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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第5章 少年と己が護るべきモノ 〜千日紅の戦花〜
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第85話 晴天と襲来

 引っかかる。何か見落としているような、見逃しているような、そんな感覚が胸の中に残る。


「くたばりやがれぇぇぇぇッ!」


 男は――“千日紅国四季将”が1人、百夏は向かってくる兵士の顎を拳で打ち上げながら考える。やはり、この戦場はおかしかった。異常だった。


 七栄道が介入したら千日紅国軍は総崩れとなるのだ。だというのに、“荒天”は1人壁の方へと進み、“晴天”は具体的な指示を出さない。四季将に戦場すべてを任せる、と言われたらそれまでなのだが。疑問は次から次へとわいて出る。


「千日紅国は今、存亡の危機にいるのではないのか?」


 “晴天”は言った。


『此度の戦は......キングプロテアからの侵攻を防ぐ戦。我が国の行く末はこの一戦にかかっているのだ。だから君たちは退かず、諦めず戦ってくれ』


 なので、キングプロテア王国は、本気で攻めてくるはずだ。しかし、いつでも攻め込めるはずの七栄道が現れない。これが異常でなくて何なのか? 何か策があるのか? 自分たちが戦っている間に、“晴天”は何か工作をしているのか? 否――


「そもそもあの男を信用していいのかどうか......」


 紅葉をただ兵器として扱い、彼女の身を案じる四季将を利用するだけ利用する。彼から見て、四季将はどのように映っているのだろうか?


 およそ十数年間、彼は千日紅国を支えてきた。“天”という圧倒的な地位と力の下、西側に隣接している大国、ヘイゼル国からこの国を守ってきた。だからこそ、みな彼に付いてきた。だというのに――


 そこで、今度は5人に囲まれる。


「......」


 百夏は跳躍し、舞い、腕を振るった。それが敵兵に触れるたびに爆ぜる。赤・緑・青・金。さながら花火のよう、と自国の人間は讃えるが、こんなにも美に欠けた花火はそうそう無いだろう。なんせ血肉が混じっているのだから。


 百夏は思考を戻す。敵は何故、大掛かりな壁なんぞ造ったのだろう? “晴天”曰く、キングプロテア王国は千日紅国への侵攻を計画しているらしい。だから、こうして出向いた。結果としてぶつかることになったのだが......


 目の前で青白い雷が走る。百夏は即座に反応した。無駄のないよう、必要最低限の動きで身に迫る危機を撃ち落とす。


 やはり速い――


 彼の四肢を斬り裂かんとする、2振りの剣が見えた。雷で加速した剣。百夏は剣ではなく、それを握る手を狙う。うなり、しなる豪腕。それは敵の動きを捉えた。


 なのに......瞬時に敵は身を退いてしまう。拳を当てても魔法で爆ぜる前に退いてしまう。


「......なぁ少年」


 彼は話しかける。自分と殆ど変わらない年頃の敵兵に。


「......先の手合いで20を超えた。なおも生きている君に問おう」

「はは、何それ。バカにしてるでしょ」


 茶髪の少年、エドム・オーランドは片膝をつきながら答えた。


「馬鹿に? まさか! その齢で俺と渡り合うなど立派なものだぞ」

「君こそ、似たような歳じゃない」

「多分、3つ4つ上だ」

「変わんないじゃん。やっぱり馬鹿にしてる」


 それに百夏は首に手を当て、真剣に考える仕草をする。おそらく本心から言ってるのだろう。エドムは呆れた。


「......侮辱になったのなら謝ろう。もう互いに何人も殺して言うのもなんだが、ここまで撃ち合ったよしみに答えてくれぬか?」

「......何?」

「なぜ相手が君たちなのだ?」


 今度はポカンとする。なぜ、と言われても敵だからとしか答えようがない。


「敵だから」

「七栄道は?」

「見たらわかるでしょ、ここには居ないよ」


 百夏が眉をひそめる。要するに、彼は七栄道がいないことに、不満あるいは疑念を抱いているらしい。


「先ほど馬鹿にしてると言ったな。ならばそれは此方の言葉よ」

「僕らじゃ不満かい? これでも“黄金の英雄”の一番弟子なんだけどなぁ」

「当たり前だ。キングプロテア王国がルピナス王国と同盟を組み、我が国に攻め込む計画を立てていると聞いたから出張ってきたものを......何もかもが中途半端ではないか」


 そこでエドムは再び首をかしげることとなった。おかしい。何か決定的な食い違いがある気がする。よくある国の情報操作か何かか。向こうに一方的な正義をかざされるのも癪なので、エドムは話すことにした。


「は? そっちこそ、うちの同盟を蹴ってまで攻め込むって話だったじゃないか。今更何言って――」

「......何?」

「だーかーらー!」

「今、なんと言った?」


 百夏の疑念。彼は今までの過程の中で、1つの疑念を見出す。そして、今の発言は、その直感的な疑念の正体が露わになる瞬間だった。


 同時にソレは現れた。戦場の温度が上がる。陽の光が消えると、代わりに真っ青な灯りが地を照らした。


「ここまでよく耐えてくれた、百夏。だが、敵との長話は感心しないな」

「......なぜ、貴方がここに?」


 彼はおそるおそる振り返る。突如、現れた男、“晴天の暁”に対して、抱えた疑念をぶつけるように、鋭い眼差しを送る。


「何、このままでは負けるかもしれない。私が加勢しようと思ってね。どれほど今日を待ちわびたことか......まずはここから一掃しようではないか」

「......」

「どうした? はやく彼を斬りたまえ」


 一歩詰め寄る暁。それに百夏も一歩後ろに下がった。さらに一歩、二歩。百夏も同じだけ後退する。


「......私は嫌われているのかな?」


 優しく微笑む“晴天”。逆に怪しかった。今、百夏の危惧していた事態の答え合わせをするように現れた男に、彼は迷う。


 急使を送るべきか否か――


 多分、送ることが正解だ。他の3人に知らせなければ手遅れになる。しかし、送ることが彼の起爆剤となるに違いない。雰囲気が違い、何を考えているのか、いつも以上に読めない。だから、下手に動くことができない。


「まだ負けておりませぬ」

「知ってるとも。だから来た」


 先ほどまで撃ち合っていた少年に視線を送る。彼も状況について行けず硬直していた。


「まだ貴方の手足として機能するはずです。我ら四季将は、千日紅国の要。やすやすと負けることのない主戦力の1つ......」

「知ってるとも。だから来た」


 陽の光よりもジリジリと身を焦がす熱と光。天上に敷かれた蒼炎の絨毯が百夏を焦らせる。


「千日紅国軍は健在と言っている! 我々が貴方に何をしたと――」

「知ってるとも。......だから今、ここに来た」

「......おのれ、やはりか」


 冷酷な青空が、地面に落ちてくる。この地点はすぐにでも地獄と変貌するだろう。


 百夏は素早く、エドムを抱えると走り出した。


「ちょっと君ッ! 何やっ――」

「頼むッ! 今は黙ってついて来てくれッ! さっき同盟の話があったと言ったな......?」


 思いっきり跳ぶ。一気に“晴天”からかけ離れる。僅かに遅れ、蒼炎が地を喰らった。あそこにはキングプロテア王国の兵も、千日紅国の兵すらも大勢いたはずなのに、彼はあっさり手を降した。


 今のだけで何人が死んだか? 地獄の業火が広がる様を見て、エドムはギョッとした。あれが千日紅国が誇る“双天”が一角。


「......“晴天の暁”。というよりなんで君まで追っかけられてるのさ!」

「今はいい! それよりも詳しく聞かせてくれッ! でないと手遅れになるやもしれ――」

「あぁ、百夏。やはり君は勘がいい。腕が立つから残してたものの......もう少し前に消すべきだった」


 いつのまにか彼らよりも高く跳躍した暁が、刀に蒼炎を侍らせ微笑む。


「......なっ!?」


 死の一刀が2人に迫った――


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