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8 青年は準備する。

 


 俺とナディーの結婚準備が着々と始まっていた。


 村長を交えての両家の話し合い。

 と言っても、これは新居や生活用品をどちらが準備するか、どう準備するかの話し合いが主になる。


 俺がいなかった6年の間に、父さんが木を切り倒して木材を準備し、村の大工、ガロン爺がちまちまと作り上げてくれた。

 俺は気づかなかったけど、ギルドの横にこじんまりとした家が建っており、そこが俺とナディーの新居だった。


 家具も父さんが木を切り倒し、ナディーの親父さんが仕事の合間にちまちまと組み立て、家具を作ってくれていた。


 皿やフォーク、スプーン、コップ等の食器類は、母さんとナディーのお袋さんがちまちまと作ったらしい。

 布系は、教わりながらナディーがガッタンゴットン織ったと。


 他の物に比べて、布系だけが手作り感満載なのが愛嬌だ。


 つまり、俺とナディーの新居の準備はとっくに終わっており、後は式をするだけだった。


 話は、日取りをいつにするか。


「麦の種まきがあるからな」


「そうだね、そこら辺はご近所さんと要相談だね」


「そこいらの調整は村長である私がやりますよ」


「飾りは確認したけど、大丈夫でしたよ」


「料理は皆の手を借りないと、作りきれないからね」


 話し合いの参加者は、両家の両親と村長。

 当人な筈の俺らはかやの外。


 子どもに関する事は、親が決めるのが慣例。

 俺らに決定権はない。


 まあ、両家の意志が「結婚」で合意している以上、俺とナディーが不本意な事にはならないんだろうけど……


「それはそれとして、自分達の意見が反映されない事は若干不満よね」


 ナディーの言葉に、うむうむと頷く。


 俺の実家で話し合いがされており、俺達は夕飯用のパンでもこねてろ。という事で、俺家、ナディー家、村長さん。の3家族用のパンをこねている。


「王都ではどうなの? やっぱり、親と村長さんが全部決めるの?」


「いや、そんな事はなかったよ。両家で話し合う事はあったけど、基本当人達が決めてたな」


 俺が王都にいた時、冒険者の先輩で結婚した人がいた。

 当人達でバンバン決めていくのを見て、村と王都の違いにビックリしたものだ。


「ふわ~、王都はすすんでるのね。私達が親になった時は、村の冠婚葬祭はどうなってるんだろうね」


 さらっと出た単語に動揺する。


「私、できれば2人ほしいんだよね。理想を言えば、男の子と女の子1人ずつ」


「あ~、確かにそれが理想かも。俺は、男の子でも女の子でもナディー似がいいな」


「え~、私はケルン似がいい。私に似たら鼻ペチャで、そばかすで、赤毛で八重歯だもん……」


 ナディーのコンプレックスは、俺が思っている以上に強いらしい。


「でも、俺に似たらヒョロガリだよ?」


「ケルン似の方がいいよ。キレイな金髪で、碧眼で、肌も白くて……ケルンに似た方が絶対に可愛い……!」


 お、おう……


 何かの感情をぶつけるかのように、ナディーはパン生地をビッタンビッタンとテーブルに打ち付ける。


「名前は、もう決めてあるの?」


「う~ん、何となくね。でも、ケルンの意見も聞きたいし」


「ちなみに?」


「女の子だったらエリー。男の子の名前は迷ってるんだよね。ケルンに似せるか、全く別物にするか。」


 こね終わったナディーは、慣れてるのか手際よく成形していく。

 話ながらもキレイに成形するナディーと違って、俺が作ったものはみすぼらしかった。


「……別物にするか、ナディーに寄せた方がいいよ。俺に似たら、不器用になる。それに、親を超えてほしいじゃん?」


 実はといえば、考えてる名前はあった。

 王都で仕事の合間に子どもたちと遊んでいる時に、ナディーとの間にできるであろう子どもにも想いを馳せた。


 その時に、この名前はどうだろうかと思ったんだ。


「アレン……男の子だったら、アレンがいいな」


「アレン……アレンか。いいんじゃない。じゃー、決定。男の子だったらアレン。女の子ならエリーね」


 八重歯を見せながら笑うナディー。

 その笑顔を見て、改めて実感する。


 ああ、やっぱり、俺は君の事が大好きだよ。


 エヘヘ、ウフフと笑いあい、甘い空気が漂う。

 二人でいられる事が嬉しくて、俺達は、忘れてしまっていた。



「おーい、そこのお二人さん。親の前でラブシーンはやめてくれんかね」


「「!!!」」


 そう。ここは俺の実家で、今まさに、すぐそこで。

 両家の両親と村長が結婚式の話し合いをしているのだという事を。


 ナディーの親父さんに声をかけられ、一瞬で甘い空気は霧散した。


「かー! 甘酢っぺーなー! なあ、母ちゃん!」


「そうだねー、あんた。昔を思い出すよ」


「若い者はいいねー。私も昔はあの人と」


「孫の顔を見られる日が来るのも、そう遠くないみたいね」


 アワアワしていた俺達は、全ての会話をばっちり聞かれていた事を知り、そろってテーブルに撃沈した。



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