2-9 次の戦に備えて
砦にはガロード兄さん達が俺を待っていたようだ。
全員が笑みを浮かべているところをみると、撃退は成功ということなんだろう。
「さすがは天使の加護を受けたトリニティ殿の部隊だ。どうにか辿り着いた者もいるが、私の部隊に槍で倒されている」
「最初に投石機を破壊したのが良かったのかもしれない。あれが動いていたら苦戦していたかもしれないぞ」
誉め言葉は聞き流すことにして、被害を確認する。
ガロード兄さんの部隊に4人、山の民の部隊に6人の負傷者が出たようだが、いずれも軽症とのことだ。
負傷者の話を聞いたマギィさんが慌てて部屋を出て行ったのは、魔法での治療を行うのだろう。
同じ傷に、1日何度も治療魔法をかけると腫瘍ができるとのことだが、1日1回であればそんなことは皆無とのことだ。城でゆっくり静養すれば直ぐに復帰できるに違いない。
「今度は王国軍さえ跳ね返したことになる。橋を渡って来れたのは100人を超える程度だった。2個中隊規模でそれだからなぁ……」
「都合3波の攻撃軍を控えさせていたようですが?」
確か、3個中隊はいたはずだ。一斉に押し寄せたと思っていたのだが?
「橋の上に積んだ焚き木が燃え広がったからな。あれでは炎に飛び込む奴はいないだろう。後ろから押されて川に落ちたのもだいぶいたぞ」
「橋のたもとに集まる敵兵を、ライフルの射撃でだいぶ数を減らすことができた。焚き火に近づく者は、ショットガンと山の民の放つ矢が待っている。炎が下火になっても超えてくる者はそれほどいなかったようだ」
ガロード兄さんの言葉に、ライアン姉さんが後を続けてくれた。
それでも、橋を渡り切った者が100人を超えるとは思わなかったな。銃弾や矢を受けるだけでなく、焚き火を乗り越えてきたそうだから、王国軍の士気は貴族の私兵を遥かに凌いでいる。
「そうなると、再び焚き木を積まねばなりませんね」
「それぐらいはやっておくさ。だが、橋の一部が焼け落ちている。あれを修理しないと、私達の砦を攻撃することなど不可能に違いない」
敵が引いたのはそういう理由だったのか。
「そうなると、相手の被害が知りたいところです」
「およそ、1個中隊以上2個中隊以下というところだろう。ライアンは2個小隊は倒したと言っているし、投石機の攻撃で吹き飛ぶ兵士もみているからな」
「橋の南を小舟で渡河しようとした部隊もありました。私達を分散させようとしたのでしょうが、渡り切った者はおりません。およそ1個小隊と考えています」
ガロード兄さんの話に加えると、敵の被害は約2個中隊にもなるんじゃないかな。1千人を超える部隊を繰り出して、その四分の一程を失ったことになる。
この敗退は、王宮の力の誇示に繋がらなかったということになると、貴族達が動揺するどころか、王宮への忠誠が揺るぎかねない。
行商人から情報を仕入れねばならないな。西からの行商人は途絶えても、南からはたまにやってくるようだ。
そうなると、サーデス兄さんに頼めばいいか。
「数日様子を見て、城に引き上げましょう。橋の一部が焼け落ちているなら大軍を一度に渡らせることは不可能。この砦に弓兵とガロードの部下を半分も置けば十分でしょう」
「トリニティ殿の兵士も数人残して欲しいな」
銃が絶大な威力を持つと思ったんだろう。
操作性の良い銃をガロード兄さん達にも渡した方が良いのかもしれない。とはいえ、騎士であることも確かだから、その辺りは後で相談してみよう。
「ライアンの部隊から5人、レドニアの部隊から3人を出してください。数日ごとに交代させれば、それほどの負担にならないと思います」
俺の言葉にライアン姉さんが小さく頷いて、部屋を出ていく。
レドニアおばさんに知らせに行くのかな?
ライアン姉さんが出て行った扉を見ていると、すぐにライアン姉さんがレドニアおばさんを連れて戻って来た。
その後ろに、カップやワインの容器を持った女性が入り口で軽く頭を下げて入ってくる。
「トリニティ様もご無事で何よりでした。マギィから南にも敵兵が現れたと聞いて、びっくりしましたよ」
そんな前置きをしながら席に着き、3人の兵を残すことに同意してくれた。
山の民の兵士は半数を残すようだから、レドニアおばさんも了承してくれたんだろうな。弾薬は、2会戦分を残せば十分だろう。ライフル銃が80発、ショットガンが48発だ。手持ちの弾丸もあるだろうから、城から駆けつける間の時間を稼ぐことはできるだろう。
「一度城に皆を集めねばなりませんね。次の王国の策が予想できません」
ワインのカップを口に運びながら呟いた。
「たぶん、休戦を申し込んでくるんじゃないかな? 俺達が王都に迫ることを恐れるはずだ」
出来れば、橋の西に砦を作りたいところだ。
川を渡ろうとしても、後ろから攻撃される可能性があるなら渡れるものではない。
少人数で守れる砦を考えてみるか……。
「明日には、再び使者がやって来るでしょう。戦死者と負傷者の移動は前回通り許可しますよ」
「戦えぬ者や戦死者には戦は終わったようなものです。敵味方を区別することはありません」
ガロード兄さんに答えると、ガロード兄さんと一緒にレドニアおばさんまでハンカチで目をぬぐいながら頷いている。
レドニアおばさんは敬虔な信徒でもあるからねぇ。教会の教えと俺の話が重なったのだろう。
「まぁ、勝つには勝ったが、課題も色々とあるぞ。あの大型銃は確かに役立った。魔導士に持たせた変わった銃もかなり活躍している。あの2つをさらに増やすことはできないのか?」
「はっきり言って、追加するとしても魔導士の持たせた銃ぐらいなものです。天使のご厚意を受けるのではなく、要求することなっては問題でしょう」
あくまで、俺に対する天使の厚意によるものとして置けば、それ以上の武器を皆から要求されることも無いだろう。
ライアン姉さんも渋々ながら「仕方がないな」と呟いている。
出来ればバレットはもう1丁欲しいとは思うけど、1発の重量が50gを越える代物だ。銃弾の補給が追従できなくなりそうなんだよね。
城に帰ったら、現状の武器数と弾薬数を検討しなければなるまい。
春分の受け取りは終わっているから、秋分の受け取りにそれを反映することになりそうだな。
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翌日。王国軍から使者が現れ、休戦の申し入れが行われる。
向こうから始めといて休戦を申し込むというのを受け入れる義理は無いのだが、戦場の屍を回収する目的であれば、我等が拒むのも問題があろう。
私達の技量を相手に示すためにも、応じることにした。
王国軍が2日後に視界から消えたところで、砦に守備兵を残して城に引き上げることにする。
砦の会議室に主だったものが集まり、今後の対策を練ることになったが、王国の束縛を離れたとは言え、色々と問題があることも確かなようだ。
会議室のテーブルにコーデリア領の地図を広げ、ワインを酌み交わしながらの会議となる。
「国税を今まで通りとはせずに、半分にすると!」
レブナンが驚いた口調で、私の言葉を再確認してきた。
先ずは農民の税の軽減を考えることにした。王国に納めるのではなく俺達に納めて貰えるなら税は軽い方が良い。農家1軒のライムギの収穫量はおよそ35袋になる。その内の20袋が税だったから、これを10袋にすれば昨年のような凶作となっても税を納められなくなるとは思えない。
「あくまで目安値ということです。凶作であれば、さらに減らすこともできます。その為に、最初の税を使って凶作に備える備蓄を設けることにしましょう」
「それでは、コーデリア王国を大きくできないのでは?」
オーガスト殿も、王国並みの税を考えていたようだ。
だが、多くを搾取するようでは王国は栄えないんじゃないかな? 農民の手元に穀物が余分に残れば、それを売って少しは生活を豊かにできるだろう。
畑を耕す励みにもなるはずだ。それに商人が活発に動くのであれば、商人からの税が増える。
「かつて父様に聞いた話では、集めた国税の1割がコーデリア家に還元されていたようです。20袋に対して2袋ですよ。それが5倍になるのですから、前よりは裕福に暮らせるのではないでしょうか?」
「だが、これからを考えると兵士をさらに増やさねばならん。今回は西の橋だけであったが、同時に2カ所で戦端が開かれるのはそれほど遅くもあるまい」
その時期が問題なんだよな。
王国軍が破れたともなれば、貴族の権力争いが活発化するはずだ。それを鎮圧するだけの戦力を国王が把握できているなら、小規模な内戦止まりで終息するだろう。しかし、王国軍を恐るるに足らずと考える貴族が現れないとも限らない。
今年中にはどちらになるかが分かるだろうが、それまでは侵略に備える必要があるだろう。
戦力の再編をオーガストに指示し、レブナンには今まで通りの農業を行うとした場合の次の徴募兵がどれほどになるかを検討するように指示を出す。
ライアン姉さんとレドニア小母さんには、今回の戦闘での反省点を纏めて貰うことにした。それを元に、俺の部隊の再編を考えねばなるまい。
さらに戦の間の指示をどのように伝えるかの課題もあるんだよな。伝令を常に用意するというのは、直接戦闘に関わらない人員を増やすことにもなりかねない。
宿題を出したところで、俺も自室に引き上げる。
先ずは、残った銃の数を確認しなければなるまい。弾薬箱の数も気になるところだ。秋分の日まで、今回と同じような戦が果たして何度できるのだろうか。
部屋に帰るなり、棚を開いて銃の在庫を確認することにした。
ライフルが10丁にカービン銃が4丁、ショットガンは7丁ある。
拳銃は、補助となるがパイソンが6丁にM29が2丁残っていた。銃は今後とも手に入れななければならないだろうが、交換用としての用途だからそれほど数はいらないだろう。
それよりも、せっかく手に入れたウージイを誰も欲しいと言わないんだよな。
銃弾が拳銃弾だからかな? 見た目が小さいから威力も無いと思ってるのかもしれないけど、正式な軍用品でもある。
使い道を探さないと、他からの持ち腐れになりそうだ。
弾薬ケースはそのままだ。兵舎にある弾薬ケースで事足りたということだろう。再度王国軍を相手にしてもだいじょうぶだろう。
編成を考えるとなれば、当初の予定通り、同じ編成の部隊を2つ作ることになるだろう。ライフル兵10人編成の部隊が2つ。山の民のショットガン部隊10人はそのままで良いだろう。
私の直営部隊は、少し増員させたいところだ。ライアン姉さんとレドニア小母さんを元に戻して、グレネードランチャー、バレット、それにショットガンとカービン銃でちょっとした支援部隊を作りたい。
それ以外にも、新たに伝令を3人程確保したいところだけど、新たな徴募に応じてくれる村人の数も気になるところだ。




