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3-6 王国軍からの脱走者


 雪の中を、アイシャさんとその夫であるカイゼルが城を訪れた。

 強行軍で来たらしく、小さな子供達が寒さで震えていたんだよな。直ぐにラドニア小母さんが会議室の暖炉に連れて行ったのを、お母さん達が小さく頭を下げて見送っていた。

 ラドニア小母さんのことだから、すぐに簡単なスープを作って子供達に与えてくれるに違いない。

 マギィさんとリンドネスさんが、同行してきた騎士の家族に兵舎の一部を分け与えると、荷物を下したところを見計らってアイシャさん達を会議室に呼ぶことにした。


「10年ほど前には皆で祝って送り出したのだがな。追い返されたわけではなく、夫共々コーデリアに帰って来たのは幸いだった」

 オーガストがレドナンと思い出したような話をしている。


「一緒に来た騎士も聡明な目をしていましたよ。やはり王都の状況は良くないのでしょうね」

「俺の小さいころに嫁にいってしまったからなぁ。あまり覚えていないんだ」

「俺は覚えてるぞ。奥様といつも一緒だったな」


 私の記憶には、その思いでがあまりない。歳の差が離れていたからなんだろうな。

 お茶を飲んで待っていると、扉をノックする音が聞こえてきた。ラドニア小母さんが扉を開けると、ライアン姉さんに連れられて、2人の男女が入って来た。

 レブナンによく似た顔立ちの女性がアイシャさんなんだろう。厚手のドレスにコートを羽織っている。

 その隣の30歳近い男性が、夫であるカイゼルということになる。チェインメイルに赤いマント姿だ。かなり立派な姿に見える。


「我等を受け入れ下さり、ありがとうございます」

「コーデリアの縁続きであれば当然のこと。先ずは座ってほしい。生憎とレーデル王国に反旗を翻した状態であるのが、申し訳ないところだ。私がコーデリア王国の主であるトリニティだ」


「あの小さな坊やが……」

 アイシャさんが驚いているけど、小さい頃の私を知ってるということなんだろう。


「先ずは、掛けてくれ。長旅で疲れていると思うが、現状を伝えねばならないし、出来れば協力して欲しいところだ」

「衣食住を助けて頂けるならば、お礼はしないといけないでしょう。騎士としての訓練は部下を含めて欠かしませんでしたぞ」


 なら、好都合。

 簡単に状況を説明し、砦を任せたいことを伝えると、2つ返事で了承してくれた。

 飼い殺しになりはしないかと心配していたようだけど、使える者はどんどん使いたいところだ。


「来年の春分を境に、商人達の出入りを許可して欲しい。民兵10人は石弓を使うし、山の民の戦士が15人付く。隣国が攻め入るなら直ぐにもオーガストの騎馬隊が向かうはずだ。これで何とか出来まいか?

 我等も、南のケニアネス男爵、西のジョンデル男爵と事を構えねばならない。西は陽動と見ているが、南は本気のようだ。私に長女のカトレニアを輿入れさせてきたぐらいだからね」

「山の民と言いますと?」


 オーガストの話を聞いて、すぐに疑問を口に出した。

 あまり騎士らしくないな。本来なら無言で頷くと聞いたことがあるぞ。


「獣人族の戦士だ。騎士を凌ぐぞ」


 オーガストがニヤリと笑みを浮かべて呟いたんだが、あまりの驚きに声も出ないみたいだな。呆気にとられた表情が、その衝撃を物語っている。


「良くも戦士を派遣してもらいました。王国も、何度も交渉をしているのですが、いまだに返事を貰えないようです」

「獣人族と呼んでいるようでは無理だろうな。我等は山の民と呼んでいるぞ。それに、彼等を蔑視しようものなら、ラドニアが黙ってはいまい」


 ちゃんと釘を刺しているようだ。ちょっとラドニアおばさんに済まない気もするけど、お茶を運んでくるため別室に下がっているから都合が良いのかな?


「蔑むようなら、私も黙ってはおりません。騎士2人でも彼らの戦士に適わないと聞いております。一緒に武芸に励めればと思っております」


 嬉しそうな顔をしているってことは、武芸を誇る人物のようだな。

 どんな暮らしになるのかは、ライアン姉さんやレドニアおばさんが教えてくれるだろう。


「数日、体を休めて向うがいい。砦には兄のマクセルがいるぞ」

「兄さんが砦にいるんでは、早めに変わってあげないといけませんね。それと、私からの質問で恐縮ですが、ケニアネス男爵は先代の奥様の御実家です。コーデリア家に攻め入るなど……


「2代続けての輿入れとなれば、コーデリア家との結びつきを強めることを王国内に知らしめることになるのだろうが……。輿入れしたカトレニア様はツバキュロムの罹患者、それも進行した状態でのことだ」


 アイシャさんが思わず顔をこわばらせた。

 たぶん、この世界では、その反応が普通なんだろう。

 とはいえ、もう少し親身な話ができないものか、と思うような父と娘の会話だな。

 早めに会見を終えて親子で話をさせてあげたいところだ。


「私の妻の心配はご無用です。それなりの対処は私にもできるはずです。それでは、3日後にエスタリア砦に発って頂きたい。準備はラドニア小母さんに頼んでおきます」


 私の言葉に席を立って騎士の礼をすると、会議室を2人で出て行った。

 皆で扉が閉まるまで見送ったところで、次の話が始まる。


「あの2人に東を任せられるとなれば、城に侍女達を戻せそうだ。コーデリアの産物を買い付けに来る商人が大勢やってきそうだな」

「アイシャ様なら問題ないでしょう。税は男爵時代と同等でよろしいですか?」


 荷馬車1台につき5デールというのは、ちょっと想像できない税なんだよね。

 ラドニア小母さんの問いに、頷くことで答えておく。


「これで、次の戦を凌ぐしかないだろうな。やはり西の陽動に南が動くことになるのだろう」

「陽動とも言えんかもしれんぞ。最悪は、西と南からの同時攻撃だ」


 銃は私の部隊に限定している。増やすことも可能だが、メンテナンスと銃弾の供給を考えると1個小隊程度になるのはどうしようもないことだ。

 それを、クロスボウでカバーしようと考えた。クロスボウならそれほど練習をしなくとも、強力なボルトを前に放つことができる。欠点は、飛距離と連射が利かないことだが、それは数で何とかなる話だ。


「民兵のクロスボウ部隊は、その後どうなってます?」

「俺の傘下になっている。15人の2個分隊だ。かなり強力だな。弓兵を3人ずつ派遣しているから、統制も十分だぞ。村に駐屯しているから、村の若者を動員できるように村長と調整している。上手く行けば、さらに1個分隊が増えるはずだ」


 村長も無理をしているようだ。さらに15人ともなれば少年達まで動員しているのだろう。無事に親元に帰さねばならないのだが、そうなると彼らの前を守る兵士が不足してしまいそうだ。

 とはいえ、3個分隊規模であれば十分に南を任せられるだろう。


「輿入れと同時に南の橋の通行は、昔に戻ったはずです。相手側に悟られぬよう少し買い占めて頂きたい」


 レブナンに指示を出す。

 穀物と肉は何とかなりそうだが、香辛料と塩だけは行商人たちが頼りだ。

 保存食を作る目的だと言えば、それほど奇異には見られなんじゃないかな。


「アイシャ達が若にお渡しする様にと、これを預かりました」


 会議が終わろうとした時に、レブナンが小さな木箱を取り出した。箱を開くと宝石の装身具や金貨が入っている。


「たぶん、それぞれの家に伝わる品じゃないかな? 財政的には欲しいところではあるけれど、金貨の半分を受け取って残りは返して欲しい。何も受けたらないのでは彼等の矜持もあるだろうけど、代々伝わる品まで欲しいとは思わないよ」

「そのように手配します。彼等の当面の衣食住に使うということであればそれでも多いぐらいです」



 前例は山の民の粒金と同じということで良いはずだ。

 征服して帰順を迫ったわけではないから、懲罰的に貢物を要求することはできないだろう。

 彼等の心意気を汲んで金貨の半分ということなら、彼等の矜持も保てるに違いない。

 

 5日後にアイシャさん達は行きに覆われた荒れ地を東に向ってソリを引いて行った。

 ワインのタルを2個運んで行ったから、少しは寒さを和らげることができるかもしれないな。

 アイシャさんが文字の読み書きと計算が出来るのも都合が良い。

 これで来春にケニアネス公爵と戦端を開くことになっても、物資の流通が出来る。

 穀物と肉は自給出来ても、香辛料と塩は生産できない。

 ケニアネス公爵領の貿易港と東の石橋を渡って来る行商人に頼っているのが現状だ。

 

「国土を豊かにするだけでは駄目なんだろうなぁ……」

「民を幸せにするのが上に立つ者の務めですぞ」


 私の呟きを一緒に見送っていたレブナンが耳にしたようだ。

 直ぐに私の呟きに答えてくれたんだが、幸せの定義にも悩んでしまう自分に思わず笑みを浮かべてしまった。


「ありがとう。豊かな国土は民の幸せに対する一つの視点ということだね。確かにそれだけではないはずだ」

「幸せとは何かを人に問えば、いくつもの答えが返って来るでしょうな。その答えがその者が幸せと感ずることでしょうから、それを全て叶えることは難しいことだと思います」


 そういうことか、『最大多数の最大幸福』という奴だな。

 そんな政治論を学校で習ったことがあったけど、その裏には『少数の不幸者については切り捨てる』ということになってたんじゃないかな?

 やはり、皆が幸福を感じる国作りをしたいところだ。

 戦に明け暮れる状況だけど、そろそろコーデリア王国の治世の基本を考えるべきかもしれない。

 いつまでもレーデル王国の国法やコーデリア家の家訓に頼っているのも問題だろう。


「レブナン。東をアイシャ達に任せられるなら、少し余裕ができるよね。コーデリア王国の法律の素案を作ってくれないか?」

「わ、私がですか! ……王都の学園に通いはしましたが、私は法律家ではありませんよ」


「最初から法律家だった人なんていないだろう? レーデル王国の法律は王侯貴族にとって都合の良い法律だし、コーデリア家の家訓はどちらかというと現状維持を重視している。先ほどの民の幸せについては全く考えていないはずだ」

「民の幸せを法律に取り入れるということでしょうか?」


 驚いた表情をして棒立ちしているレブナンに、笑みを浮かべて頷いてみせる。

 民主主義なんて言葉を聞いたことも無い人物が、どこまで領民の人権を法律に取り入れられるのか、ちょっと興味も湧いてきた。

 コーデリアを取り巻く状況は厄介だけど、対外的なところはオーガストに任せられるだろう。となると内部はレブナンに苦労して貰おうかな。


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[一言] 男爵なのか公爵なのか解らない。
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