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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第5章 少年と己が護るべきモノ 〜千日紅の戦花〜
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第89話 鋼鉄と冬氷

『......なんで......木刀......持ってるの?』

『これ? これはね!』


 草木も枯れ、肌寒くなってきた頃。まだ彼らが幼き頃。紅葉は突然、木刀を持ち出した。それを後の“千日紅国四季将”が1人、真冬は疑問に思い、尋ねる。


『お兄ちゃんを守るために、私も強くなるの!』


 嬉しそうに木刀を左右に振る紅葉。それで思い出す。秋仙は最近、剣の師を探しているのだとか。なんで、そんなものが必要なのか真冬はわからなかった。


『真冬もいつか、私が守ってあげるね!』


 わからなかった。自分の知らないところで、残酷な運命が動いているなんて。


『私にはね、すごーい力があるんだって!』


 秋仙は黙っていた。1人で解決する、と無茶な計画を立てて。


『“鍵”っていうすごーい力! “晴天”様は、その力があれば、みんなを幸せにできるって言ってた!』


 彼女は知らなかった。誰かを守るということは、誰かを傷付けるということを。


 衝撃の告白に真冬は即決した。彼1人に、彼女1人にその業を背負わせるわけにはいかない。彼女たちが自分を守ろうとしているのと同じで、彼女たちを守ることができるのは――


 ◆


 一歩、二歩、三歩。跳躍する度に地が鳴り響く。真冬は氷塊の槌を振り上げる。そのすぐ下にいるのは、これまた少女。自分や紅葉と変わらない少女。


 でも構わない。手なら散々汚してきた。戦前は真っ白だった装束も、今や返り血で真っ赤なのだ。今更、少女だなんだと言って躊躇うものか。


 振り下ろす。それをウェンディは大盾で防ぎ、弾いた。だからもう一度振り下ろす。また弾かれる。何度も何度も振り下ろす。そんな攻防を繰り返したところで、氷塊が割れた。


「......」


 真冬は距離を取る。彼女の氷塊の槌は、自身の魔法で生成したものであった。壊れたのであれば、また造ればいい。今度はもっと魔力を込めて、より頑丈に。しかし、彼女は中断する。


 真冬を目掛けて飛来する円盤状の物体。ウェンディの投げた大盾だ。人1人覆うほどの大盾。それを放り投げるのだから、やはり彼女も只者ではなかった。


 真冬は掌に氷を張り巡らせる。さらに強化魔法を上乗せさせた。その両手を前に伸ばす。間髪いれずに、大盾が直撃した。耳障りな金属音と、氷が削れる音が響く。僅かに後退するも、彼女は完璧に受け止めた。


 かなりの重量がある大盾。それを片手で持った真冬は投げ返す。果たして受け止められるだけの力があるかどうか――


 その詮索はすぐに止める。ウェンディが腕を振るうと、ガンッと鈍い音を上げ、大盾が地面に埋まった。真冬は彼女の腕を凝視した。鋼色に染まった腕。


「......鋼鉄?」


 彼女の疑問なんて御構い無し、とこちらに向かってくる少女。真冬も先ほどと同じ要領で腕に氷を纏い、強化魔法で覆った。


「......マジかよ」


 誰もが眼を見張る光景に、思わず一般の兵士が口を開く。戦場に“鍵”以外の女がいることすら珍しいのに、今彼らの目の前で、2人の少女が男勝りの殴り合いを繰り広げていたからだ。地を殴ればヒビが入り、隣の兵に当たれば頭蓋を砕く。


 片や“千日紅国四季将”が1人。

 片や“守護神”の1人娘。


 そう聞いていたが、実際に目にすると、迫力が違う。周りの人々なんて全く気にしない2人。介入しようと思えば、介入できるであろうペルセラルの部隊員もこの戦いには介入しなかった。


「意外、ですね」


 紅葉との剣戟の最中、レティシアが呟く。


「何がだ?」


 側にいたペルセラルの兵士が、呟きを拾った。


「貴方たちなら強い真冬を真っ先に狙いに行くと思いましたから」

「......すぐに移動しなければならないからな」

「......? そんな命令をした覚えはないはずですが」

「お前の預かり知らぬところ......上からだ」

「......」


 レティシアは言葉を止める。やはり、自分の知らないところで別の何かが動いているらしい。


「私はどうすれば?」

「俺たちの関知するところではない。お前は仮にもここの司令官。ここでの行動は全部お前が決めろ」


 どこかへ走り出してしまう部隊員。レティシアが制止しようとしたところで、赤刃が襲ってきた。


「くっ!」


 もっと上、彼はそう言った。それは本来の長であるペルセラル・ストレングスの指示なのか、兄であるグラジオラスなのか、はたまたエスペルトなのか。


 いずれにしろ、引っかかることばかりだ。まだ動き出してない彼らや“晴天”が動き出す時、


「私はどうするべきか......」


 レティシアは紅葉と対峙しながらも、そんなことを考えるのであった。

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