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8-7 アイシャさんがやってきた


「敵もバリスタを持っているだと!」

「どうやらそのようです。とりあえず敵のバリスタよりもこちらの方が性能は上なんですけど、数が段違いです。すでに20台に増えています。

 ですが一番の問題は、敵のバリスタの開発目的です。おそらく攻城兵器として作られたものではないでしょう。移動がしやすく、数が多い。短槍を200リオン近く飛ばすとなれば、本来は騎兵を狙うものだと推測しています」


 あの構造では射角を高くできないだろう。低い弾道で遠距離を狙うとなれば騎兵の殲滅目的となるはずだ。


「箱には近づくなということだな?」

「側面なら可能ですが、全面は止めといてください。20騎程度なら1撃で殲滅されてしまいます」


 この橋にやってきてから、20日が過ぎた。

 昨夜は初雪が降ったけど、昼には溶けてしまった。

 とは言え、どんよりとした空だから今夜も降るかもしれないな。


 私の言葉に、オーガストが渋々頷いている。

 騎士は騎兵が一番だと思っていたんだろうな。


「そういうことなら、ガロードの部隊の一部をこちらに回すことも考えませんと……」

「いや、何とかなるよ。それより森と森の北が問題だ。そっちの砦建設を急がせて欲しい。春になれば、こっちより南が問題になりそうだ」

「了解しました。ケネス町の住民にも協力して貰いましょう。冬越しでどこも収入がありませんからな」


 席を立ったオーガストが私に騎士の礼をすると指揮所を出て行った。その後をライアン姉さんが追い掛けて行ったけど、何か話でもあるのかな?

 一応、増援は断っているが、民兵の増援でも頼んでいるのだろうか。


「とりあえず、兵士を兵舎に入れることができた。まだ柵は完全じゃないし、街道の南は手付かずだ。土が凍る前に丸太を入れる穴ぐらいは掘っておいてくれ」

「すでに取り掛かっています。丸太の集積も順調ですから、雪が降っても少しは建設を進められるでしょう。移動式の柵や砦外の掩蔽も夜間に少しずつ規模を大きくしています」


 川向うの敵軍は未だにテントを使っているらしい。

 大型テントがいくつも作られている。中にもう1つテントを張っているのかもしれないが火の気は外の焚き火ぐらいだから寒さを凌ぐのも一苦労してるんじゃないかな。

 荷馬車を並べて荷馬車の柵を使って丸太を乗せたような小屋があったが、あれは士気本部のようだ。そこだけ煙突があるから、士官達だけが近くで寝泊まりしているのかもしれない。


「こちらから攻撃はしないんですか?」

「攻めても意味がない。広げた領土の守りで精一杯だ。かつてのコーデリア領の4倍はあるから、しっかり守りを固めて軍備を整えなければならない」


 来年の春分には銃を増やさねばなるまい。ライフルとショットガンを5丁ずつ……、それだけで40kgを越えてしまいそうだ。残りを全て銃弾にするしかなさそうだな。

 無駄な銃弾を使わないなら、防戦にならざるを得ないだろう。

 クロスボウの生産は行っているけど、民兵を本格的に使うにはまだ早そうだ。


「たまに屋根のバリスタを撃つのは構わないよ。この間打ち込んできた短槍を返しても良いんじゃないかな? もっとも、撃つなら火矢にして夜にして欲しい。あの箱が近づいてこないとも限らない」


 ラドニア小母さんがうんうんと頷いている。山の民の連中も1台受け持っているのかな?

 あの『X』形の改良型バリスタを操作するだけじゃないんだ。


「父上にコーデリアの村から力自慢を集めて欲しいと強請ってきた。こっちもバリスタを使うのだからな、兵士に任せるとそれだけ応戦する要員を割かねばならない」

「失念してました。ありがとうございます」


 私の言葉に笑みを浮かべている。マギィさんも感心してるけど、ライアン姉さんは脳筋じゃないんだよな。私の気が付かないところを度々教えてくれる。

 そんなライアン姉さんだから、父様が私の部隊指揮を執るために付けてくれたに違いない。


「それにしても静かですねぇ……」

「でも、箱は少しずつ増えてますよ。やはり総攻撃はあると思います」


 ラドニア小母さんの呟きに、マギィさんが答えている。私もその考えに賛成だ。

 問題は川向こうにいくつ箱が並んだ時に向こうが動くかだけだ。


「向こうの兵士達の環境条件が良くありません。あのままでは凍死する者も出て来るでしょう。未だに小屋を作ろうとしないのが気になってるんです」


 総攻撃を近々行うんじゃないかと思ってるのは私だけだろうか?

 兵達の士気が寒さで低下するのを待つような軍師ではない、と思っているんだけどね。

 少し気分転換に向こう岸を眺めてみるか。


 マントを羽織って指揮所を出ると屋根に上がる階段を上る。

 奥行き10m、横幅20mほどの板張りの監視台だが左右にバリスタを収めた小屋もあるし、柵の近くは2m程張り出した屋根がある。

 そんな監視所の奥に歩いて行くと、銃眼に双眼鏡を乗せて、ゆっくりと対岸を見渡した。

 確かにバリスタを収めた箱が増えている。

 夜の内に並べるんだろうな。日中は動きがない。

 橋から150リオン(220m)ほどの距離にいくつかの監視所があるようだ。監視所に屋根は無いが中で火を焚いているから、寒さは防げるのかもしれないな。

 荷馬車を並べた大きなテントに双眼鏡を向けた時だ。

 3人がこちらをジッと眺めているのが見えた。

 こちらの動きを見ているのだろうが、こっちは砦建設に精を出してるだけなんだけどなぁ……。


 ん! の焚き火は少し変じゃないか?

 焚き火の炎と、煙が合っていないように見える。もう少し倍率の高い物も用意しないといけないのかもしれないが、やはり変だ。

 しばらく見ていると、その原因が分かった。

 焚き火の真後ろから煙が上がっているのだ。あの焚き火は、その煙をごまかすために焚いていると見るべきだろう。

 他にもあるんだろうか?

 全ての焚き火を調べてみると、どうやらあの荷馬車より奥の焚き火は全てフェイクらしい。

 その理由は……。

 ひょっとして、地中に兵舎を作ったのか? その上にテントを張っているのかもしれない。

 完全な地中ではなく、半地下方式なら酸欠のもならないんだろう。あのテントの下に1枚布を張るだけで十分に温かいに違いない。

 連中は寒さを物ともしないということか。

 となると総攻撃のタイミングは、私が予想したよりも遅くなりそうだ。遅くなって起きることと言えば、雪と氷だろう……。

 待てよ。ひょっとしてラケート川の凍結を待ってるんじゃないだろうな。


 急いで指揮所に戻り、ヨゼニーを呼ぶ。

 メモを渡して町に急がせた。


「急にどうしたんだ?」

「向こうは長期戦を覚悟してるようです。まだまだ箱が増えますよ。兵士はテント暮らしだと思ってましたが、どうやらあのテントの下を掘ってストーブを持ちこんでますね。私達に知られないようにストーブの煙突の近くで焚き火を作ってます」


「なんだと! そうなると春まで睨み合いをすることになるということか?」

「そうはなりません。どうやら本格的な冬を待ってるんじゃないかと思ってます。雪は深くなるでしょうが、寒波が来れば固くなるでしょう。それより大事なことは、ラケート川が凍結するということです」


 全員が私の危惧を理解したようだ。大きく目を見開いて次の言葉を待っている。

 

「ヨゼニーを町に向かわせたのは、ラケート川の凍結時期を知るためです。まだ、十分に対策時間はあるでしょうが、一番の問題は兵士の数が足りないということです。やはり増援を頼むことになりますが、どこから連れて来るかと……」


「砦を作るだけでは駄目だということか……」

「いくら兵器が優れていても数の暴力には叶いません。4倍程度なら何とでもなりますが、どう考えても2個中隊を越える数で押し寄せてきそうです」


 川を挟んだ橋を巡る戦ならどうとでもなるが、川が凍結するとなれば平原に孤立した砦と同じことだ。

 なんとしても現状の戦力を倍加しなければなるまい。

 

 夕食を取っている時に、ヨゼニーが帰ってきた。

 町のいろんな住人に訊ねたらしい。その結果は12月の終わりには凍結が始まり、1月の中頃には人が渡れるほどになるということだ。

 もう直ぐ12月になる。

 残り1か月で兵力を増やすことになるのか……。


 翌日から、色々と皆で考えてみたが、やはり民兵ということになってしまった。

 かなり危険度が高い任務だが、民兵を動員しても大丈夫だろうか。


 ヨゼニー達にコーデリア領の3つの村を巡って民兵を集めて貰う。危険性が高いことをあらかじめ告げることは必要だろう。その結果、どの程度の民兵が集まるか分からないが兵士にだって知る権利はあるからね。


 ある意味身勝手な民兵の召集だけど、12月中旬に続々とクロスボウを引っ提げて40人の民兵が集まってくれた。

 率いてきたのはアイシャさんだったのが驚きだ。

 さらに山の民の住民が15人程来てくれた。こっちは老境に差し掛かった人物だけど、次の長老候補というから驚きだ。

 合わせて55人。ライアン部隊が22人にラドニア部隊が23人。私の直営が9人だから私を含めた総計は110人になる。

 これなら何とかなるんじゃないかな。


「オーガスト様から力のある連中と注文があったけど?」

「ちょっと強力な弓を使うんです。明日にでも練習をしてください。撃つのに2人は必要ですよ」

「ワシを含めて、短弓を使える者15人じゃ。5人は白兵戦もこなせるぞ」

「俺等は、クロスボウを使います。村ごとに3隊に分けられますよ」


 今日はゆっくり休んでもらって、明日は配置を決めよう。

 それよりもだ。


「増援部隊の兵舎は?」

「食料倉庫を使いましょう。今夜は床に寝て貰いますが、明日には簡単なベッドを作ります。予備のストーブもありますから、温かく寝られますよ」


 食料は野積みにして藁で覆えば良いだろう。その上にテントを被せておけば凍ることもないんじゃないかな。

 火矢を撃ち込まれると面倒だが、その前に西に板壁を作れば十分に思える。

 とりあえず肩の荷が下りた感じだ。


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