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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第4章 少年と幾千幾万の願い 〜ルピナスの戦花〜
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第52話 少年と暴君

 視界が真っ赤に、オレンジに包まれる。最初、自分はこれを恐れていると思っていたが、今になってそうじゃないことがわかった。炎に焼かれながら、ロゾは瞳を閉じる。自分の中にある忌々しくも神々しい力が崩れていく。きっとコレが彼の炎を恐れていたのだ。


 負けたのだ。あの少年に。かつて、自分なんかよりも遥かに弱かった少年に。彼の中にある魔法が強かったとか、自分の中にある魔法が弱かったとか関係ない。彼の心の強さに完敗した。彼は数多の屈辱や理不尽を受けながらも諦めず、ここまで強くなった。見事、自らの力を使いこなした。


 ロゾは瞳を開く。夜空が広がっていた。所々で星が輝いている。身体動かなかった。それは、これから死に向かっているからなのか? そう考えていると、首筋に冷たいものが当てられる。


「......悪いがアンタの首は取らせてもらう」

「あぁ、そうすると良い。それで僅かでも過去の清算ができるのであれば、報われるものもある」

「......二転三転しやがって。それが本来のアンタなのか?」

「それはお前の中で判断しろ」

「ロゾ!」


 彼らの元に、レゾンが足を引きずりながらも駆けつけてくる。それを見たロゾは顔をしかめた。


「おいガキ、早く首を斬れ」

「チッ、俺だってそうしたいよ」


 しかし、ゼデクはそう言って刀を動かさない。首を斬るなら、今やるべきだった。でないと斬る機会を逃してしまう。彼らが再び語り合う姿を見てしまったら、きっと斬れなくなる。一度は殺すつもりで刀を振るった相手だ。なのにこの期に及んで、ゼデクは刀を振ることができなかった。やがてたどり着いてしまうレゾン。


「ロゾ! 答えろ!」

「生憎、お前と交わす言葉はなーーいや、最期くらい素直になるべきなのかもな......レゾン、すまなかった」

「......」

「ほんと、俺はダメだな。目的まで見失うところだった。でも、最期の最期でお前が......お前たちが救ってくれたことに感謝している。......もう時間がない」


 すると、ロゾはゼデクの方を見た。目が合う。刀を持つ手が震える。どうした? 斬るんじゃないのか? 何度も自身の胸に問いかける。あれだけ憎んだ。あれだけ目標にした。今こそ借りを返すんだ。なのに、


「......なんで、なんで」

「要らない情は抱くな。ケジメはつけなければならない。俺はお前に殺されるなら本望だ。よくぞここまで強くなった。俺から最後に褒美をやろう。その後は躊躇わず殺せ」

「......褒美?」

「そうだ。俺があの忌々しい力をどこで手に入れたかを。忠告する。いいか、よく聞け。あの力はーー」


 瞬間、言葉が遮られる。ゼデクの顔に暖かいものがかかる。黒い無数の槍がロゾの胸を貫いていてーー


「オイオイ、余計なこと言うなよ。それに、これ以上負け犬の遠吠えは聞きたくない」


 重厚な声。心なしか夜空の闇がさらに深くなる。殺気が、寒気が、圧力が、辺りを支配した。誰もが手を止め、息を呑み声の主を見つめる。ゼデクは声の主を知っていた。この禍々しい魔力を知っていた。恐る恐る背後を振り返る。


「オスクロルゥゥゥゥッーーー!」


 レゾンの怒号が響く。そこにはルピナスの国王、“暴君”オスクロルが居た。姿を確認した者たちが様々な反応を見せる。親の仇と言わんばかりに睨む戦鬼。でもそれまで。震え上がり座り込むワーウルフ。挙げ句の果てには逃げ出す者までいて、誰もが立ち向かえずにいた。


「......なんでここにいる? 爺さんは? みんなはどうした?」

「うん? あぁ、あの半裸の強者か。ククッ、強かったぞ奴は。俺にここまでの深手を負わせた。しかも最後に爆発まで起こして......死体から情報を引き出そうとしたのにな。今頃、どこかに埋まってるんじゃないか?」

「てめぇーー」


 ゼデクは言葉を止める。何か嫌な予感がした。なんとなく、なんとなくだ。上を見上げた。そこから死が迫ってる気がして、見上げた。


「......!」


 急いで横に飛び出る。直後、ゼデクのいた位置に黒紫の塊が落ちた。闇魔法だ。それが作った深い穴を見て、ゼデクは戦慄した。圧倒的に格が違った。いや、そのことは前から知っている。あのグラジオラスと互角に渡り合った人物。そして、プレゼンスを倒したであろう人物。


「避けるなよ。せっかく楽にしてやろうと思ったのに。俺にこれ以上手間をかけさせないでくれ」


 一瞬だ。穴を見ていたのはほんの一瞬。その僅かな時間で、ゼデクの真横から声がする。振り向くと、大鎌を構えたオスクロルが側にいた。確認した時には既に、それが振られていてーー


「伏せてッ!」


 魔力で拡大された盾が割り込んでくる。ウェンディだ。でも防ぎきれず、彼女は小さな悲鳴と共にゼデクの背後に吹き飛ばされた。彼女の安否が気になるが、今は確認している暇がなかった。気を抜けばすぐに死ぬ。


「さぁ、どいてくれ。俺はそこに横たわる負け犬に用があるんだ」


 今度は縦に振り下ろしてきた。同時に、左右から二本の剣がそれを遮る。


「ヤバッ......思ったより重たい。ってか剣が折れーー」

「ちょ、ゼデク! 早く加勢して」


 ガゼルとエドムが二人掛かりで受け止める。どうやらみんな追いついてきたらしい。ということはオリヴィアも近くにいて、幻惑魔法を展開しているはずだ。しかし効果は見込めない。オスクロルは間違いなく彼女よりも格上なのだから。


 ゼデクは急いで跳躍した。迫り合う3人を越えて、頭上からオスクロルを狙う。


「悲しいな、そこまで必死になって」


 オスクロルは大鎌を緩めると、剣で受け止めていた2人を蹴飛ばす。そして、そのままゼデクに大鎌を振った。


「うっ!」


 すぐさま刀で受け止める。重かった。ただただ重かった。命ごとさらわれそうな一振りに耐えられず、地面に叩きつけられる。


「チェックメイトだーー」

「きぃさぁまァァァァァアアアアアアアッ!」


 オスクロルの両隣で黒雷が走った。背後にはまさしく鬼気迫る表情をしたレゾンが斧を振りかぶる。だが、届くことは叶わなかった。嘲笑を向けたオスクロルは彼よりも早く大鎌を振り上げる。


「ゴフッ......!」


 血飛沫をあげながら膝をつくレゾン。


「兵器だ? “鍵”の保有者だ? 笑わせる。お前の中にある力も泣いているだろうよ。なぁ? 聞こえるか、“破の鍵”。そんな脆弱な主人など捨て、俺の元に来い。そうすれば無駄なく使いこなしてくれよう」


 当然、返事はない。冗談半分の言葉だった。もう必要ない。今の自分に“鍵”の存在は用済みであった。そんなことを考えながら、オスクロルはロゾの方を見やる。自分が探していた目的は、確かに彼が持っていた。彼の記憶を、魔力の残滓を手に入れればそれで良い。


 用済みとなった邪魔者消して、ゆっくり調べよう。腕をレゾンの方へと伸ばす。その先で、闇の魔力が凝縮され始めた。怪しく光る球体状の闇魔法。


「強かったら使い用があったものの。残念だ。消し飛べ」

「ふざけんっなぁァァァァァ!」

「ま、待て! やめろ!」


 その寸前。レゾンを庇うようにゼデクが身体を間に押し込む。レゾンが止めようとした時には遅かった。黒紫の光が煌めく。辺りを覆うほどの爆発に、ゼデクたちは呑まれた。

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