表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

11 青年は少年の過去を知る。

 


 翌日。

 俺は悶々としながらも何とか眠りについた。

 八つ当たりされた野菜達は細かすぎるみじん切りとなり、炒め物に使われるはずだったが、急遽スープの具となった。


 そして俺は今、近くの森への道を調査員アレクと共に歩いている。


 二人とも一応ちゃんと革鎧をつけ、剣も持ってきている。


 正直、俺はこのアレクが18歳にしてCランクだという事を疑っている。

 将来はBランクと目されているリントですら、27歳でDランクだ。


 18歳でCランクなら、確実にギルドでは話題になる。

 王都で活動していなかったとしても、1度も話題にならないなんてあり得ないだろう。


 かまをかけてみる事にする。


「アレクさんは~」


「アレク、でお願いします。ケルンさん。僕はまだ若輩者ですから」


 あ、はい。いきなり出鼻をくじかれる。

 ゴホンゴホン、気を取り直して


「アレクは、どこで活動していたんだい? 王都では全然名前を聞かなかったから」


「基本、西の方で活動していたんですよ」


 西……か。

 王都に次ぐ第2の都市がある地方で、国内唯一の砂漠がある乾燥地帯だ。


 西の方には行った事がないから、知らなくてもおかしくない……か?

 イヤイヤイヤ!

 それでも、18歳でCランクはおかしすぎるだろう!!


「18歳でCランクなんて、史上初じゃないか? 一体、どれだけの依頼をこなしたらそんなにランクが? 随分幼い頃から活動をしていたとか?」


「活動を始めたのは14歳の頃からです。ですが、訓練自体は幼い頃からやっていました」


 ……て事は、4年でCランクに?

 あり得ないだろ。


「4年でって……一体、どんな依頼を受ければ……」


「基本的にはマンティコアの討伐です」


「マンティコア!?」


 思わず、悲鳴にもにた驚きの声をあげてしまう。


 マンティコアは中の上にランク付けされている魔物で、Dランク以下の冒険者は依頼さえ受けられない。

 熟練の冒険者でさえ、きちんと準備を整えてから多人数で受ける依頼だ。


 獅子の胴体にコウモリの翼、蠍の尾を持つ獰猛な魔物。

 まず、翼と毒を持つ蠍の尾をどう対策するか。が重要だと聞いた。


 俺?

 実際に遭遇した事も討伐した事もありませんよ。

 俺が遭遇したら、即殺されると思う。


「なんでわざわざマンティコアを……」


「ほめられた理由じゃありませんよ」


 アレクが苦笑しながら話してくれる。


「僕の父親は、マンティコアに殺されたんです」


 アレク曰く、母親がアレクを妊娠している時に、村を突如マンティコアが襲ったらしい。

 辺境の村で、冒険者もほぼいなかった。

 外に助けを求めるにしても、時間がかかりすぎる。


「そこで、冒険者だった父さんがマンティコアに立ち向かったそうです。父さんは冒険者でしたが、一人でマンティコアを倒せるほどの実力はなかった。村の男衆が犠牲になって捕食されている最中に翼と尾をなんとか切り落とし、相討ちになったそうです」


 アレクが、そっと目をふせる。


「深い崖にマンティコアと共に落ちていき、父さんは遺体もあがりませんでした。多くの犠牲によりマンティコアは倒されましたが、村民の約8割が犠牲になり村は壊滅状態。残った人々は別の都市で暮らし始めました。父も両家の祖父母も亡くなった為、母は女手一つで僕を育ててくれました」


「……苦労なさったんだね、お母さんは」


「そうですね。父のかつての冒険者仲間達が助けてくれたりはしましたけど、母は苦労したと思います」


「お父さんや村の人への復讐の為、マンティコアを?」


 うーん、とアレクが首をひねる。


「復讐……って言葉では括れないですね。僕はただ単に知りたかったんだと思います。その村は、マンティコアの生息地域から大きく外れていました。いるはずがない場所に、突然マンティコアがあらわれた。僕はそれが不思議でしょうがなかったんです。だから、知ろうと思った」


 マンティコアの生態を知る為にマンティコアを観察した。

 マンティコアを知る為にマンティコアを討伐した。

 マンティコアの全てを知りつくす為に、マンティコアを調べ尽くした。


「そうしたら、いつの間にかランクもあがっていたというわけです」


 何でもない事のように、さらっと口にするアレク。

 だが、同じ冒険者の俺にはわかる。

 それが、どれだけ辛苦に満ちた軌跡だったかが。


 その目は、一体どれだけの血を見てきたのか。


「マンティコアが出現した理由は、わかったのかい?」


 いいえ、とアレクが首を振る。


「まだ、探している途中なんです。でも、必ず見つけてみせますよ」


 そこで笑顔を浮かべられるのが、彼の強さだと思った。


 正直、まだ気にくわないと思う気持ちはある。

 だが、俺は彼を見直し始めていた。


 近くの森の入り口にある、村の共同墓地で、アレクは長い間祈りを捧げていた。


 この事も、俺の感情を軟化させた。

 大切な人達の為に祈られて、嫌がる人はいないだろう。



 その後、アレクに森の中も案内した。

 動物を観察したり植物を手に取ったりしながら、アレクは何かブツブツと話していた。

 どうやら、彼は考えている事が一人言となって口に出るタイプらしい。


 これは、聞かないのがマナーだろう。

 俺は、少しだけ距離をとった。


 森のほぼ全部を案内し終えたので、帰宅しようと出口に足を向けると。


「ケルンさん、向こうは? あちらの奥の方には行ってませんよね?」


 目敏い男だ。

 アレクが指した方向は、森の最奥。


「向こうは禁足地だから案内はできない。」


「禁足地……何があるんですか?」


 ……実際、俺も知らない。

 禁足地だから入った事もないし。


「何があるかは知らないんだ。ただ、百年に1度。雫満ち溢れる満月の夜にだけ入っていいって言われてる」


「雫満ち溢れる満月の夜? それはいつの事だか知っている方は?」


「いないな」


 一番詳しいアミナ婆も、村長であるルミ婆も知らないと前に聞いた事がある。


「……」


 顎に指をあてて、何かを考えているアレク。


「入っちゃダメだからな」


「イヤだな~わかってますよ」


 入る、こいつ絶対入ろうとしてる。

 でもまあ、四六時中監視なんてしてられないし、放っておこう。



 連れだって村へと戻る。

 遠目に村の入り口が見える。


 もう夕方だった。

 夕焼けが目に染みる。


 やっと今日の案内係終わった。

 疲れたわー、めっちゃ気疲れしたわー。


 はあ、とため息をついた時、ギチチチという歯をこすり合わせる音と悪臭。


「! ゴブリン!?」


 剣を抜こうとしたその時、俺の横を何かの影が駆け抜けていく。

 何かを確認しようとする前にドサッと音がして、ゴブリンの首が地面に落ちた。


 あまりの速さに、俺は愕然とした。

 そんな俺を尻目に、アレクは血がついた剣を振るい鞘にしまっている。


 たかがゴブリン1匹。たかが剣の一振り。

 だが、その1匹と一振りで彼との力量の差を思いしった。


「どうしましたか?」


 彼にとっては、何ともない当たり前な事なのだろう。

 普通に、声をかけられる。


「いや……素早いなと思って」


「素早い? ……ああ、僕の行動の事ですか? そりゃあ、殺られる前に殺らないと。驚いて声に出してから行動をするようじゃ、遅すぎです」


 ……思いっきり、俺のことじゃないですか。


「仲間がいるならともかく、個人で活動するケルンさんは一瞬の隙が命取りですよ。もし良かったら、僕が滞在する間一緒に修行しませんか?」


「結構です!!」


 俺はダッシュで逃げ出した。


 18歳でCランクになって、マンティコアを専門に討伐してた奴の修行とか、めっちゃ俺死にそう。

 あれだろ?火の輪をくぐらされたり、崖から突き落とされたりするんだろ?


 断固拒否する!!

 俺は愛するナディーと、まだ見ぬ子どもを抱っこするまで死ねん!!


 俺はそのまま、全速力で帰宅した。



 夜、就寝前のナディーとの大事なひととき。

 俺は、狙っていた。

 昨夜残念な結果に終わってしまった、ナディーとの蜜月タイム。


 流石に、2日連続で邪魔しにくる事などないだろう。


 寝間着姿で、丹念に髪をとかしているナディー。

 風になびくサラサラストレートが憧れらしく、「まっすぐになれーまっすぐになれー」と、祈り?呪い?の言葉をだしながらとかしている。


 俺は、そんなナディーをベッドに寝転がりながら見ていた。

 櫛を横に置いたナディー、その姿を見て我慢できなくなった俺は、ベッドから起き上がり彼女の横に座った。


「ん? どうしたの? ……って」


 肩を抱き、ナディーを見つめる。


「んもう、ケルンったら……」


 ナディーの瞳も熱っぽくなる。

 いける!今日こそいける!!


 ナディーと唇を重ね、ついばむように口づけてから徐々に深くしていく。


「んっ……」


 ナディーの甘い声が流れた事を合図に、ゆっくりとベッドに押し倒す……


 ドンドン!


 これは扉を叩く音。

 ……無視。


 ドンドン!

 ……無視。


 ドンドンドンドン!


「ケルン……」


 音を無視する俺を咎める声。


 ドンドンドンドン!

 誰だっつーの!!!


 ドスドスと足音をたて、客人に怒りアピールをする。

 いきり立ち始めていた股間は、あまりの怒りでしぼみ始めていた。


「はい!?」


「あ、お疲れさまですー」


 怒りのままに扉を開ければ、そこにはニコニコ顔のアレク。

 あまりのニコニコ具合に、イラついた感情がプシューと抜けていく。


「夜分にすみません。明日は一人でシュバルティス山脈を見てくるので、ケルンさんはいつも通りにお仕事なさってください」


「あ、はい。了解しました」


「もしかしたら、泊まりになるかもしれませんので。明後日の用事はまた後日。それではおやすみなさい」


 そう言って、アレクは戻っていった。

 シュバルティス山脈……確かに、俺がついていったら足手まといだ。

 Cランク冒険者の立ち居振舞いを、近くでで見たいという気持ちはあるが、命大事。


 俺は扉を閉めて、ナディーの所へ戻った。


 そうしたら、ナディーは乱れた寝間着を整え寝るところだった。

 あの、ナディーさん?


「あ、ケルン。誰だったの?」


「アレクだよ。明日の事の連絡だった」


「そっか。じゃあ、明日に備えて今日も早めに寝ないとね。おやすみ、ケルン」


「おやすみなさーい……」


 ナディーはさっさとベッドに入ってしまった。

 えー、ナディーさん。続きは?


 ナディーを求める手だけが、空しく手招きをする。

 2日連続でお預けっすか?


 見直した、少しはアレクを見直した。

 だけど!ナディーとの新婚タイムを邪魔するあの男は、やっぱり気にくわない!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ