表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れじの戦花  作者: なよ竹
第4章 少年と幾千幾万の願い 〜ルピナスの戦花〜
53/141

第53話 少年と光明 1

『どうした、そんな膨れっ面して。痛いのは仕方ない。修行っていうのはそういうものだ』


 男は隣に座る息子に声をかけた。木々の揺れる音が聞こえる。時は夕方。そんな山の中を2人並んで座った。


『......違う、そんなんじゃない』


 むすっとした半裸の息子が答える。もっとも半裸なのは自分も同じなのだが。


『じゃあなんだ? 悩み事か? 言ってみろ、聞いてやるから。なんたって、俺はお前の親父だ』

『......みんなにとっても、あんたは親父だ』

『あー、そういうことかぁ』


 プレゼンスは苦笑いした。彼は身寄りのない者や行き所のない人を助けては、自分の魔法師団に加えていた。もちろん望まない者は戦場に連れて行かない。ともあれ、彼は色々な人の面倒を見ていた。そして慕われていた。その姿を見てか次第に皆、彼のことを“親父”と呼ぶようになった。


 多分、まだ幼い実子は嫉妬しているのだろう。もっと構ってやるべきだったか。それとも何か特別扱いをしてやるべきだったか。プレゼンスは後者を嫌った。今は難しいかもしれないが、いつか息子、トレラントにも理解してもらえるはずだ。家族として、仲間として迎えた以上、誰かを特別扱いするのは好ましくない。


『悪いが特別扱いするわけにはいかん』

『そんなこと求めてない』

『じゃあどうすれば満足してくれる』

『......みんなと同じで“親父”って呼ぶのが嫌だ』

『はぁ』


 訳の分からないことを言う。みんなと違った呼び方をすれば満足するのだろうか? 子供の考えることはよくわからなかった。昔は自分だって子供だった癖に。でも、それくらいならいいと思う。トレラントが自分をどう呼ぼうが彼の勝手だ。


『まぁ、なんでも良いぞ。父さんか? 父上か? この際お前が満足できるなら構わん』

『......ジジイ』

『な!? お前、そんな呼び方をどこで――』

『なんでも良いんだろ? 今日からアンタはジジイだ』


 悪戯小僧っぽく、ニッと笑うトレラント。


『この悪ガキが〜』

『痛っ、何すんだっ、ジジ......いててててて!』


 頭を軽くグリグリする。トレラントは楽しそうに笑っていて、それにつられて笑って、とても幸せな時間だった。しばらくして、トレラントが静かになる。そして、真剣そうな顔でプレゼンスを見つめると、


『ジジイ』

『なんだ?』

『本当はアンタのこと、ずっと尊敬してた。こんな形でしか伝えれないけど、ずっと尊敬してた。もちろん今もな? で、そんなアンタにお願いがある」


 急にそんなこと言い出す。


「願い?」

「そう、願い。今、アンタの大切な人が必死に戦ってる。でもピンチなんだ」


 そこで、プレゼンスは思い出した。自分は確か、ルピナス王国に出向いてオスクロルと戦って、それで......


「だから、頼む。あと少しだけ頑張ってくれ。アイツを助けてやってくれ。決めたんだろ? アンタがアイツを導くって」

「......ワシは」

「心配すんな、ちゃんと待ってる。先に死んだ俺が言うのもなんだが、守ってくれ。きっとアイツはこの先も必要な人だから」


 これは夢なのか? それとも天国なのか? いずれにしても......


 積み重なった瓦礫の中、1人の男の指が微かに動いた。


 ◆


 暗い。暗い暗い闇の中。その中で光が見えた気がした。ゼデクはそれに手を伸ばす。


 ――まだ、戦えるか?


 そんな声が聞こえた。視界が朧げながら、開けてくる。


「......あれ?」

「よぉ」


 でも、戦場にはいなかった。真っ白い空間。上の方には光輝く球体が。そして、自分と半裸の男が1人。知っている人物だ。いつの日か稽古をつけてくれた人。確か、名はトレラント。


「なんでアンタがここに......」

「なんでって言われてもなぁ〜、ずっと居たよ。お前と一緒に。ただ、中々話せなかっただけだ。今はある人物の力を借りてお前と喋ってる」

「へ? なんで? は?」


 理解が追いつかなくなるゼデクをよそに、トレラントは彼の肩に手を置いた。


「戦えるか? こうしてる間にも皆んなが危険に晒されている」


 ぼんやりとだが自覚する。そうだ。自分は今、オスクロルと戦っているのだと。


「......正直、立てるかわからない。勝てるかわからない。プレゼンスの爺さんでもダメだったんだ」

「大丈夫だって! ......お前は強い、俺が保証する。それだけの強さをお前は持っている。後はお前次第だ。自分を信じろ。そして自分を信じてくれた人を信じろ。だから――」


 ――持てる力を全てぶつけろ、ゼデク・スタフォード


 ◆


「あぁ、たわいない。実にたわいない。貴様がピークだったぞ、プレゼンス・デザイア。......いや、これからが本番か」


 オスクロルは正面を見やる。生存者は半分といったところか。遠くにいた者はともかく、近くにいた者は無事では済まないだろう。


「おい、ゼデク! しっかりしろ!」


 覚えのある声が聞こえた。オスクロルは眉を潜める。キングプロテアからきたであろう子供が4人と、レゾンが生きていた。彼らは横たわる少年、ゼデク・スタフォードの側に駆け寄り、彼の様子をうかがっているようだ。


「......ふん。運が良いのやら、単にしぶといのやら。くだらんな」


 その少年は確実に死んでいるはずだ。なんせ、1番至近距離で自らの魔法を受けたのだから。オスクロルはロゾの死体を回収する前に、自身の前で喚く彼らを始末することにした。


「無駄な確認だ。皆殺しにしてくれる」

「......くそっ。俺はいい! お前たちは逃げろッ!」


 そんなオスクロルを見たレゾンが言う。本当に無駄なことだった。その体たらくで、逃げ切れるわけがない。 オスクロルは一気に間合いを詰める。それに気付く少年少女。彼らが絶望する顔を見ながらオスクロルは品定めする。さて、誰から殺してくれようか? と。


 ――その瞬間、視界の隅で何かが動いた。


「何......?」


 彼は自身の眼を疑う。他の者はソレに気付いていない。しかし、何度確認してもソレは動いていた。確実に仕留めたはずの少年が、徐々に立ち上がってくる。今までとは明らかに違った雰囲気を纏いながら立ち上がってくる。


 なんだその光は? なんだその炎は?


 警報が頭の中で鳴り響く。今ここで、奴を仕留めないと取り返しのつかないことになる。そう彼の本能が告げたところで――


「ガハッ......!」


 急に視界が夜空一面に変わった。やがて思考が追いつく。自分は今、この少年に、ゼデク・スタフォードに殴り飛ばされたのだ。漂う浮遊感の中、オスクロルはそう悟った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ