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9 青年は結婚する。

 


 王都から戻ってきて約20日。

 とうとうナディーとの結婚式だ。


 暖かな日差しがふりそそぎ、風もさわさわと葉を揺らす。

 この天候だったら、急に崩れる事はないだろう。

 過ごしやすい1日になりそうだ。


 俺は、実家の1室で準備していた。

 と言っても、花嫁のナディーと違い、俺はとくに準備をする事はないが。


「おー、ケルン。準備できたか?」


 父さんがノックもなしに入ってくる。

 言っても無駄なので、俺はすでに諦めた。


「んー、花嫁の隣に立つっつーのにな……」


 俺の服装を見て、はーとため息をつく。

 そう、ナディーや両親への土産は買ってきたのに、俺は自身用の結婚式の服装の事を全くもって考えていなかった。


 一番いい服が、王都でずっと冒険者をしていた時の服だった。

 それもそこら辺がすりきれてる。


 他の人に借りるという事も考えたが、ここ何年も村で結婚式をしていなかった為、新郎用の晴れの服を持っている人が誰もいなかった。


 隣町に買いにいくかという話も出たが、これからの生活に貯めておこうという事でなしになった。


 きちんと身だしなみを整えたナディーの横に、みすぼらしい俺。

 ナディーに申し訳がなかった。


「そこまで気にすんな。ほら、花嫁が待ってるぞ」


 俺は、落ち込んだ気持ちを無理やり引き上げながら、ナディーの元へ向かった。



 この村に教会なんてものはない。

 王都ではミスラメリスという女神を信仰している人が大勢いたが、村には布教に来なかったのか誰も信仰していなかった。


 この村では、しいていえば、信仰しているものは『自然』なのだろうか。


 昔は、墓がある近くの森ところでやっていたらしい。

 恵みを与えてくれる自然に、ご挨拶が云々とか言っていたけど詳しくは知らない。


 俺とナディーは、村の中で行う。

 昔より年寄りが多い為、森のところまで行くのが大変な人もいるからだ。

 出現率は低いけど、一応魔物もいて危険だから。


 家の外に出たら、すでに村の人が大勢いた。


 笛や太鼓の楽器の音、楽しそうな歌声。

 普段は静かな村がとても賑やかだった。


「ケルーン」「おめでとー」「幸せになー」


 村の人に笑顔で返しながら、式が行われるギルド前に移動する。

 二人の始まりの地はそこだからと、式の場所はそこにした。


 まあ、ギルドもそこそこ広さがあって、ギルド前の広場も使ったら村人全員が集まれるからという理由もあるのだが。

 集会で使う建物もあるが、そこだと少し狭い。


「立派になったねー、ケルン」


 母さんが、目元の涙をぬぐいながら祝いの言葉をかけてくれる。


「母さんも、今日まで色々と準備とかありがとう。苦労かけっぱなしで……何も返せなくて……」


「何言ってるんだい、今日まで無事に成長してくれた事が何よりのお返しだよ。ナディーちゃんと、もっともっと幸せになるんだよ」


「うん……父さん」


「何も言う事はねぇ! お前は俺の自慢の息子だ!」


 バシイッ!と思いっきり肩を叩かれる。


「痛っ!」


「なんでぇ、弱々なところは変わってねぇな」


 父さんもごまかしながらも、涙声だ。


「さあ、行くか」


 父さんに連れられ、式の場所であるギルド前へ移動する。

 皆に祝福されながらも、心はどこか晴れない。


 リントとヒュースの事だ。

 最高の仲間と、自分のせいで最低な別れ方をしてしまった。


 二人にも出席してほしかった。

 ナディーや両親、ガルシム師匠を紹介したかった。

 二人とも、出席したいと言ってくれていたのに。


 手紙を、残せば良かった……



 式が行われるギルド前へ到着し、ナディーを待つ。

 親父さんとお袋さんに付き添われ、ナディーがしずしずと歩いてくる。


 顔には化粧が施され、ナディーのコンプレックスであるそばかすも若干薄くなっている。

 頭にはヴェール。

 このヴェールは、俺が王都で買ってきたものだ。

 純白の薄いレースで作られたヴェールに、同じく白い生花が飾られ、ナディーを彩る。


 服はドレスではなく薄紅色のロングワンピース。

 これも、俺が王都で買ってきた。

 ドレスは予算オーバーだった為、ロングワンピース。

 己の甲斐性なしを思い知らされるようで、胸がいたい。


「ナディー……ごめん……ドレスを着せてあげられなくて……」


「なんで謝るの? 私はヴェールもワンピースもとても気に入ってるのに。ケルンが頑張って働いて、私の為に買ってくれたものだよ?」


 何を言っているんだという目で、キョトンとする。


「胸をはって、ケルン。私は幸せだよ」


 ナディー。

 ヒョロガリで間が抜けてて、すぐに落ち込む俺だけど、ナディーはそんな俺が良いと、幸せだと言ってくれる。


 俺は、本当に恵まれている。


 さあ、顔をあげよう。

 ずっと重苦しい顔をしていたら、ナディーにも参列してくれている村の人にも失礼だ。


 受け取ってくれるかはわからないけど、リントとヒュースには手紙を書こう。

 そして、ナディーを連れて会いに行こう。


 俺が過ごした第2の故郷である王都をナディーにも見せたい。

 世話になった先輩方や街の人にも紹介したい。


「ケルン、ナディー。そろそろいいかい?」


「はい、お待たせしてすみません」


 村長であるルミ婆に応え、ナディーの手を取る。


 その時。



「おぉーい、何か遠くに見えるぞ」


 ??


 指差す方向は、村の入り口。影が見える。

 行商はめったに来ないし、まだその時期じゃない。

 なんだろう……

 誰かを訪ねに来たのだろうか……


 めったにない客人に、少し警戒する。

 村の人達とナディーを後ろに下がらせる。


 馬車……か?

 ブルルルとかヒヒンとか、ガラガラとか聞こえてくる。


 遠目に目をこらす。


 ……もしかして、あの人影は。


「ちょっと待ってて!!」


 ケルン!というナディーの声を置き去りに、俺は影に向かって走り出した。


 5年間、毎日見ていたあの姿。

 間違えるはずがない。


「リント! ヒュース!!」


「おぉー、ケルン。元気だったか?」


「結婚式終わっちゃった? まだ大丈夫?」


 御者をしているリント。

 その横でくつろぐヒュース。


「っ……はあ、はあ、何で……」


 息を整えながら疑問を口にする。


 怒ってるんじゃなかったのか……?

 最後の最後に馬鹿をやった俺の事。


「何でって、言ったでしょ? ケルンの結婚式には参加するって」


「パーティーを追い出したのは、お前がさっさと帰らないからだ。ミスしなかったら、適当にでっちあげて追い出すつもりだった」


 ひでぇ……


「ケルンは思いきりがないしチキンだからね。あれくらいの事がないと出ていけなかったでしょ? まあ、あそこまでのミスをするとは思ってなかったけど」


 ケラケラと笑うヒュースに、うで組をしながら渋面なリント。


「受けてた依頼を終わらせて、急いで来たんだよ。結婚式は? まだ大丈夫?」


「いや、ちょうどこれからで……」


「これから?」


 リントとヒュースが、じろじろと俺の服を見ている。


「ケルン、お前。貯金していたんだろ? 自分の服は買わなかったのか?」


「いや……自分の服は、これっぽっちも頭にありませんでした」


「あはは、ケルンらしいね。じゃあ、これ持ってきて正解だったね」


 そう言いながら取り出すのは、上質なシャツとズボン。


「リントと僕からの結婚プレゼント。スーツにしようかとも思ったんだけど、ドレスは予算オーバーで買わないって聞いてたから、ケルンだけスーツにしたら浮くなと思ってね」


「……ありがとう。ところで、この巨大な幌馬車はなに?」


 とてつもなくでかい幌馬車だ。

 何人乗りだ?これ。


「結婚祝い。ケルンの結婚式に行くって言ったら、ギルドの皆や街の人があれもこれもと詰め込んでね。急遽、馬車を手配したんだよ」


「まあ、その馬車の手配と詰め込み作業で時間とられたんだけどな。この馬車1台だけじゃ足りないかもしれないって思った」


「間に合って良かったよねー」


 ……え?て事は、この馬車いっぱいに荷物が入ってんの?

 どんだけ?


「その前に、早く村に行こう。皆待ってるんだろ?」


 リントの言葉に我にかえる。

 そうだ、待たしたまんまだった。


 その前に。


「リント、ヒュース。来てくれてありがとう」


 何を言っているんだというように、2人が笑う。


「仲間の門出を祝福するのは当たり前だ」


「ケルンは僕らの弟みたいなものだからね。いつでも駆けつけるよ」


 ああ、本当に俺は周囲に恵まれている。



 その後村に戻った俺は急いで服を着替え、式に臨んだ。

 その間に、ナディーや両親、ガルシム師匠の間で、「ケルンがお世話になりました」「いやいや、こちらこそ」みたいなやり取りがあったらしく、すっかり打ち解けていた。


 両親なんて、「しばらくうちに泊まっていけ!」「お布団の準備しなきゃ」なんて張り切っていた。


「いやいや、そこまで甘えるわけには……」


 と遠慮するリントの言葉に被せながら、


「わあ、ありがとうございます。ケルンからここの村の皆は薬草や毒草の知識が豊富だって聞いてるんで、数日滞在して勉強したいと思ってたんですよー」


「それなら、アミナ婆が一番詳しいな。頼んどいてやるよ」


「わあ、ありがとうございます」


 ヒュース。アミナ婆は一番詳しいけど、一番厳しい先生です。

 ヒュースみたいに線の細い美青年が大好物です。


 俺もアミナ婆に教わったけど、それは小さい頃の話。

 子どもはアミナ婆の守備範囲外なので俺は何ともなかった。


 俺は一応ヒュースの無事を祈っておいた。



 やっとの事で式が始まった。

 王都でやるような豪華な式じゃない。

 けれども、心が温まる式になったと思う。


 ナディーや両家の両親、ガルシム師匠、リントとヒュース。

 そして、村の皆。

 皆が涙ぐみ、歓声をあげ祝福してくれた。


 ナディーは自然の中で微笑む顔が一番可愛いと思っていたけれど、キレイな格好をしたナディーも可愛い事に気づいた。

 大発見だ。


 そばかすはナディーのチャームポイントだと思っていたけれど、なくても可愛い。

 八重歯はナディーのチャームポイントだと思っていたけれど、八重歯が見えないように微笑むのも可愛い。


 つまり、俺はナディーにめろめろだという事だった。


 式の後は、村をあげての宴会になった。

 普段は飲まないアルコールを飲み、貴重な一番茶を飲み、いつもより多めの食事が振る舞われ、子ども達には甘菓子が振る舞われた。


 その時にリントとヒュースが持ってきてくれた皆からの結婚祝いの整理もしたんだけど、もうすごかった。


 まずは、大量のアルコールと食料。

 米、麦等の主食。

 芋や根菜等の長持ちする野菜類。

 葉物野菜系はピクルスに、果物系はドライフルーツ。

 肉や海産物の生物系は干し肉や干物に。

 砂糖、塩、蜂蜜などの調味料。


 ここまではまだわかる。


 食料やアルコールに乏しいと言っていたから、結婚式にたくさんの食事をと思ったんだろう。

 問題はここからだ。


 夜に火を灯す為の油。

 布や針、糸等の裁縫道具。

 ノコギリや鉈、包丁などの刃物類。

 包帯や消毒液等の医薬品。

 本や紙、ペン等の勉強道具。

 果てには、子ども用の絵本やおもちゃまであった。


 これでは、結婚祝いというより……


「支援物資……?」


 リントが目を背け、ヒュースが苦笑する。


「最初はね、食料だけだったんだよ。でも、そこから何故か食料だけじゃ芸がない! ってなってね。辺境の村だって聞いた! なら、他の物資でも喜ばれるんじゃないか? で、後はどんどんどんどん……」


「俺は一応止めたんだが、ライリーさんは誰にも止められなかった」


 ああ……と俺は遠い目をする。

 ライリーさんはお祭り好きだ。

 楽しがってテンションがあがったら、誰にも止められない。


「まあ、ライリーさんもケルンが結婚ってなって嬉しかったんだよ。この幌馬車と馬を借りる代金もライリーさんが出してくれたし。アルコール類は、8割ライリーさんからだね」


 ライリーさん、酒好きだからなぁ……


「ライリーさんも来たがってたんだが、外せない依頼が入ってな」


 そうか……ガルシム師匠と会いたかったんじゃないかな。

 ガルシム師匠に頼んで、ライリーさんに手紙を書いてもらおうかな。


「まあ、そんなこんなだけど皆の気持ちは詰まってるから、受け取ってもらえると有り難いかな」


「受け取らないなんて選択肢、俺にはないよ。それに、皆喜んでるし」


 見た事もないくらいの大量のアルコールと食料、その他物資に皆目を見開いて驚き、めちゃくちゃはしゃいでいた。

 すでに子ども達は絵本やおもちゃで遊んでいる。


 皆で集会場に詰め込み、村の共有財産にする事にした。

 村の皆は家族同然だし、俺やナディーだけでは持て余してしまう。


「皆に、ありがとうって伝えてほしい」


「もちろん」



 その日は、遅くまで村中が騒いでいた。

 子ども達も夜更かしを許され、二人が持ってきてくれたおもちゃや絵本で早速遊んでいた。


 リントはガルシム師匠と冒険者話に花を咲かせ、ヒュースは早速アミナ婆に薬草の話を聞いていた。

 アミナ婆の頬が若干染まり獲物を狙う目になっていたが、俺は見ない振りをした。


 俺とナディーは早々に宴会を抜け、二人の新居に帰ってきた。

 ギルドの隣に立てられた家。

 ここが、今日から俺とナディー二人の新居だ。


「リントさんとヒュースさんも来てくれて良かったね。二人ともいい人そう。後で、ケルンが王都にいた時の話も聞かなくちゃ」


 とても嬉しそうに声を弾ませるナディー。

 いい人というのには同意だけど、王都にいた時の話はやめていただきたい。

 あの二人の事だ。

 嬉々として、俺の失敗談を話すに違いない。


 楽しそうにリントとヒュースの事を話すナディーを、後ろから抱き締め、首もとに顔を埋める。


「え、えっとケルン……?」


 新婚初日に、俺以外の男の話はこれ以上必要ない。

 俺は意外と嫉妬深いらしい。


 そのままハムハムと唇でナディーの首もとを甘噛みする。


「ちょちょ、ちょっと待って、ケルン!」


 ジタバタと腕の中から逃げようとするが、逃がさないようにガッチリと抱き締める。


「え……えと……」


 するの?と蚊がなくような小さな声で呟く。


「俺はしたい。でも、ナディーが嫌なら少しは待つ」


 少しは。ずっとは無理。


「よ……よし……!」


 拳を握りしめ、気合いをいれるナディー。

 初夜というのは、そこまで気合いが必要なものだっただろうか。


「ケルン、顔を見せて」


 腕の中でクルリと向きを変え、こちらを見上げるナディー。

 そらさずに、ジッと見つめてくる。


 え、何。俺が恥ずかしい。


 誤魔化すように、俺はナディーに口づけた。



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