6-5 貿易港は海から攻略
ヨゼニーが帰ってきたのは、すっかり日が暮れた後だった。
別室でヨゼニーの得た情報を聞きながら、彼が運んできた物を確認する。
これで、何とかなりそうだな。
ヨゼニーに礼を言って早めに休ませた。
改めて皆が集まった部屋に向かう。
今度は暖炉傍でなく、少し大きなテーブルの傍に立って、皆を呼び寄せた。
テーブルを皆が囲んだのを確認したところで、ヨゼニーの運んでいた物を広げる。
昨夜は一睡もしてないから皆も早く眠りたいんだろうが、テーブルの上を見て皆の眠気はどこかに行ってしまったかのようだ。
「これは、貿易港の絵地図?」
「かなりの規模だな。さすがに貿易船は桟橋に横付けできないのか……」
「商人の建物と倉庫がたくさんあるんですねぇ」
確かに大きく見える。船乗り、商人、運送業者……。やはり町とは異なる家並みだ。
「火矢を放って、出火したのはこの辺りですぞ」
「共用倉庫? 誰のものでもないってことか?」
多目的に使用できる倉庫じゃないのかな。
案外、貿易港に駐屯している部隊の宿泊所として使っていたかもしれないぞ。それなら、ガツン! と一発ができたことになる。
「公爵館と同じように攻撃するのですか?」
「北の門付近は民家ばかりだ。焼け出されたら路頭に迷いかねない。狙うなら……、ここだな」
私が指さした場所は、港の桟橋近くにある商会ギルドだ。全員がその場所を確認すると首を振り始めた。
「若様。そこに行く一番の近道は西の石垣になります。北の門を叩きながら、別動隊を上らせるおつもりのようですが、この石垣に近付く前に発見されてしまうのでは?」
「別に石垣を上らなくても大丈夫じゃないかな。この石垣は南に突き出した岩礁までは伸びていないようだ。凪を待って小舟で、このように動けば港に到着できるだろう」
オーガストが短剣をケースごと引き抜き、絵地図を指し示しながら忠告してくれた。やはり、この世界の軍略ではそうなるんだろうな。
ありがたく頷いたところで、私の考えを述べると、ケニアネス公爵館を強襲すると言った時よりも驚いている。敵の背後からの攻撃は常識だと思うんだけどねぇ。
「確かに……。ですが、春分を過ぎたこの季節はたまに強風が吹きますぞ」
「知っているよ。だから凪の夜を選ぶ。それまでは北門に陣を引けば良い。別動隊は、サーデスの部隊とカイザルの部隊を当てようと思うんだけど」
「喜ぶでしょうな。それで、彼等の目標は?」
「橋頭保の確保にある。この辺りで一番大きな建物らしい。ケニアネス公爵自ら指名した徴税官もこの建物で暮らしているそうだ。上手く運べば、ケニアネスの息子2人の捕縛も可能だろう。場合によっては死亡を確認できただけでも十分だ」
「小舟はどこで?」
「貿易港から西に歩いて半日も掛からぬところに漁村があるらしい。ケニアネス公爵の資金を使わせてもらおう。彼等も船が全て新しくなれば嬉しんじゃないかな」
交渉次第では漁民に船を操って貰えるだろう。そうなれば成功確率も上がるに違いない。
「決行が決まった当日は貿易港の正面、側面から攻撃を加える。と言っても、民家に被害が出ないように、狙いはこことここになる。至近距離から火矢を射ることになるから石垣の上からの矢には十分注意が必要だ」
「狙いは、倉庫に警備詰め所ですか……。どちらかと言えば騒ぎを起こすための攻撃ですな?」
「その通り。北門はかなり頑丈らしい。鉄板で覆った扉がいざという時には使えると聞いてきたようだ」
正面に攻撃を加えれば、側面の守りもしなければなるまい。
陽動戦はこの世界では常識のようだ。できるだけ敵を北に引きつければ、南の桟橋は守りが薄くなる。というか、海から攻めて来るとは想定もしてないんじゃないか?
商船に護衛の傭兵を乗せることはあるだろうが、海軍という考えはまだ持っていないようだ。
「ここに投石機があるようですね。接近するのは危険かもしれません」
マギィさんがヨゼニーの文字を読んで呟いた。そう言えば北門の左右に2基装備されていると言ってたな。
「攻め入るなら問題だが、トリニティ様の策では騒ぎを起こせば十分だ。石の発射間隔はそれなりにあるし、狙いは攻城兵器だからな。街道を狙っているはずだ」
大型の投石機の威力は馬鹿にできない。落ちてきた石に潰されるだけでなく、それが弾んで転がれば被害が広がるし、わざと壊れやすい石を使って飛礫のように周囲を薙ぎ払うこともできるのだ。
見えるなら、グレネードランチャーで破壊できるのだが、今回は無理かもしれないな。
だが、試してみる価値はありそうだ。
「魔導士達に炸裂弾と焼夷弾を交互に放ってもらいましょう。上手く当たれば良いんですが」
「見えれば私のバレットも使えるのだが……」
「門に向かって放てば貫通するでしょう。低い位置で放つのもおもしろそうです」
脅かして、狼狽させる……。流れをこちらに持って行きたい。
そんな時に、ハシゴを持った兵士が東西の石垣に迫れば、かなり慌てるんじゃないか?
それだけ背後からの奇襲の成功率が高まりそうだ。
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ケネス町にオーガストを残し、砦の建設を指揮してもらう。
あまり長く町に滞在するようでは、町の住民も安心できないだろうと、数日体を休めて街道を東に向う。
サーデス兄さんが作った即席の陣で、次の戦の準備を整える。
「今度は、私ということか! いよいよ私の部隊の活躍を見せられるぞ」
「あえてお前に譲るんだから、失敗は許さないぞ!」
ガロード兄さんの言葉なんて、まるで気にしてないかのようにサーデス兄さんはご機嫌なんだよねぇ。
「サーデス兄さんだけでは心配だから、カイゼル部隊も同行するのよ! ちゃんと作戦を聞いて頂戴!」
ライアン姉さんの話を聞いて、急にテーブルに顔を向けたからガロード兄さんより妹のライアン姉さんの方が怖いんだろうか?
3兄弟の話をおもしろそうにカイゼルさんが聞いている。
「……以上が、各部隊の役目だ。次に配置だが、ライアンとラドニアの部隊は正面に陣を構える。門から150リオン(約230m)以上離れたところに荷馬車を倒して即席の陣を築く。移動式の柵はいつでも展開できるようにしておけば十分だろう。門を開いて打って出ることはないんじゃないかな? 一応、用心のための陣になる。
ガロードは西の城壁を攻略すると思わせてほしい。ハシゴを持って近づけば向こうが勝手に解釈してくれる。たまに東にも馬を走らせると混乱してくれるんじゃないかな。
最後に、サーデス部隊とカイゼル部隊は貿易港から少し離れた場所にここにある漁村の船を徴発しといて欲しい。
貿易港の裏手からこの館を強襲し火を放ってくれ。
事前に通りを封鎖して、飛び出してくる者達に矢放ち、長剣で斬り捨てて欲しい。
投降する者は、捕縛して一カ所に纏めておけば良いだろう。
決行は夜だから、それまではガロード部隊の陣に駐屯することになる。
たまには手伝ってあげてくれ。だが、決して50リオン(75m)以上近づかないように。
我等はまだまだ兵力が少ない。1人でも欠けたら大きな損失になってしまう」
「我等は、前に出て戦うことになるぞ!」
「敵の投石機がどれぐらい石を飛ばせるか分かりません。門の左右と聞いてますから、街道を狙っていると思うんですが」
「攻城兵器狙いという訳だったな……。なら陣は街道から話せば良いな。150リオンでもライフルなら十分に届く。弓兵は任せておけ」
「ドラゴンブレスを門に放ってみるのもおもしろそうですね。直ぐに逃げ帰れば矢にも当たらないでしょう」
山の民の動きは私達を凌ぐからねぇ。それぐらいなら問題ないだろう。
「明日出発して陣を整える。明後日はグレネードランチャーの炸裂で攻撃を開始してくれ。初日に6発。次の日からは1発ずつだ」
1発200gを越えるからねぇ……。あまり無駄に使えないんだよな。
春分の【オプナ】で30発を取り出したけど、半分以上使ってしまいそうだ。
「以上で会議を終える。サーディ兄さん。海は漁師に聞くのが一番です。それと民兵が多いですから、その辺りを注意してください」
「分かってるさ。夕方にラドニア部隊に状況を報告する。猟師の判断を伝えるよ」
笑みを浮かべてサーディ兄さんが答えてくれた。
小さく頷いてその通りだと伝えたけど、分かってくれたかな?
皆がテントを出ていくが、ラドニア小母さんとマギィさんは残ったままだ。
熱いお茶のカップを渡してくれたから、少しは体が温まりそうだ。
「民兵をどのように使うのでしょうか?」
「通りを塞いで、クロスボウを使うと思うな。サーデス兄さんは防戦ばかりしていたからね」
直接戦わねば問題は無いだろう。10本以上のボルトを放たれたら、相手も近づいては来ないんじゃないかな。
近付いたら槍で牽制して、クロスボウで止めを差せば良い。
「建物への突入はサーデス様達になるんですよね?」
「昔からの兵士もいるし、山の民の戦士もいる。山の民の若者でも傭兵には荷が重いだろう」
そもそも戦闘になるんだろうか?
1階が火の海になった時点で、戦うことはもちろんだが投降することも難しいんじゃないかな。
2人がうんうんと頷いているから、納得してくれたのかな? ラドニア小母さんは山の民の少年達を預かっているから、それだけ山の民のことが心配でならないのかもしれない。
ストレスを与えるだけ与えてやろう。
睡眠不足になって正常な判断も出来なくなる。東西から姿を現すガロード兄さん達の部隊も不気味に思えるんじゃないかな。
これが終わればトレノの町だ。
西にある2つの村は、ケネスの町が落ち着いたらオーガストに向かってもらおう。
3つの町が手に入るなら、有能な人物を探すことも必要だろう。それに、兵の募集もしなければなるまい。国境線が3倍近くになるんじゃないか?
その要衝に砦を作らねばならない。兄さん達には申し訳ないけどもうしばらく独身を続けて貰うことになってしまいそうだ。




