王国への反旗は、これで決定的となりましたな。幸いにも取入れの後、凶作とはいえ例年の4割程度の収穫を得ております。領民がすぐに飢えることはありますまい。コーデリア家への税は見込めませんが、早めに確保したライムギ100袋を使えばなんとかなるでしょう」

「備蓄食料の2個中隊半年分も使えますぞ。武器の在庫も十分です」


 最初の戦に勝利したが、相手が相手だからね。2個分隊程度で苦戦しているようでは先が持たないだろう。


 城の会議室が私達の指揮本部として機能している。

 領地の地図をテーブルに広げて、ワインを飲みながらレブナン殿達の状況報告を聞いていた。


「やはり、兵員不足が問題だろうね。徴募兵を兄さん達に割り振ったと聞いていたんだけど?」

「ガロード達に15人というところです。レブナン殿に10人預けましたから、城勤めの連中と一緒に東の橋を守備しております。約30人になりますから、とりあえずは凌げるでしょう」


 ガロード兄さんが3人1組の兵を12組率い、サーデス兄さんは7組21人で南の橋に陣取っている。

 オーガスト殿は騎馬隊10人を率いて、西と南を睨んでいる状況だ。


「場合によっては、若の部隊も使わざるをえないでしょうな?」

「それなら、ガロード兄さんの北に配置すれば十分だと思う。橋から、100リオン(150m)離れて様子を見よう。戦闘が始まったなら橋の西に集まった兵士達を倒す」


 私の言葉に、オーガスト殿とレブナン殿が顔を向けた。少し驚いているけれど、私の部隊であれば容易なことだ。

 ライアン姉さんも笑顔で頷いているぐらいだからね。


「この場所から、攻撃するだと!」

「矢も届きませんよ?」

「200リオン(300m)は狙えるよ。300リオン(450m)先でも、当たれば致命傷だ。無理な侵略で兵を殺すだけの士官なら、少しは教育してあげてもいいんじゃないかな?」


 オーガスト殿がワインを一気に飲み干して、私を睨む。


「それなら、全員の武装を変えた方がよろしいかと」

「出来ればそうしたいところだが、かなり難しい話なんだ。私は霊廟で天使より神器を使うことを許されてはいる。だが、その威力があまりにも高いために天使が私に渡せる品数が少ない。現在の装備でさえ、整えるのに2年以上も掛かっているのだからね」


「若は、その武器でどれほどの部隊を作るおつもりで?」

「最大で1個小隊と言うところだろう」


 戦の頻度が少なければもう少し増やせそうだが、一応の目安はそれぐらいに思える。それだって直ぐには揃えられない。


「神の力をあまり期待できないということですか。それでも1個小隊まで膨らませられるなら今後に期待は持てそうです」


 ガロード兄さんはどう思うのかな? ライアン姉さん率いるライフル部隊が右手を守ってくれるなら、かなり善戦してくれるに違いないとは思うんだけどね。


「ところで、南から来た商人の話しですが……」

 

 レブナンの話では、ケニアネス領も凶作らしい。とはいえ、所領には交易港があるから、どうにか税を他国から調達できたようだ。

 そうなると、ケニアネス公爵が兵を率いて我が所領に侵出してくる可能性が、かなり低くなったということになる。

 しばらくは周辺貴族の動向を見守るつもりなのだろうか?

 父様達が斬首されたのは知っているのだろうが、いまだに沈黙を続けているのも気になるところだ。

 とはいえ、王国軍の迂回路としての所領通過は反対するだろう。村々を略奪させるようなものだ。


「現状では、南の橋から兵を引くことは出来んでしょうな。ワシの部隊が火消し役になります」

「私もいるよ。指揮隊を向かわせることは可能だ。馬車を用意しているから、迅速に介入できるだろう」


 だけど、全ての兵器を使いたくはない。それを使うことで、次の王国軍との戦に情報を与えることになりかねない。


 状況確認を終えた翌日。ライアン姉さんは、荷馬車2台と12人を引き連れて城を出て行った。

 敵の勢力が1個中隊を越えているなら、直ぐに伝令を走らせるように伝えてあるから、だいじょうぶだと思いたい。

 弾帯には銃弾が40発入っているし、250発の弾薬箱を2つ持って行ったから、中隊相手には十分だろう。

 

「行ってしまいましたね」

 私と一緒に塀の上で見送っていたマギィさんが小さく呟いた。声がちょっと沈んでるな。一緒に行きたかったんだろうけど、私達の出番はまだ先になる。

 とはいえ、準備は必要だろう。戦は水物とも言われてるからね。


「マギィさん。2番手の準備を頼みます。ライアン姉さんなら必要はないでしょうけど、万が一と言うこともありますから」

「直ぐに準備します。新たな3人も何とか使えそうです。すでに50発近い試射をしていますから」


 階段を駆け下りるようにして去っていく後ろ姿は、神官の資格を持った人とはとても思えない。

 2番手は私を含めて5人ということだな。

 新人の武装は、私より1つ年上と聞いて、カービン銃を渡すことにした。カービン銃なら15発を続けざまに放てるから、ライフル銃よりも多勢に対処できるだろう。取り扱いが面倒なのが問題だけどね。

 たくさん試射させれば使えるようになるはずだ。少しずつ増やしてカービン銃兵士を10人ほどにすれば色々と役立つだろう。

 そういえば、ショットガンも用意してあるんだよな。弾種が色々とあるようだから、拠点防衛に使えそうだ。

 そんなことを考えると、80kgの制限が問題になって来る。銃弾の補給がますます難しくなってしまう。

 

 少し肌寒くなってきたところで、自室に向かう。

 暖炉傍のベンチに腰を下ろして、ポットのお湯でお茶を作った。城には老人が残っているだけだ。自分の事は自分でしなければならない。


 翌日。城の会議室で朝食を取る。

 私の部隊と同じ朝食をマギィさんが運んで、一緒に朝食を取ってくれる。

 私1人の朝食では、あまりにも寂しいからありがたいところだ。

 

「いつでも出発できる状態で、訓練をしています。あれから、変化は?」

「今のところは何もない。便りが無いのは良い知らせともいうから安心しているんだが、こっちが気になりだしてるんだ」


 貴族の2番手は西の橋から来るだろうか? 来るとしても、陽動策を取らないとも限らない。南の橋はサーデス兄さんと20人の兵士なのが問題だ。

 一応、オーガスト殿が騎兵10騎で中間地帯にいるのだが……。できれば、村人の応援を頼みたいところだ。


「直ぐ北にある村から10人ほど応援を出せないかな? 槍と弓で十分だと思うんだが」

「弓の練習も出来そうですね。ラバを使わせてもらいます」

「ワインの樽があったろう? あれを小さな樽に入れて持って行っていいよ。塩漬け肉も使えそうだな」


 2個中隊が半年分と言うのは贅沢な兵站基地だ。使える物は使わせてもらおう。

 マギィさんが、朝食の食器を下げて部屋を出ていくのをお茶を飲みながら見送った。帰りにはライアン姉さんの陣を訪ねるだろうから、少しは状況が見えてくるだろう。


 その日の夕食時に、マギィさんが料理を運んできて、3つの陣の状況を教えてくれた。

 サーデス兄さんの部隊に、村人が12人加勢に向かったそうだ。数が増えただけでもサーデス兄さんは安心できるだろう。弓矢の訓練をその場ですれば、春には十分に弓兵として使うこともできるだろう。


「ガロード様の部隊は橋の東側に堅固な柵を2重に作っておりました。あれを破るには少々骨が折れるに違いありません。ライアン様の陣は、教えの通り柵の後方に麻袋を積み上げておりました。銃を用いる陣はあのような形になるのでしょうか?」

「銃を麻袋の上に置くだけでも安定するだろう? それに中身は土だから矢も防げる。ちゃんと屋根も作ったかな?」

「作ってありました。丸太を並べて、土をかぶせてましたけど」


 それで、矢が雨のように降り注いでも相手を攻撃できる。対岸で矢を放つなら十分に届いてしまう。

 屋根を大きく前に張り出せば、矢の弾道は放物線を取る以上、銃眼に飛び込む矢はないはずだ。


「これで、一安心かな。できれば私達の部隊がもう少し増えれば良いんだけど、武器が武器だから数を増やせないんだよね」

「トリニティ様はどれぐらいに増やそうと?」

「ライフル兵10人とカービン兵5人に指揮官が2人と伝令が2人、これを3つと考えてる。その他にライアン姉さんとマギィさんを含めた指揮隊が伝令を含めて10人というところだろう。それ以上に兵を増やすのは、天使の加護による神器の供給ができなくなりそうだ」


 ライフル兵1人が携行する弾丸は40発。各部隊に500発の予備銃弾を渡しておきたい。カービン兵は15発のマガジンを6個渡して、弾薬箱にマガジンを詰められるだけ持って行けば十分だろう。

 それら銃弾の維持だけで、一度に取り出せる総重量の半分近くになってしまいそうだ。

 これからの戦が人間相手だけとは限らないからな。大口径のライフルも早めに準備したいんだが、中々タイミングが取れないな。


 何事もなく、1か月が過ぎてしまった。

 おかげで、ライアン姉さんの陣地はちょっとした砦のようになってしまったし、ガロード兄さんの守る橋のたもとは、新たに柵が作られた。

 南のサーデス兄さんの方は、民兵の訓練に余念がない。今では弓の初級クラスにはなっているとまで私に伝えてきたぐらいだ。

 東のレブナン殿の方も、毎日弓の稽古に励んでいるらしい。すでに石橋には2重に焚き木を積み上げたようだから、東の備えは十分だろう。

 こんな状態で西に軍を進めるのは狂人のすることだ。元々凶作だから兵糧が不足しているだろうし、私の小さな王国でさえ、食料に余裕はない。侵略しても、村から食料が調達できなければ、再び東に戻ることになりかねないのは重々承知しているはずだ。


「来ませんね?」

 溜息混じりにマギィさんが呟いた。

「王国内部が揺れているのでしょうか?」


 レドニア小母さんは、私が兵士と同じ食事をしていると聞いて、東の砦から侍女1人と共に城に戻ってしまった。

 亡くなった母様に申し訳ないということなんだけど、私はそれで十分なんだけどね。


「それもあるでしょう。だが、父様の話では貴族が私兵を1個小隊常備する家は無いそうです。急遽民兵動員し、懇意の貴族同士が連合を組んだとしても、せいぜいが2個中隊。訓練された王国軍2個大隊が相手では勝ち目はないと思いますよ」

 税の減免を国王が許したなら、先を争ってコーデリア領内に攻め入ることになると思うんだけど……。


「コーデリア家と同じく、税の免除を願い出た貴族があったとなれば……」

「貴族の派閥争いが活発化しそうです。そうなると、南にも注意が必要ですね」


 貴族間の争いが一段落したらということかな?

 そうなると、王国軍より先に南の対策を考えなくちゃならないな。

 まだ早いと思っていたけど、準備は進めておいた方が良いのかもしれない。


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