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1-2 ライアン姉さん


 ワインの酒樽を乗せた馬車が次々とワイン蔵の中から引き出されていく。今年は30樽を越えたらしい。昨年よりも数樽増えたらしく父様の機嫌も良い。

 商談を終えた商人が去った後のテーブルには、二千ドマ金貨が3枚乗せられていた。

 食費と装備をこちらで用意すれば、1年間兵士1人を百ドマ銀貨14枚で雇える。父様は戦力を増やすおつもりなのだろうか?


「トリニティ。コーデリア家は他の貴族と異なり、部門を誇る家柄だ。隣国と国境を接することから、王国法では私兵を1個小隊持つことを認められている。

 とはいっても、そのような戦力を持つ貴族は限られているから、多くは既定の半分ほどの兵士を常備して、必要の都度所領の農民を徴用することが多い」


 それも分かるつもりだ。兵士は普段何の用にも立たないからね。

 しかし、辺境の国境にある石橋を守ることがコーデリア家の使命でもある。

 王国としても、兵力不足で国境線を突破されることを懸念してか、金貨10枚を軍備として頂いている。

 その資金を元に我がコーデリア家は実働部隊を3つ持ってはいるのだが、その総数は40人にも満たない。

 いざという時の緊急要員として、城勤めの侍女達にも弓や魔法の練習をさせているぐらいだ。


「お前も、今年は14歳だ。来年には成人となり、大人として認められる。今年の誕生日を過ぎれば王国の記録簿に私の後継者として記録してもらおうと思っている。

 だが、家督を譲るのはまだ先になるな。この金貨をお前にやろう。お前が指揮する部隊を1つ作るが良い」


 父様が笑みを浮かべてテーブルの上に金貨を新たに3枚乗せた。金貨が6枚になった。軍資金を頂けるのかな? だけど、今年限りでは問題だ。


「兵士の維持費は、来年も頂けるのでしょうか?」

「そうだな。他の兵士と同じ給与を支払えるようレブナンに言っておこう。お前には、装備の維持費として毎年金貨を1枚渡す」


 直ぐに席を立って父様に頭を下げる。

 父様は笑いながら私を呼び寄せると、テーブルの金貨を渡してくれた。


「それで、作るのは槍か、それとも長剣か?」

「前にずっと寝込んでいたことがありましたね。あの時、霊廟の天使が私にいくつか約束してくれました。成人した時にそれを実践しようと考えていたのです」


 ああ、あの時だな……。そんな表情で父様はその時の様子を思い浮かべているようだったが、急に厳しい表情を私に向けた。


「天使と言えば神も同然。約束は違えることが無いようにするのだぞ。それで、お前は何をするのだ?」

「調和を作るように仰せつかりました」


 私の言葉に父様が頷いている。単に善とすることでは教団の騎士団になってしまうだろう。『たまに酒を飲んで騒げなくては、兵士達も付いてはこれまい』とでも考えているのだろうか?


「かなり難しい判断もいるだろう。だが、近頃の状況を見る限り、悪に傾いているように思える。東のハーレット王国に動きがあるようだ。上手く領民を守ることができれば、十分に対価を支払ったことになるかもしれんな」

「私のできる範囲で、が前提です。高望みは致しません」


 私の言葉に、父様は満足そうな表情を浮かべて頷いてくれた。


「そうなると、編成が難しそうだな。混成部隊になるようにも思えるのだが」

「白兵戦になる前に敵を倒そうと考え続けました。私なりの答えが出ましたので、来春には1つの部隊として指揮できると思います」


 今は晩秋だ。すでに5回、閉鎖空間から武器を取り出して、自室に用意した大きな木箱やクローゼットに収納している。

 1つ目は、モーゼルライフル。Kar98kとも呼ばれているドイツの名銃だ。ボルトアクションで装弾数は5発だが、故障の少ないライフル銃として定評がある。

 用意した数は20丁だ。

 2つ目は、ショットガン。縦二連の散弾銃だけど、操作が簡単なのが良い。スラッグ弾は熊さえ倒せるし、ダブルオーバッグと呼ばれる散弾は10個の数ミリほどの鉛玉を同時に発射できる。さらに、ドラゴンブレスというおもしろい弾丸まで撃てる優れものだ。15丁用意したけど、これを戦で使うのは難しいかもしれないな。

 3つ目は、マシンガンになる。故障しにくいもので選んだのがウージーと呼ばれるマシンガンだ。マガジンには32発のパラベラムと呼ばれる拳銃弾が入っている。カートリッジの火薬は1割増しだから強装弾ということになるんだろう。

 敵に向かって弾幕を張るには有効に違いない。とりあえず5丁用意してみた。

 その他に、拳銃を何丁か入手したけど、拳銃で戦はできないだろうから、これは私の個人的な趣味になるのかな。最初に手に入れた拳銃と種類を合わせておけば問題はないだろう。

 この世界の戦はヨロイを着て行うようだけど、重いヨロイでは動きに制限が掛かってしまう。

 身軽な服装が一番だろうと考えて、サバイバル用の戦闘服1式も3セット入手してある。


「来春が楽しみだな。オーガストの息子達はすでに部隊指揮を執っている。長女が残ってはいるのだが……」

「ライアン姉さんですか?」


 名前も男らしいけど、行動も男そのものだ。私よりも3つ年上で、見た目は淑女なんだけど、母様のようなドレス姿を未だ見たことが無い。

 いつも兄さん達のお古を着てるんだよね。私に長剣を教えてくれた人物でもあるのだが、たまに女性であることを忘れてしまいそうだ。

 

「あの気性だからなぁ。誰も嫁に欲しいとは思わんだろう。このまま城の警備をさせておくのも気の毒だ。トリニティの部隊の相談役として使ってくれんか? 兵士の訓練はライアンに任せればすぐに一人前になれそうだ」


 かなり過酷な訓練を課して、兵士がつぶされないか心配になってしまう。

 とはいえ、ライアン姉さんなら私も安心できる。ありがたい気持ちで父様に頭を下げて退室することにした。


 自室に戻ると、父様から頂いた金貨をライティングデスクの引き出しの中の小さな木箱の中に入れておく。すでに30枚近くの銀貨が入っているのは、お小遣いとして頂ける銀貨を貯めこんでいたためだ。

 トリニティは浪費家ではなかったようだ。これも部隊編成に役立てさせてもらおう。


 1部隊とは言われたけど、父様の考えでは1個分隊ということで良いのだろう。オーガスト殿の2人の息子はそれぞれ1個分隊を指揮している。

 分隊と言っても、人数はかなりいい加減なところがある。

 現に2個分隊ともに、1人の騎士と2人の兵士の組み合わせを5組作って分隊としているのだ。

 騎士は長剣に槍になんだけど、兵士は槍か弓を使うようだが、騎士と同じような剣を腰に下げているから長剣での戦いができないわけではなさそうだ。

 騎士の防備は一様で、リングメイルを着てバケツのような目の位置にスリットの入ったヘルメットを被っている。

 兵士は革鎧に頭部だけのヘルメットだ。まるで鍋を被っているのかと思ったが、バケツ型よりは軽いんじゃないかな。

 

 コンコンと扉を叩く音が聞こえてきた。

「どうぞ!」と声を出すと、「失礼します」と言いながら2人の女性が入って来た。

 人物の1人は良く知る人物だった。椅子から立ち上がり、2人を暖炉際のテーブルに案内する。


「すぐにライアン姉さんが来てくれるとは、思ってもいませんでした」

「私を覚えていてくださり光栄です。神官のマグネシアも参加したいとのことでしたので、一緒に連れてまいりました」


 とりあえず、木のベンチに座ってもらう。クッションがあるからベンチでも座り心地は良い。


「父様から新たな部隊を作るように命じられました。私なりに試案はあるのですが、出来ればそれをお二方に評価していただきたい」

「では、私の参加はお許し願えると?」

  

 マグネシアさんの顔を見ながら、しっかりと頷いた。神官であれば治癒魔法が使える。こちらから頼みたいところだ。

 たぶん私が退室した後に、父様がライアン姉さんに伝えたんだろう。

 直ぐに来てくれたことに感謝したいぐらいだ。

 マグネシアさんも、ライアン姉さんと顔を見合わせて笑みを浮かべているから、2人とも仲が良いんだろうな。


「それで、トリニティ殿の試案とは?」

「こんな感じですね。15人の兵士になります。この部隊を指揮する5人は別勘定です」


 ライアン姉さんの質問に、ライティングデスクから数枚の紙を持って来て説明を始めたのだが……。


「騎士は?」


 そう問いかけて来るよなぁ。騎士は私の部隊に存在しないんだから。


「騎士はガロード兄さん達が、いくらでも必要とするでしょう。コーデリア家の第4部隊は、遠距離攻撃部隊とします。とはいえ、白兵戦に持ち込まれないとも限りません。その辺りを、ライアン姉さんに教授して頂きたいところです」


 最初は、唖然とした表情だったが、私の言葉の最後を聞いてにんまりとした笑みを浮かべる。ライアン姉さんはいつまでたっても変わらないな。


「それなら少しは力になれそうです。……マギィ、お茶を入れてくれない」


 マグネシアさんは、マギィという愛称なんだ。

 暖炉のポットのお湯でお茶を私達に入れてくれたところで、私もメグさんと呼んでいいのか聞いてみたら、少し顔を赤くして頷いてくれた。


「ライアン姉さん。昔のように話しかけてくれて構いませんよ。私もその方が嬉しいです」


 お転婆姉さんだと知っているし、小さい頃は散々一緒に遊んでくれた仲だ。余り丁寧な言葉遣いをされては私が戸惑ってしまうし、何となくライアン姉さんじゃない女性に思えてしまう。


「ありがたいお申し付け……。それでは少し言葉使いを変えるが、兵士の持つ武器が不明だ。それと指揮隊の5人は、兵士とは別の武器となるようだが」

「お見せしましょうか? ちょっと待ってください」


 席を立って、部屋の隅にある大きな木箱からライフルとショットガンを1丁ずつ取り出すと、弾丸を無造作にポケットに詰め込んで戻って来た。

 2丁の銃をテーブルに乗せたところで、ライフルを手に取る。


「これを兵士に持たせます。以前、霊廟で魔族に襲われた時に、天使の加護を得ることができました。その加護を使い、このような武器を手に入れた次第です」

「どうやって使うのでしょう? 私には武器とは思えないのですが」


 マギィさんの問いにライアン姉さんも頷いている。

 ライフルを理解できるとは思えないし、私に上手く説明できるとも思えない。

 ベルトに挟んだ銃剣を取り出してテーブルに置くと、ライアン姉さんがライフルをテーブルに置き、銃剣をケースから取り出して刀身を眺めている。


「これは、先端だけを研いである。刀身の四分の三は、役立たずだ。まさかこれを兵士に持たせるのか?」

 

 とんでもないことだと言う目付きで私を睨んできた。こんな時のライアン姉さんは怖い存在なのは十分知っているから、早々に理由を説明しておこう。


「これは銃剣です。このようにライフルの先端に差し込んで使います。構えはこんな形ですね。……エイ!」


 席を立って、着剣状態のライフルを腰だめに抱えたところで、掛け声とともに前に突き出した。

 ふ~ん。という感じで見てくれたから、使い方は理解してくれたんだろう。


「短槍という感じで使うのだな。それなら先端だけ研いであれば十分だ。まあ、念のために刀身全体を軽く研いでおいても問題はあるまい。その長さがあれば相手が片手剣であれば十分渡り合えるだろうし、長剣であれば2人で相手をすればいい」


 頷きながらライアン姉さんが納得している。


「でも、こちらには付けないんですか?」

「これには難しそうです。片手剣か戦斧を持たせたいですね」


 マギィさんの言葉に答えたけれど、ライアン姉さんも微妙な表情だ。ショットガンに銃剣を付けて、果たして使えるんだろうか?

 このショットガンはストック部分が無くて手元はピストルグリップだ。元が狩猟用だから、元々銃剣を付けるような構造を持っていないんだよね。


「要するに、穴が2つある鉄の棒は補助的な扱いということになるのだろう。魔導士に持たせるのであればそれでいいが、我等もこの穴2つを持つことになるのか?」

「もう1つ、用意したものがあります。少し待ってください」


 クローゼットからウージーを1丁とマガジンを取り出した。おもしろいことに、ウージーには銃剣を装着できるんだよな。


「出来れば、この武器を使って頂けないかと。短く見えますが、……こうすると長くなるでしょう?」


 折り畳みストックを展開して先端にコンバットナイフを装着する。マガジンはグリップから飛び出しているから、見た目が良くないように感じるんだけどね。

 だけど、故障知らずということだから、指揮官には適していると5丁も用意した機関銃だ。


「代わった武器だな? こっちにはナイフを付けるのか。私は長剣を使うから必要あるまいが、マギィなら付けておく方が良いだろう。魔法の杖等、乱戦になったら何の役にも立たん」

「それでは、この武器を試してみましょう。その上で判断していただければ幸いです」


 椅子から立ち上がると、3丁の銃をストラップで肩に掛ける。

 ライアン姉さん達が少し不満そうな表情で立ち上がったのは、あまり役立ちそうもないと考えているからなんだろうな。


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