プロローグ
黒雲が立ち込め、雨が降り始めている。
地面は少しずつぬかるみ、剣を握る手を水滴が濡らす。
足場も視界も悪い。
手も剣も雨で濡れて、滑りやすい。
最悪のコンディションだ。
俺は内心で舌打ちしながら、魔物と対峙する。
獅子の胴体、コウモリの翼、蠍の尾を持つ魔物。
マンティコア。
田舎冒険者の俺には、手に余る。
一噛みで食い殺されてしまうだろう。
だが、退けない。
せめて村の住人全員の避難が終わるまで、ここは死守する。
「ナディー……」
愛する妻の名を呟く。
この村はマンティコアの生息地域じゃないのに、本当にあらわれるとは思ってもいなかった。
まさか、アレクの言う通りになるとは。
一時期村に滞在していた少年の言葉通りになった事に、驚く。
確かに、俺の実力はマンティコアに遠く及ばない。
だが、マンティコアハンターのアレクに鍛えられたんだ。
一矢、報いてみせる。
簡単に噛み殺されてたまるか。
剣を握り直し、腰を落とし、体勢を整え直す。
ニチャアと、マンティコアが口をあける。
鋭い牙、ザラザラの舌、よだれがボトボトと地面に落ちる。
来る……!
一足飛びにマンティコアが飛びかかってくる。
「うぉおおおおおーーー!!!!」
貧弱な冒険者である俺の、一世一代の戦いが始まった――