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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第1章 籠の中の少年と少女
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第5話 少年と現実

『......そうですか』


 部下からの報告を受けて、ペンを置く。キングプロテア王国の宰相、エスペルト・トラップウィットは、執務室の机で1人作業をしていた。


 これで2度目。“鍵”の護衛・支援を務める魔法師団。レティシア本人はまだ戦場に出るほどに成長していない、そうグラジオラスから聞かされていたが、早急に結成させることは悪いことではない。むしろ、完成した状態で彼女を組み込んだ方が幾分か安心感が出る。


 そうした経緯で七栄道は2度、魔法師団を結成させ戦場に向かわせた。でも今しがた全滅したとエスペルトと同じく七栄道の一角であるアイゼンから報告が入った。1度目は師団員の技量が足りず期待に押し潰された。何人かは生き残ったが無残なものだった。


 だから、2度目は優秀な人材を投入してみた、それもかなりの人材を。2度目の魔法師団は良い線を行っていた。活躍は目覚ましいもので、キングプロテアの未来を照らす光のようだと称えられた。


 でも、今回もダメだった。アイゼン曰く、突然綺麗さっぱり消滅したのだという。原因は不明。彼が無能だったわけではない、それはエスペルト自身がよく分かっている。


 昔から六国間は争いを続け、国ごとに国力の盛衰差があるのにも関わらず、均衡が保たれていた。というより、無理矢理均衡が保たされていたようにも思える。


 六国の人間なのか、それとも他の誰かなのか。いずれにせよ、何者かに操作されてる、そんな感覚。現状で満足しろ、必要以上に新たな力を求めるな。そう、誰かから言われているような感覚。


 だからエスペルトは、暫く経過を観察し続けた。ゼデクという隠し球を育てながら、数年、経過を観察し続けた。


 するとどうだ、隣国のルピナス王国が大きく均衡を崩すべく、大胆にも攻め入ってきたではないか。均衡を崩せば、どうなるか? 今まで通りであれば、きっと何かしらの修正が入る。


 しかし、何も起きなかった、パタリと止んだ。それすらも、その誰かの仕業なのか? その誰か自身に何かあったのか? いずれせよ、ついに動きだしたのだ。今しかない、とエスペルトは思った。それはグラジオラスも感じていたらしい。


 今回で3度目の魔法師団結成。ゼデクの肩に両手を置きながら、他の七栄道に堂々と表明する。


「私、エスペルト・トラップウィットは、レティシア様を支える将来有望な人材として、この、ゼデク・スタフォードを推薦します」


 エスペルト・トラップウィットは、一歩を踏み出すことを決意した。



 ◆


「なっ!?」


 ゼデクは思わず、驚愕の声をもらす。レティシアの方ばかり、気を取られていたから尚更驚いた。8年もの間、ずっと地べたで雲の上を眺めてきた。それがどうだ?


 レティシアを守る為の魔法師団。レティシアを支える為の魔法師団。


 未だに浮世離れした感覚に身を包まれながら、ゼデクはレティシアの方を向いた。


 レティシアは、どんな反応をするのか? 驚きはもちろんだろう、それから? 喜んでくれるだろうか?


 だが、その視線の先にあったのは、“怯え”であった。明らかにレティシアの波を打った瞳には恐怖があったのだ。


「そうか! 彼がゼデク・スタフォード君か」


 2人の奇妙な状況を他所に、話は進んでいく。目の前にいた、黄金の鎧を着た男が口を開いた。“黄金の英雄 ライオール・ストレングス”、彼もまた七栄道の一角であり、七栄道の中でも特に国民から支持されている人物だ。


 騎士道精神から程離れている色彩を帯びた鎧と裏腹に、物腰柔らかな振舞い、どこか高貴さを感じるオーラが漂う不思議な男。その男の言葉に、エスペルトは答えた。


「えぇ、そうです。是非とも仲良くしてやってください」

「もちろん、魔法師団に入るのであれば、今度うちの者がお世話になるだろう。よろしく頼むよ」


 爽やかな笑顔をみせる、ライオール。それに対し、ゼデクは会釈と共に挨拶を返そうとしたところで、


「親睦を深めるのは、お前たちの勝手だが、会議が終わってからにしろ」


 グラジオラスから釘を刺された。


「貴方は不満ですか?」

「......お前が推薦するのだ。実力が伴っていれば、なんら問題はない」


 と、言いつつもグラジオラスの不満気な表情を変えることなく話し続けた。


「次だ。試験の際、試験官を割り振る。当然、我ら七栄道も試験官として......」


 そしてグラジオラスと同じく、レティシアの表情も変わることはなかった。どこか怯えた表情で、何か言いたそうに口をパクパクと動かしている。


 なぜ、そんなに怯えるのか? ゼデク自身を拒絶しているのか、あるいはゼデクが魔法師団に入るのに、何か抵抗があるのか? ゼデクの胸中で、様々な疑問が浮かんでは消えていく。再び、凝視しあう2人。互いに時間を忘れ、思考を探る。


「......以上で、今回の内容全てだ。試験当日は各々の時間までに来るように......絶対だぞ、いいな?」


 すでに会議に参加していない者がいるためか、念を押すような声が聞こえた。会議が終わってしまうようだ。時間がない。まだ、レティシアの考えを読み取れていない。


 ゼデクは焦った。グラジオラスが、終わりの合図を出すと同時に、七栄道の面々が部屋から出て行く。


「ここからが正念場だ。頑張ってね」


 最後に黄金の英雄こと、ライオール・ストレングスが意味深い言葉を残し、こちらに手を振りながら部屋から出て行った。その一方で、部屋から出ない七栄道が2人。グラジオラスとエスペルトだ。レティシアもまだ、席に座っている。


「どうしたエスペルト、お前も早く出ろ」

「では、その通りに」


 何か起こると思えば、すんなりと退出を始めようとするエスペルト。彼は、レティシアを一瞥した後に立ち上がり、ゼデクに声をかける。


「さぁ、行きましょう。貴方はこれから、魔法師団に入ってレティシア様に命を捧げるのですから、ボサッとしている暇はないですよ」


 そして何故かエスペルトは、もう一度レティシアの方を振り返る。


「......待ってください」


 すると、レティシアの方から初めて声が上がった。


「グラジオラスお兄様! 待ってくださいっ!」


 なぜか、グラジオラスに制止を説くレティシア。それに対してグラジオラスは、ただ冷たい瞳で彼女を見下ろすだけであった。


「ゼデクだけは見逃してください!このままでは死んでしまいますっ!」

「それは私が決めることではない、そして、お前が決めることでもない。七栄道の1人として推薦の権利を与えられた、エスペルトと奴に推薦された者の意思に委ねられる」


 すると、レティシアがこちらを向いて、


「エスペルト、何のつもりですかっ! 何故、彼を戦場に引きずり込むのですか!」


「はは、普段冷静で穏やかな女神様が、えらく取り乱しているではありませんか。もちろん貴女のために、彼自身の意志で戦場に赴きますよ。それが、どうしました?」


「とぼけないでくださいっ! ......私は知っています、貴方に付いていって死んだ人々を何人も! あの魔法師団に選ばれ死んでいった人々を何人も......」


 だが、そこでパンッ!と甲高い音が鳴り響き、彼女の声が途切れる。グラジオラスが、レティシアの頬を叩いたのだ。


「何度も言わねば分からぬか、貴様に決める権利などないと言っているのだ。いつまでも恋愛など引きずるな、鍵としての自覚が足りぬ」

「......お前ッ!」


 ゼデクの中で、怒りが込み上がる。そして、グラジオラスに詰め寄ろうとすると、


「行ってどうするのですか? 今貴方がグラジオラスに向かっても殺されるだけ、それが現実です」


 エスペルトに組み伏された。国の最高峰に位置する七栄道。実力は、まやかしでなく、確かなものであることはゼデクも知っている。でも、それでも。


「くそ......離せッ! 」


 目の前で想い人があんなことになっていては、ジッとしてられなかった。必死に、もがくも地べたに身体を押し付けられる。すると、グラジオラスがレティシアの手を引いて、部屋の外へ向かいだした。


「お兄様! お願いです! 彼だけは、彼だけは!」


 レティシアが離れていく。


「よく見てなさい、これが今の貴方の現実です。魔法師団に入る前に今一度目に焼き付けなさい。私がいなければ、この場にすら立てなかったことを今一度認識なさい」


「エスペルトッ! はな......」


「ゼデク・スタフォード! 貴方には覚悟が足りないっ! 貴方が目指すものの高さを知らないっ! これが今の貴方と彼女の距離だ! あの日のことを忘れるな、今日のことを忘れるな!...... 本当の意味で、ここから始まるのです。今日、貴方が抱いた感情すべてを、これから先にぶつけなさい」


 あいも変わらず、地べたに這いずる少年は手を伸ばす。でもその手は雲の上にいる彼女には届かなくて、虚しく空を切るだけで。


 雲の上にいる彼女は、ただ泣いていた。

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