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10 青年は謎の少年と出会う。

 


 式の翌日。

 爺さん連中は、普段は全然飲めないアルコールをたらふく飲んだ事により、半数近くが寝込んでいた。


 婆さん連中はそんな爺さんに激怒したり呆れたりしつつ、いつも通りの畑仕事を。


 リントはガルシム師匠と近くの森へ。


 ヒュースは……グッタリしながら、俺の実家のベッドに転がっていた。

 アミナ婆から一晩中逃げ回ってたらしい。


「何であんなお婆さんなのに、あんなに走れるの……逃げきったけど、負けるかと思った……」


 アミナ婆は美青年を捕まえる時だけ、健脚になります。

 これは今日1日グッタリかな。と思ったら、流石ヒュース。

 午後には復活して別の人に薬草の事を教えてもらっていた。


 俺は、ナディーとギルド再開の為の準備をした。

 掃除はナディーがしてくれていたから、準備はそんなに手間じゃなかった。


 ナディーの親父さんとお袋さんがやっていた当時の備品も若干ボロくなりつつも残っていた。

 ナディーが大切に手入れしながら取っていたらしいが、経年劣化はどうしようもない。


 椅子とテーブルを並べ、依頼を書くための大きな黒板もガラガラと出してくる。


 王都と比べたら、小さなギルド。


 それでも、ナディーと俺の夢の場所だ。


 明日から、俺はギルド所属の冒険者。

 ナディーは受付嬢として働くことになる。


 すでに村長さんに頼んで、宣伝はしてもらっている。

 ガルシム師匠の時と同じように色々な雑用をこなす事になるだろう。


 これからが、スタートだ。


 でもその前に……

 俺の腕にからみつきながらギルドを見つめているナディーに視線をおろす。


 ナディーさん。くっつくのは構わないんですが、結果的に胸を押し付けている状態になっているのは気づいているでしょうか。

 俺はそろそろ限界です。


 ……よし!


 わずかの逡巡の後、俺はナディーをお姫様抱っこで抱き上げた。


「け、ケルン!? なに? どうしたの!?」


「ナディーに胸を押しつけられて興奮したから、ナディーを食べようと思って」


 いきなり抱き上げられてパニクってたナディーが、ピタッと止まる。


「え? いや、まだ夕方だし。若干明るいし」


「新婚家庭だから大丈夫だよ」


「いや、それ答えになってないよね!?」


 うむ、らちがあかない。


「ナディーは、俺とするの嫌なのか? それなら我慢する。ナディーに無理させたくないから……」


 俺は悲しそうにうつむく。

 村に戻ってきてからの20日間で、ナディーは悲しそうにうつむかれるのが弱いとわかった。

 ので、俺はここぞとばかりに使いまくる。


「うぅ……」


 目に見えてわかるほどに、ナディーが怯んだ。

 ここが好機と俺は、切なそうに見つめる。


「ゆっくり……優しく……だからね」


 顔を真っ赤にさせながら、ナディーが呟いた。


 勝った!!

 俺は、心の中でガッツポーズをした。


「約束するよ」


 ナディーの額に軽い口づけを降らし、抱き上げたままナディーをベッドに運び込んだ。


 ゆっくり優しくというナディーとの約束は早々に破ってしまい、終わった後「しばらくしない!」と怒るナディーに俺は平謝りだった。



 翌日。

 案の定、俺がナディーを抱き上げながら運ぶところを村の人に目撃されていたらしく「お盛んじゃのー」「赤子の顔もすぐ見られそうじゃー」との言葉をもらった。


 リントからは嫉妬からの八つ当たりをされ、「腑抜けないように鍛え直してやる!」とズルズルと引きずられて連行された。




「っで!!」


 近くの森周辺でリントにしごかれた俺は、最後は情けなく吹き飛ばされ尻餅をついて終わった。


「少しは手加減してくれよ。リント」


「姉さん女房をもらって、幸せいっぱいで浮かれまくってる野郎相手に誰が手加減するか」


 要するに嫉妬か。

 道理で、いつもより殺気がこめられてると思ったわ。


 よっこいしょと立ち上がり、二人で並んで座りながら水筒から水を飲む。


「しかし、ここは不思議な村だな」


 ん?


「これだけの自然環境が揃っているのに、強い魔物が生息していないなんて」


 ……言われてみればそうだな。

 生まれてからこれが普通で、疑問に思う事さえなかったけど。


 村の東には、死の谷と呼ばれるほどの深くて広い崖。

 北には国一番の峻険、シュバルティス山脈がそびえ立つ。


 村は東の国境にほど近い場所にあるが、死の谷とシュバルティス山脈がある為、これまで他国の侵略にさらされた事はなかった。


 特にシュバルティス山脈は、誰一人踏破した事がないと言われるほどの天険だ。

 死の谷も覗きこんでも底が見えず、落ちたら生きてかえってはこれないと言われている。


「シュバルティス山脈は、冒険者の中でも有名な凶悪な魔物と素材の宝庫だ。その魔物が、何で村にはおりてこないんだろうな」


 そんな事俺に言われても……


「うまみがないからとか? 自慢じゃないが、村には何もないぞ。山の方がうまい食料があるんじゃない? それか遠くて面倒だからとか」


 村の北にそびえてはいるが、麓の村というわけじゃない。

 人の足で行くには面倒すぎるほどの距離がある。


「ん~、まあそんなところなのかな」


 無理矢理自分を納得させているリント。


「でも、ま。お前一人で対処できないような魔物が出る気配もないし。良かったよ」


 パンパンと尻についた草をはたき落としながら、リントが立ち上がる。


「……ん? もしかしてリント、昨日ガルシム師匠と外に出掛けてたのは危険な場所とかを調べる為?」


「それもある。お前は戦闘センス0のくせして、無理するし。冒険者がお前しかいないなら、尚更何かあったら逃げないで立ち向かうだろうからな」


 ……否定はできない。


「俺やヒュースはもう助けてやれないし。でも、心配は心配だからな」


「……リントって意外と過保護で心配性だよね」


「仲間や弟分を心配するのは当たり前の事だろ」


 ムスッとしたような照れたような顔をするリント。

 リントはいつもそうだ。

 不器用に優しい。


「言っても無駄だろうけど言っとく。無理すんなよ、ケルン。何かあったら連絡しろ」


「ん、ありがとう。リント」


 無理しない。それは約束できないけれど。



 村に滞在して1週間。

 リントとヒュースは、王都に戻っていった。

 ヒュースは、まだ薬草等々を勉強したがってたみたいだけど。


 リントは滞在中、気になる事があるのか、死の谷やシュバルティス山脈の麓とかに色々出掛けていた。

 時々、美少年大好きアミナ婆や村長のルミ婆、ガルシム師匠なんかに話を聞いてたみたいだ。


 リントは線が細い美少年タイプじゃないから、アミナ婆の好みではなかったらしく、普通に話をしていた。


 ヒュースは帰りに、「子どもができたら知らせてねー。すぐにできそうだけどー!!」

 と、微妙な発言を大声でかましてくれた。


 幌馬車と馬2頭は結婚祝いの一部だったらしく、村に置いていった。

 ありがたく使わせてもらおう。



 リントとヒュースが帰ってから1週間。

 結婚して約2週間。


「優しくしてくれなかった!」とのナディーの怒りはまだとけていない。

 つまり、あれから1度もしていない。


 新婚ほやほやの若い男に、それは拷問じゃないでしょうか。

 寝息をたてるナディーの寝顔に、水浴び後のナディーのうなじに、食事の時に時折見えるナディーの舌に。


 俺は興奮しっぱなしだった。

 我ながら猿だと思う。



 その日は依頼で近くの森にいた。

 共同墓地の草むしりと、木製十字架の手入れ。


 しゃがみこんでブチブチと草を抜いていく。

 草をむしりながらも、あの花の色はナディーの唇の色に似てるな。

 あの木のうろはナディーの横顔に似てるな。

 果ては、無造作に積み上げたむしりとった草を見て、あの草の曲線具合は、ナディーの腰つきに似てるな。


 ……うん、わかっていたけど俺馬鹿だわ。


 十字架の手入れを終え村へと戻ると、何だかいつもと雰囲気が違う。

 危険が迫っているような違和感ではなくて、浮かれているような……


 何かあったのか?


 少し警戒しながら、村へと入る。

 村の出入り口のすぐ近くに、ギルドと俺とナディーの家がある。

 そのギルドの前に、黒山の人だかりができていた。


 ギルドができてから、あのような人だかりができた事は一度だってない。

 本当に、何が起きたんだ。


「あ、ケルン。やっと帰ってきたのかい!」


 人だかりの山から、声をかけられる。


 何があったのかと尋ねる前に、人だかりがギルドの前から俺の周囲へとドドッと移動してきた。


「何何何!!?」


 ちょっと怖いんですけど!


「美少年だよ、美少年!」「美少年がナディーを訪ねてきたんだよ!」「いや、本当に美少年だよ」「わしも、若い頃はあのくらいに美少年で髪だって~」「本当にお人形さんみたいだね~」


 わけわからん。

 とにかく、美少年が中にいるらしい。

 ナディーと美少年が二人きり。


 ……それはいかん!!


「ナディー!!」


 慌てて、扉を開いた。


「あ、ケルン。おかえりー」


 ナディーがいつもの笑顔で出迎えてくれる。

 再開したギルドは、村の爺婆の茶飲み場にもなっている。

 ナディーは依頼の受付をしながら、爺婆の愚痴なんかを聞いている。


 いつもは爺婆が集まっている茶飲みテーブルに、誰かが座っていた。

 立ち上がって、こちらを見る。


 その時に覚える、既視感。

 何故だろう。

 この少年と会うのは初めてなのに。


「ケルン、こちら冒険者兼ギルド派遣調査員のアレクさん」


 ギルド派遣調査員?

 確か、国が派遣してギルドが適切に運営されているかを調べる人だったけか?

 けど、国の選抜試験を通らなきゃいけないから、若くても20代半ばからだって聞いたぞ。


 目の前の少年は……どう見ても俺より若い。

 下手したら10代じゃないのか?


「失礼ですが、おいくつで?」


「18歳です」


 俺より若かった。


「こちらを、冒険者とギルド派遣調査員の免許、国からの調査指示です。どうぞ、ご確認下さい」


 ……冒険者ランク、Cだと!?

 Aが世界に数人。

 Bが国に数人。

 つまり、Cは一般冒険者の頂点。


 リントでさえ、まだDランクなのに……

 ちなみに俺はE。

 リントとヒュースのお陰で、ここまであがりました。

 18歳でC……

 一体、どれだけの功績をあげたのか。


 聞きたいけど聞きたくない。

 聞いたら、嫉妬の炎で焼きつくされそう。


 悶々としている俺をよそに、ナディーと少年アレクの話は続く。


「調査の人が来るなんて随分早いんですね。来るとしても、もう少し先かと思ってました」


「そうですね、本当ならもう少し先の予定だったんですよ。でも、僕が働きづめだから、休暇がてら行ってこいって放り出されたんです。お前は無理矢理に休ませないと、いつまでたっても休まないって」


「働き者なんですねー」


 ニコニコと会話を続ける二人。


 あまり不躾にならない程度に、少年を観察する。


 顔……爽やか系イケメン、村中を魅了した

 髪……金髪サラサラ

 身長……俺より高い

 体型……革鎧や籠手で隠れているが、俺みたいなヒョロガリではない

 性格……良さげな感じ、ずっと微笑んでいる

 装備……革鎧や籠手はすりきれているが、所々丁寧な補修がされているのが見受けられる。

 その他……18歳にしてCランク&ギルド派遣調査員。つまりエリート。


 総評……気にくわない!!


 気にくわない!

 とてつもなく気にくわない!

 とてつもなくムカつく!


 見た目整ってるのも、細マッチョなのも、背が高いのも、エリートなのも、Cランクなのも、名前も!

 全てが気に入らない!


 特に気に入らないのは、剣。

 すりきれて補修された革鎧や籠手とは不釣り合いなほどに、輝く剣。

 もしやこれは、名剣と呼ばれるほどの逸品ではないですか?


 それにアレクって、もし男の子が産まれたら俺がつけたかった名前と1文字違いじゃん!


 人の名前に文句をつけるなんていけない事だ。

 そんなのわかってる。

 自身ではどうしようもないことに因縁をつけるなど。


 だが!

 それはそれ、これはこれ。

 俺はそんな常識をポイ捨てするほど、この少年が気にくわない!


 恨み辛みを込めたジト目で、少年を睨み付けた。




「……」


 現在、俺はブスくれた表情で野菜を刻んでいる。


 あの後……


 この村に宿屋なんてない為、少年アレクの宿泊場所が問題になった。

 ギルド派遣調査員なのだから、ギルド関係者のところに泊めるのが筋。


 だがしかし、うちのギルドは誰かの宿泊を想定して作られていない為、部屋がなかった。

 ならばナディーと俺の家。となるのだが同じく部屋がない。


 村中の婆さん達が、「なら家に!」「いや、家だ!」と口喧嘩を始め、もう少しで血みどろの女の戦いが始まってしまうところだった。


 結局アレクは、「おう、うちに来い!」との父さんの一言で、滞在中俺の実家に宿泊する事が決まった。

 アレクが若干嬉しそうな顔をしていたのは何故なのか。

 イラつく。


 明日からは、俺が周辺の環境を案内しつつ、いつもの仕事を見てもらう事になっている。

 つまり、ほぼ1日中一緒。


 ……鬱だ。


「ケルン、どうしたの?」


「ナディー、いや何でもないよ。明日からちゃんとしないとと思ってさ。ギルドが潰されたら困っちゃうし」


 そう。ギルドが適切に運営されていないと調査員に判断されたなら、営業停止処分。

 最悪、とり潰されてしまう。

 それだけの権限を、調査員は持っている。


「大丈夫だよ。ケルンも私も、何も悪いことなんてしてないもの。いつも通りのケルンでいいの」


「ナディー……」


 ナディーの笑顔。

 それは俺の荒んだ気持ちを、こんなにも穏やかにさせる。


 野菜を刻む手をとめて、彼女の顎を持ち上げ腰を抱き寄せる。


「け、ケルン……」


 ナディーが赤面しながら目をそらす。

 結婚して2週間。

 ナディーは、甘い空気や雰囲気にまだ慣れないみたいだ。

 隙あらば、逃げようとする。


 でも、我慢しつづけ逃げられつづけ、俺はもう限界です。

 ナディーに怒られてから、軽い口づけしか交わしてない。


 俺はそれじゃ足りない。

 今夜は逃がさない。


 どんどん、俺とナディーの顔が近づく。

 観念したのか、ナディーも目を閉じて受け入れ態勢だ。


 唇が重なるというその瞬間、ドンドンと扉を叩く音がした。


「「…………」」


 どこのどいつだ!!


 音を無視して続けようかと思ったが、扉を叩く音は鳴りやまない。

 そのうち、くぐもった声まで聞こえてきた。


「すみませーん、派遣調査員のアレクですがー」


 俺のこめかみに、ビキッ!と怒り模様が浮かんだ。

 このクソ野郎!


「あ、はーい」


 ナディーが俺の腕からすり抜けて、応対する為に扉をあけた。

 すり抜けた腕が、空しく宙を掴む。


 ナディーさーん、戻っておいでー



 会話が終わったのか、扉を閉めてナディーが戻ってきた。


「明日の話だったよ。明日は近くの森の案内をしてほしいから、依頼を受けるなら、周辺ですませられるやつにしてほしいって」


 ……明日でいいじゃねーかよ!!

 なんで、わざわざ今伝えに来た!?


 先ほどまでの甘い空気はどこへやら。

 ナディーは俺の腕の中には戻ってこず、夕飯の支度を再開してしまった。


 俺のこの燃えた思いはどうすればいいの?

 このままじゃ眠れないんですけど。


 だが、「美味しいご飯つくるからね~♪」と張り切っているナディーを邪魔する事など……俺にはできない。


 不完全燃焼な思いと肉体を、俺は野菜に叩きつけた。


 やっぱりあの男は気にくわない!!



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