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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第5章 少年と己が護るべきモノ 〜千日紅の戦花〜
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第63話 少年と試練 2

『それズルい』


 まだ10の頃、ゼデク・スタフォードは言った。剣を地面に刺し、頰を膨らませて言った。


『え?』


 それにエスペルトは首を傾げる。いかにもワザとらしく。何を言わんとするか理解している顔がゼデクの不満に拍車をかけた。


『その受け流す技だよ』


 と、彼が持つ木刀を指差す。対してゼデクは剣だ。その辺の兵士が持っているような鋼鉄製の剣。なのに彼は木の棒1つで全ていなしてしまった。おまけに炎も通じず、木刀が燃えない。


 これらは全て、彼の用いた技に起因する。千日紅国お得意の剣術。彼らは魔法と技を巧みに組み合わせ、独自の戦い方をするのだ。


『またまた〜教えたじゃないですか』

『基礎だけな。アンタの技は何か違う気がする』

『ほー、それは気になりますね。何が違うんでしょうか』

『あー何というか、フワッとするというか......形容し難い』


 エスペルトの動きそのものに言えることなのだが、彼はどこか浮いている。数多の羽に包まれているような、ヴェールに包まれているような、それらが彼を、木刀を取り巻いているような。そんな感じ。


『とにかくだ、約束したろ? 俺は強くならなきゃいけない。惜しまず教えてくれ』

『え〜、嫌です』


 笑いながらそんなことを言う。それにゼデクが腹を立てたところで――


『私は終ぞ、この剣術のみで戦いました。ですがねゼデク、この世には......この国には様々な魔法が闘法がありますよ。強化魔法のみで戦う者、色鮮やかに舞う者、複数の魔法を組み合わせる者、様々です。眼を見張る者がたくさんいる』


 追求しようと思っていたゼデクの言葉が止まる。いつになく真面目な様子のエスペルト。


『この剣技は型があります。一度覚えれば便利なことこの上ないでしょう。しかし、それ故に縛られてしまう。いつか剣術1つから抜け出せなくなる。それでは勿体ないと思いませんか?』


 未だに消化しきれないのか、不満気なゼデクに続ける。


『ですから学んでください。私以外からも是非学んでください。技だけではなく、彼らの志全てを。今はまだ理解できないかもしれません。ですがいつか......』


 ――この言葉の意味がわかる、そんな日が来ます。


 ◆


 夢から覚め、瞳を開く。真っ先に飛び込んできたのは光だった。眩い朝日。だから、再び閉じようとする。でもそれは許されない。


「今日で3日目......」


 そう、早3日目なのだから。ゼデクは痛む身体を無理やり起こした。腕や脚を見ると血が滲んでいる。未だにあの男、自らの師となった男に一撃を与えられていない。わかっていたことなのだが、彼は異様に強かった。なぜ前線にいないのか不思議なくらいに。


 ゼデクは木々の隙間から小屋の方を眺める。あの男とレティシアが2人きりでいるであろう小屋を。


「......そう考えると腹が立つな。いや、言い出しのは俺なんだが」


 この2日間、ゼデクはずっと戦っていた。いや、半ば逃げていた。最初はまともな撃ち合いをしていたと思っていたが、


『いつまで手を抜いている? そんな半端者、招いた覚えはない』


 と、突然ペースを上げてきた男になす術なく逃げた。非常に情けない話ではあるが、今でも正解だと思う。逃げなければ確実に死んでいただろう。手加減が感じられないのだ。一振り一振りがゼデクの命を刈りにきている。逃げる己に恥じながらも何度も挑んだゼデクだったが、その度に返り討ちにされた。


 幸い逃げると彼は追ってこない。近付かなければ、何事もなかったかのように生活に戻る。薪を割り、洗濯をし、食事を摂る。その間にゼデクもあれこれ考えた。息を整え、休みながらも考え続けた。しかし、一向に勝てるビジョンが浮かばない。さらに今日が最後ときた。これで達成できなかったら自分はどうなるのか? 正直想像がつかない。


「......腹をくくるか」

「それは良い判断だ。今日も逃げるのであれば殺すつもりでいた」


 背筋が凍った。声の主が誰かと問うまでもない。


「貴様が生きる道は1つ! この俺に一撃を寄越すことよッ!」


 山の中で獅子が吠える。こんな獅子、どこの山を探しても見つからないだろう。ゼデクが急いで振り返った。男が木刀を片手にこちらを見下ろしている。今日達成できなければ殺されるらしい。もはや何が目的なのかわからなくなってきた。ともあれ、ゼデクは追い詰められた。


「くそっ」


 刀に手をかける、身体強化魔法を使う。だがそれまで。


「どうした? お前の中にある炎は飾りか?」


 男が意地の悪い笑みを浮かべる。この男が相手なのだから、本気を出さなければ勝てない。爆炎なんてものじゃない。辺り一面に炎を撒き散らすことになる。自身が炎魔法を使えば恐らく燃え移るだろう。ひょっとしたら近隣に住人がいるかもしれない。だから今までゼデクはそれを使えずにいた。そしてエスペルトに聞いたのか、男はゼデクの魔法を知っている。


「わかってるだろ、アンタ。周りに被害を及ぼすわけにはいかない」

「ならお前が死ぬだけだ」

「......卑怯だな」

「それが何かを守るということよッ! 弱い者は選択を強いられる。そして何より――」


 男が木刀を振り上げる。


「今の貴様では何も守れん」


 ゼデクは横に飛び退いた。直後、木刀が振り下ろされる。それに叩かれた地面がひび割れ、凹む。衝撃で木々が折れる。ゾッとした。魔法使いから見ても立派なバケモノだ。あれをまともに受けていたらどうなっていただろうか?


「魔法が使えないから、敵が強いから、卑怯だと言って逃げるか? 甘いなッ! その覚悟で戦場を駆けるとは虫唾が走る!」


 好き放題罵倒する男。ゼデクはさらに距離を置く。逃げるしかできない自分と理不尽を恨みながら間合いを確保する。


「そうか逃げるか。なら仕方ない」


 そう言うと男は急に静かになり、小屋の方へと歩き出した。だが殺気は絶やさない。静かさの中に、今にも誰か殺しそうな勢いが残っていた。ゼデクはそれに不安を覚える。


「おい、待て! 何のつもりだ?」


 すると男は足を止めた。


「戦いから逃げるという意味を教えてやる」

「......! まさかッ!」

「これ以上逃げるのであれば小娘を殺――」


 言い終わる前には飛び出していた。王族を殺すなど、到底正気とは思えない発言。グラジオラスたちが認めるはずがないのだ。常人ではまず実行しないだろう。しかし、この男は違う。何もかもが強引な彼は、やり兼ねない危険性を孕んでいる。


 ゼデクが斬りかかった瞬間、男が素早く振り返った。まるでゼデクが向かってくることを予想していたかのように。ゼデクが放った一撃を容易に受け止める。


 ――来るッ!


 そう感じたところで、男の腕が光った。銀閃がゼデクの腹を捉える。揺らめく視界と共に喉を押し寄せてくる血。ゼデクは地面に崩れ落ちた。


「ゴフッ!」


 地面に転がるゼデク。彼の胸を男は踏み付け抑える。この修行とも呼べない凶行に何の意味があるのか? 全てが異常だった。恐らくこの展開は誰も予想していないだろう。グラジオラスも、国王も、エスペルトも、誰も。


「さぁ、命があるうちに魔法を使え。顔も知らぬ村人など、どうでも良かろう?」


 やはり、山の付近に住む人々はいるのだ。ゼデクは今までの判断が間違っていなかったことに安堵しつつも男を睨む。


「断る」

「それは偽善だ。今まで戦場で散々人を殺してきたお前が何を今更――」

「アンタの都合で他人を殺すつもりなんてないッ! 俺は俺の為に刀を振るう、命を奪い合う。......何度だって言うぞ、断るッ!」

「フフッ、フフフフ」


 男は笑うと足を退けた。それにより、解放されるゼデク。助かったのか? そう、思い深呼吸しようとしたところで――


「ならば、ここで果てよッ!」


 ――男は容赦なく木刀を振り下ろした。

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