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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第5章 少年と己が護るべきモノ 〜千日紅の戦花〜
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第77話 世界と分岐

『最低ね』


 声がする。


『さっきの言葉借りるなら、とことん下衆よ。ゼデク』


 頭の中で声がする。己が魔法の声。


『貴方、わかってるくせに』


 確かに知っていた。“鍵”を持つ者に選択肢などないことを。


『貴方の愛し人だって、同じ境遇のくせに』


 自分は見てきたはずだ。彼らが兵器として、どれほど利用されてきたかを。


『自分より歳下の女の子を虐めて楽しい? あんな言葉を使ったなら、それこそ責任取ら――』

「あー、うるさい。妙な時だけ饒舌だよな」


 すると、先頭を走っていたエスペルトが振り返った。


「はい?」

「いや、何でもない」

「......? あぁ、そういうことですか。魔法と会話できるというのも難儀なものですね」


 ゼデクはムッとした。やはり、この男には何もかもお見通しである。最後に発した一言だけで、そこにたどり着く洞察力に驚く。


「私も是非、彼女とお話してみたいです」

「へ?」

『馬鹿ね。恋人を取り返せなかった腰抜けに話なんてないわよ』


 間髪入れずに声が響く。色々思うところはあるが、ゼデクは言葉を繋げることにした。


「腰抜けに話すことなんざないってさ」

「あははは」


 身体に魔力を流す。それで、走る速度が増す。2人は今、キングプロテアが敷く、防衛本陣を目指していた。


『......』


 すると、あれだけやかましかった声が消える。もう彼女の中で、話は完結したようだ。罵倒したかったのか、何か伝えたかったのか。気まぐれな飼い猫に振り回された感覚だけが残る。


「で、アンタの目的は達成できたのか?」


 妙に悔しかったので、せめてもの成果を確認するかのように、ゼデクは尋ねた。


「うーん、まぁそうですね。それなりに指標ができました。作戦を立てられます」

「俺が付いていく必要あった?」

「もちろんですとも! 茶の淹れ方、学べたでしょう?」

「そういうことじゃ――」

「彼女が千日紅国の現状そのものです」


 言葉を止める。確かに揺さぶりをかけたのは、他ならぬゼデク自身だったが、それを差し引いても異常な様子はあった。


「勝利に執着する、それが千日紅国」

「勝利に拘るのは誰だって同じだろ? あれはそんな単純なものじゃない気がする」

「いいえ、何1つ違えてません。ポイントは異常に執着することです」


『嫌......私は負けてない......勝つの......勝たなければダメなの......その為に皆んな斬って斬って斬って......勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ......』


 彼女が呟いていた言葉を思い出す。確かに、そう考えれば異常なまでの執念だったかもしれない。それにしても詳しいものだ。やはり、彼の故郷ということも頷ける。そんな彼にしか見えない景色、得られない情報があるに違いない。


 それが今後の基盤になるのであれば、今最優先すべきは彼の望む情報・展開。


「で、それを踏まえて貴方にいくつか言い含めておきます。愛しの団長さんにも伝えといてください」

「......」


 嫌味な言い方に眉を潜めながらも、ゼデクはエスペルトの計画に耳を傾けるのであった――


 ◆


 それは唐突だった。グラジオラス・ウィンドベルに訪れた分岐点。


「......」


 キングプロテアが敷く、防衛本陣のさらに後方。慎重に慎重を積み上げたかのような司令塔本部に腰をかけた彼は、顔を上げる。


 ただの分岐点なら良かった。しかし、これから向き合うであろうものは、そんなに生易しいものではない。数少ない分岐点だ。自分が、グラジオラス・ウィンドベルとして、世界に干渉することができる唯一無二の。


「こーんにちはー......おっと、額に包帯を巻かねーと......」


 遠くの入り口で愛らしい声が聞こえる。見張りの兵は何をしていたとか、そんな次元の話ではない。彼が1人になった、このタイミングを狙って彼女は来たのだろう。全ての視線を掻い潜り、難なくたどり着いた。


 程なくして、テントの幕が開けられる。声の持ち主に相応しい少女が部屋に入ってきた。グラジオラスに緊張が走る。そう、今数多の運命を握っているのは自身なのだから。


「......何故、この場に貴様がいる? どうやってたどり着いた?」

「えー。予想付いてるのに、その質問はねーでしょー。強いて言うならば、組織機密です」


 答えにならぬ答えを返す少女。真っ白な髪が揺れた。そして額には包帯が巻かれている。間抜けさが垣間見えるも、それを打ち消す妖艶なオーラは、見る者を不思議な感覚に陥れる。


「第一、1人で来るべき場所ではないな。北方の女王よ」

「そーですね。それはウチも実感しました。額もちょいとケガしましたし」


 包帯の所を指差す少女。彼女こそ、六国が一角、ブローディアの女王である。額のソレがケガどうかは別の話だが。


 ブローディア王国、最北の国。ルピナスより更に奥地であるその国は、他の五国と違い、唯一侵攻をしない国として有名だった。一時期、戦をしていた歴史も持つが、今はどこにも手を出そうとしない。


「自国の内乱を放っておいて、随分と呑気な女王だ。鍬を持つところからやり直すと良い」

「うへぇー、アンタさんは毒しか吐かないんですね」


 嫌だ嫌だ、と首を横にふる彼女。そう、今ブローディア王国は、内乱で手一杯なのだ。もう何十、何百年と国内で争い続けるイかれた国。それで国の体裁を維持しているのだから、不思議である。


「で? 貴様は間抜けさを見せ付けるために来たのか?」

「いえいえ、そんなことねーですよ。ちゃーんとしたお話を持ってきました」


 ここからだ。あくまでグラジオラスはポーカーフェイスを崩さない。


「今回の戦。それはそれは大層、重要な戦。ウチは理解してます」

「......」

「そちらの理念も同感です。そろそろ聖地への道、開けよーじゃねーですか。みんな手を携えることが可能ならば、1番早い」

「とどのつまり?」


 口角を上げる少女。


「もし千日紅国の攻撃を凌ぎきり、さらに同盟までこじ付けたのなら、ウチらもその同盟に乗っかってあげます」

「混ぜてくださいの間違いだろう?」

「あは、手厳しー」


 もし、千日紅国と手を結べば、ルピナス王国を含め三国の連合が成立する。残る西国の二大国は全面戦争に没頭しているので、残った彼女たちは孤立を避けられない。更に、自国が内乱状態となれば論外だ。故に、彼女の態度は余りにも傲慢であった。


 グラジオラスはふと思う。かつて、キングプロテア王国もルピナス王国も内乱続きだった。時期にもよるが、確かに存在していたのだ。六国中、半分が内乱状態の時期が。それなのに、どの国も没落することなく、六国としての均衡を保ち続けた。大きな違和感。


「不思議ですか? 不思議ですよねー? ま、その疑問は追求しないことをオススメします」

「......」


 こちらの考えを見据えてか、微笑む少女。だが、その瞳は笑っていなかった。


「それで、こちらが失敗した場合は?」

「それ考える必要あります? 失敗したら、そちらの国はもう無いに等しいのに」


 勝てば、千日紅国の降伏という形で同盟にこぎつける。故に失敗とはこちらの敗北そのものなのだ。彼女の言いたいことは、そういう意味だろう。


「ふっ、まぁそうなるか」

「それでそれで。どーです? 悪くねーとは思うんですが」

「良いだろう。こちらは必ず成功させる。それまでに貴様は精々、内乱を鎮めることだな」


 すると彼女は満足気によろしい、と頷いた。


「話はそんだけです。多分、成功しますよ、けんとー祈ります」


 クルッと翻す少女。その背を見て、グラジオラスは息を呑む。そして、決意する。干渉するタイミングは今しかない。


「似ているな」

「え?」


 彼女は顔だけこちらを向ける。


「貴様、今年で歳はいくつだ?」

「永遠の17歳です。ほら、みずみずしくて可愛いーでしょ?」

「その形で100年以上も生きているのか?」


 空気が崩れるのを感じた。僅かに瞳孔が開く少女を真っ直ぐ見つめるグラジオラス。


「その詮索も推奨しません」

「いや、すまない。あまりにも似ているのでな」

「......」

「我らの先祖......初代国王の似顔絵に」


 それを聞いて、くつくつと笑い出す。


「それは勘違いですよ。もはや病的です。でもアンタさんの言いたいことは理解しました」


 テントの幕を上げる少女。グラジオラスは止めない。互いの用件は済んだのだ。


「......片足しか突っ込んでないとはいえ、自己申告した馬鹿はアンタさんだけですよ」


 自分しか聞こえない呟きを残すと、彼女は気配ごと姿を消した。

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