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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第5章 少年と己が護るべきモノ 〜千日紅の戦花〜
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第86話 少年と秋水 1

 時は少し遡り、戦場は“秋”へと移ろう。


「アンタ、茶屋にいた男だな」


 鍔迫り合い越しに、ゼデクは問いかける。


「あぁ、あん時は妹が世話になった。色々、説教してくれたようじゃの」


 皮肉交じりに秋仙が答えた。ゼデクは目をそらす。


「......アンタたち、そういう間柄かよ」

「だったら......何じゃッ!」


 力に緩急をつけて振り解くと、ゼデクに斬りかかった。急いで躱す。身体が伸びきって動けないので、炎を飛ばして牽制した。


「......」


 水流が遮る。それだけで、易々と炎が飲み込まれた。


「そうだったら躊躇うと? 斬れぬとほざくわけではないな?」


 斬り結ぶ。ゼデクが用いている刀・技術ともに千日紅国のものであった。そして彼はその基礎しか教えて貰っていない。そこに、秋仙との実力差が出始めた。6、7と撃ち合った所で、肩から血が吹き出す。


「その半端な身なりは何だ? 半端な技術は何だ? 汝ごときが何故あいつの下にいるッ!」

「半端で悪かったな!」


 さっきよりも、莫大な炎を纏う。ゼデクは走り出した。噴射する炎の推進力で、勢いよく刀を振るう。秋仙も水流を取り巻く。構えも、水流も綺麗だった。見事に整えられた様から、やはり実力者であることが伺える。


 彼が一振りするだけで、炎が水に打ち消され、攻撃が届かない。


「汝が炎を使う限り、刀を使う限り、その刃はワシに届かんッ! 千日紅国の技、軽んじてもらっては困る」


 鋭い蹴りが放たれる。ゼデクは急いで受け身を取った。威力を殺しきれず、後ろに飛ばされる。


「そして汝ごときがその刀を使う......それが許せんッ!」

「......」


 自らが握る刀を見つめた。エスペルトから貰った刀。彼は五指に入る名刀だとか、なんとか言っていた。とすれば、千日紅国の中でもとりわけ大切にされていた刀なのかもしれない。


「技量はワシが上。そして汝の炎はワシの水の前に沈む」

「......」

「大人しく死んで、エスペルトの呼び水となれ」


 このままだと負ける。これは間違えようのないことだ。ゼデクは瞳を閉じた。後の展開を考えて、温存していた手があるが、どうやら今、出し惜しみをするわけにはいかないらしい。


 彼には彼なりの事情があるのだろう。妹である少女であったり、エスペルトとの因縁であったり。正直、ゼデクは彼に親近感を抱いていた。自分が大切な存在が“鍵”に囚われている、と。彼がこれまでにどのような思いをしてきたのか、想像に難くない。


「......」


 おそらく、技量では勝てない。彼の方が長く刀と過ごしてきただろうし、知っている技術量も違う。何よりも基礎しか知らないゼデクの剣筋を、秋仙は知っている。茶屋でエスペルトと刀を交えたということは、彼の剣筋を知っているはずだ。そこから予想される。


 今の自分にできることは――


「俺だってエスペルトを超えるんだ。一々、躓いてなんかいられない」


 ゼデクは立ち上がると、静かに己が魔法へと意識を集中させた。


 ◆


「あら、ここで使うの?」


 この忙しい時に声をかけられる。いつでも彼女は唐突だ。ゼデクが何をしていようが御構い無し。自分の好きなように現れて、喋って、消える。


「じゃないと多分、勝てない」

「私はまだ速いと思うけど。この後が厳しくなるわよ? 彼とまともに戦ったら傷付く」

「今、アイツを抑えないと、もっと大変なことになる」


 すると彼女は、ゼデクの魔法は笑った。そして、


「え、今彼に勝つ必要がある? そもそも殺しちゃダメって言われたんでしょ?」


 なんて言う。ゼデクは言葉を詰まらせた。


「......」


 エスペルトは言った。徹底的に時間を稼いで、“晴天”を引きずり出せ、と。だから彼女は言うのだろう。別に秋仙に勝つ必要はない。ただ敵に停滞を強いて、苛立たせる。


 なぜかは知らないが、敵は焦っている。停滞を嫌っている。証拠に秋仙が強引に出てきた。とすれば、このまま“晴天”も引きずり出せるかもしれない。


「ゼデク、私はね......生き残って欲しいの。貴方に死なれたら、もうお話できないわ」

「どうせまともな会話しないだろ」


 今だってしてない。繰り返してきたのは、意味のわからない小難しい会話ばかり。


「じゃあ、今度落ち着いたら別のお話でもしましょう。そうね、天気の話とかどう?」

「今、曇ってますねーって?」

「そうそう、曇ってますねーって。でもこの後、晴れるわ。真っ青な快晴。貴方は是非、そこで輝いてね」


 やっぱりどんな会話をしても、変なものになる。ゼデクは苦笑いした。


「今の貴方じゃ長く持たないから、ペース配分を考えること」


 彼女は今からやろうとしていることについて、忠告する。


「わかった」

「もし途中で維持できなくなったら即座に退くこと」

「わかった」

「本当に?」

「本当に」

「本当の本当に?」

「本当の本当に」

「本当の本当の本――」

「しつこい」


 ムッと不満気な表情を向けても、彼女は微笑みを崩さない。


「それくらい心配してるのよ」

「母親かなんかかよ」

「試しにママ〜って呼んでみる?」

「お断りだ」


 するとゼデクは、彼女に手を引かれる。真っ白な空間。その中に浮かぶ“鍵”のような光へと、どんどん進む。


「続きはまた今度、ということで......そうね、次は貴方の質問に何でも答えてあげる」

「本当に?」

「本当に」

「本当の――」

「それはもういいから」


 ゼデクは笑った。そして、己が魔法に手を伸ばす。先の修行を含め、自分が努力してきたこと。それは少しでも多くの力を引き出すこと。一度は全て自力で押さえ込んだ身だ。


 だから不完全であろうと、これまで以上に力を振り絞って、物量で相手を押しつぶす。


「それだけアンタは胡散臭いんだよ」

「うわ、この捻くれ者」


 その言葉を最後に、思いっきり力を引き出した――

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