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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第4章 少年と幾千幾万の願い 〜ルピナスの戦花〜
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第57話 少年と終戦 2

「これで、一時お別れだな」

「あぁ、世話になったよ」


 ゼデクはレゾンが差し出してきた右手を握った。オスクロルを倒して早1週間。ゼデクたちは体調が良くなるまで、ルピナス王国の主城に滞在していた。でも、それも今日で最後。奥で準備しているエスペルトを横目に、時の流れの早さを感じる。


「......すまなかった。終始、お前たちには頼りっぱなしだった」

「気にすんな。別にお前たちのために戦ったわけじゃない......あー、もし良かったら、今度爺さんの墓参りでも来てくれ。俺も時間ができたらロゾに会いに行く」


 とはいえこの7日間、プレゼンスの死が脳裏から離れることはなかった。彼のことは、生涯忘れることはないだろう。


「もちろんだ。今はまだ国の再建で精一杯だが、いずれは行かせてもらう」

「ゼデクさーん! 行きますよー!」


 背後でオリヴィアの声が聞こえる。もう時間のようだ。ゼデクが振り返ろうとしたところで、


「同盟国ゆえでもあるが、必要ならばいつでも呼んでくれ。俺は......それ以上に()()()()()だ」

「......え?」

「ほら、行け。先日の忠告忘れるなよ?」

「あぁ。......ありがとう、レゾン」


 聞く人が聞けばまずい発言。ゼデクは一瞬戸惑うも、素直に受け取ることにした。実質、レゾンがトップとなったルピナス王国は同盟国。これからは頼もしい仲間だ。


 背を向け、歩き出す。そして、彼の忠告を思い出す。


『お前の中には“鍵”、あるいはそれに似た何かを感じる。お前の力だけを利用しようと目論む輩がいるかもしれない。身の振り方に気を付けろ』


 “鍵”、それに似た何か。なんとなく、片鱗には触れていたので、彼の言わんとすることは理解できた。そして、その力に目を付けている人間がいることも――


「話は十分できましたか?」

「まぁな」


 エスペルトが話しかけてきた。彼がまさにその人間。彼は自身の力を使って何をしたいのだろうか? ゼデクはそんなことを考える。


「さて、馬車の準備はできています。......人数が少なくなりましたからね。貴方は私の方に乗りなさい」

「どうせならアイツらと一緒が良い」

「残念ながら4人乗りです。あら、1人余りますね?」

「......」


 他の誰かを生贄に捧げるわけにはいかない。どうやら乗らざるを得ないらしい。ゼデクは諦めた。


「そうですね。帰り道がてら、話でもしましょうか」


 エスペルトはいつものように悪戯めいた笑みを浮かべた。



 ◆



 揺れる馬車の中、2人は対面に座る。


「アンタは泣かないんだな」

「はぁ、私が? なんで泣く必要が?」

「仲間が......爺さんが死んでも、えらくあっさりしてるなって」


 終戦後、駆けつけてきたエスペルトが彼を見た時、何も言わずに棺に納めていたのを思い出す。

 どこか悲しげな表情をしている気もしたが、それも最初だけで、淡々と作業を進めていた。何ならその後は、平常運転だ。


 プレゼンスの遺言で、エスペルトのことを託された。酷く脆い男だから頼む、と。だから今、それなりに彼も思う所があるのでは、とゼデクは予想していた。だが気のせいだったようだ。少々(しゃく)にさわるが、彼の態度を気にしていてはキリがないので、不満げな顔で抗議するにとどめる。


「慣れてますから」

「いっそ清々し過ぎて、きっと爺さんも苦笑いしそうだ。そういえば......」


 気になっていることがあった。なので聞いてみる。


「トレラントって男知ってるか?」


 それにエスペルトは一瞬だけ、目を丸くした。多分、他人にはわからなくて、長年共にしたゼデクにしか判別できない範囲で。


「知ってますよ。彼がどうしました?」

「俺、アイツと話したんだ」


 馬鹿にされるのを覚悟で言い切る。普通なら信じてもらえないような話。果たして、エスペルトの反応は――


「......あぁ、そうか。彼は貴方を選んだのですね」


 窓に目を向け、1人嬉しそうに呟いていた。何を言ってるのかハッキリ聞こえない。


「何だよ、そんなに笑って。気持ち悪いな」

「だって、貴方が死人と話したなど頭のおかしなことを言うから」


 フフッと笑うエスペルト。また一つ、いじられる要素が増えた。やはり話すべきではなかったとゼデクは後悔する。


「......確かに話したはずなのにな」


 今度はゼデクが窓に目を向ける。すると彼は、


「魔法あれど、死人と話すことは出来ません。だったら貴方は何と話したのでしょうね?」


 なんて言ってくる。その言葉に深い意味があるのか、単にからかっているだけなのか。


「さぁ、そんな愉快な頭を持つ貴方にお知らせがあります」

「......?」

「貴方が寝ていた1週間、その間に此度の報告をシエル王に届きました。で、返事も貰ってます。というより、予め段取りを決めています」


 それにビクッとなるゼデク。確かに今回の件はかなりの快挙だろう。でもそれは――


「先に言っとくが、オスクロルを倒したのは爺さんだ。その手柄を貰うわけにはいかない」

「貴方がいなかったら成立してない功績です。それに出陣前に彼から言伝を貰ってます。活かすも辞退するも貴方の自由ですが、彼が本当に何を望んでいたか、よく考えなさい」


 彼の意思を尊重しろ、そうエスペルトは言う。ゼデクは複雑な気持ちになりながらも先を促すことにした。


「わかった。どんな結果でも受け止めるよ」

「......よろしい。貴方が今所属している魔法師団。レティシア様をお守りする大切な魔法師団でありますが、先の戦いで副団長が不在となりました」


 エスペルトは紙を取り出す。そして最後の一文を指差した。その一文にはこう書いてある――


「近々、レティシア様が出陣なさる。貴方は護衛を努めなさい」


 ――ゼデク・スタフォード。汝を副団長に任命する。

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