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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第4章 少年と幾千幾万の願い 〜ルピナスの戦花〜
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第38話 少年と特訓

友人(twitter @type74prototype)より、神懸かりな表紙絵を貰いました!

第1話の前書きに載せております、是非ご覧ください(*´∀`*)

「なぁ、レゾン」


 重い声が響く。自分の目の前にいる人間は、とても若かった。しかし、彼の声には貫禄が備わっており、他からの嘲笑を許さないものだった。


「......はっ」


 レゾンと呼ばれた戦鬼がーー戦鬼の首長が頭をたれる。ルピナス王国に住む種族。その多くを占めるワーウルフと戦鬼であり、彼らの首長ともなれば、国の頂点という地位を確立しているはずなのだ。


 なのに、頭をたれる戦鬼の首長。彼らが傅く相手はただ1人。ルピナス王国の国王だ。


「先の戦いで、大層痛手を被ったそうではないか。それもかなりの重臣を失ったと聞く」

「申し訳ございません。王の大事な手足をーー」

「いやぁ、俺にとっては大事ではない。だがお前は違う。無理をするな、辛いのだろう? 大切にしていた仲間じゃないか」


 彼は玉座から立ち上がると、レゾンの方へと歩み始めた。酷く暗い玉座の間。その中をコツン、コツン、と音を立てながら歩く。


「......」


 やがて、返す言葉を失った戦鬼の角を掴むと、顔を無理矢理持ち上げた。


「クク、良い目をしている。未だに反抗的な目。そんなに諦めることができないか?」

「いえ、ロゾ共々、この命を貴方に捧げる所存です」

「そうだよなぁ? 俺はお前らよりよっぽど強い。だったら従うしかない。どれだけ反抗心を抱こうと、お前たちの命は俺が握ってる」


 悔しいが、これが現実だった。戦鬼とワーウルフが協力したとしても、この男1人に敵わない。レゾンは歯軋りするしかなかった。


「良い、良い。此度の失敗も、その反抗的な態度も許そうではないか。俺はそこそこ寛大だからな。お前は許してやる」


 角を離す国王。彼はそのまま玉座の間から出ようとする。


「王よ、どちらへ? 護衛は?」

「いらねぇ。弱いお前たちなんか侍らせてどうする? それに殺戮は1人で楽しみたい」


 それを聞いたレゾンは殺意を剥き出しにして振り返った。これから彼が行う所業を理解したからだ。


「部下に罪はない! 殺すのであれば俺にしろ!」

「ふっ、笑わせるなよ。お前は“鍵”。道具は道具らしくしてろ。しかし、弱いのも不便だなぁ? 何も貫けない」


 扉が閉まる音が聞こえる。大切な部下を、仲間を、家族を殺されて尚、反抗できない。この国は地獄だ。全てが彼を中心に回る。誰も抗う力を、強さを持っていない。この状況になって既に10年経っていた。


「耐えろ、耐えるのだ......今歯向かえば、皆の努力が水泡に帰す!」


 必死に自らを抑えるレゾン。彼の瞳は憎悪に満ちていた。


 ◆


 修行、と聞けば何を浮かべるだろう? 身体・精神・技術。多方面での成長が求められるのだから、その種類も増える。ゼデクもこれまで体力をつけるために延々と走ってきたし、岩を持ち上げたりもした。エスペルトから卑怯な戦法や剣術も学んだ。


 そして今、こうしてプレゼンスと向き合う。これから何をすれば強くなれるのか? 果たしてそんな方法はあるのか? 何を意図したのか、彼らは官舎から出ると、山の中腹にあるだだっ広い空間に来た。


「よし、始めるとするか」

「頼む......えーっと、師匠?」


 すると、プレゼンスは破顔する。


「確かにワシは師にあたるのだろうが、その呼び名は後の人に取っておけ」

「じゃあ、なんと呼べばいい?」

「ワシはそうじゃなぁ......あぁ! そうじゃ! 是非とも“ジジイ”と呼んでくれんか?」

「......爺さんにするよ」

「つれんのぉ〜」


 成り行きでこんなことになったが、仮にも彼は七栄道の1人である。本来ならこの口の利き方も怪しいのだ。そんな彼に“ジジイ”と呼ぶのは気が引けた。


「まー、良いか! ほらほら、立って剣を構えろ」

「......何をするんだ?」


 剣の撃ち合いなど、とっくにエスペルトとこなしている。やはり、斬新な修行法などないのかもしれない。


「お前はあのワーウルフに勝てなかったのだろう?」

「あぁ、そうだな。全く歯が立たなかった」

「ワーウルフとお前にある決定的な差。なんじゃと思う?」


 決定的な差。ゼデクは考える。身のこなしから強化魔法の規模まで、全てが劣っているように見えた。何よりあの時は焦っていて、周りが見えていなかったようにも思える。


「経験じゃよ。端的な話、いくら修行を積んでも限界がある。いくら戦に役立つ知識を詰めようとも、やはり限界がある」

「......え?」


 修行に限界があるのであれば、これからの修行に何の意味があるのか?


「結局のところ、戦場で格上と出会い、戦い、倒すことで強くなるんじゃ。生死を彷徨う極限の状態、それが人を強くする。そして、お前は1つの限界に到達しておる」

「俺が?」

「うむ。だから、残りの彼らが官舎で基礎トレーニングをしている中、お前1人この場に連れてきた。今まで育ててくれたエスペルトのお陰じゃな」


 もし、今の話が本当であれば、ゼデクに一番必要なものは経験になる。すると、これから経験を何らかの形で積むはずだ。


「そして今から、お前には経験を積んでもらう! 長年戦場を駆け巡ったワシがお前の相手をしよう」

「今までエスペルトに相手してもらったのと同じようにか?」

「否!」


 プレゼンスは拳を構えた。


「ガチンコじゃ。ワシはお前を殺す気で殴りかかる。お前はワシを殺す気で斬りかかれ」

「......ってことは最悪、どっちか死ぬ可能性があるってことか?」

「命懸けと言ったろう? 極力避ける形で武器を握らず、拳を選んだが。命の保証はせん」


 修行法もとい積むべき経験は、何とも原始的なものだった。今まで他の国の強者と渡り合ってきた七栄道。もちろんゼデクよりも格上で、目標でもある。そんな彼らと死ぬ気で戦い、その上で互角に渡り合えるようになれば、今より遥かに強くなれるだろう。


 とてもシンプルな話ではあるが、実行するにはあまりも高いリスクが伴う。


「さぁ、構えろ。死んでくれるなよ? 実はこれ、他人には内緒だからな! 死んだらワシもお前も笑えん状況になる!」


 ガハハ、と笑いながらそんなことを言う。許可の取れてない2人だけの修行。もうギャンブルだ。しかし、化け物じみた彼らに短期間で追いつくには、これしかないのかもしれない。


「覚悟はさっき決めてばっかりだろ」


 ゼデクは己を奮い立たせて、刀を握った。そして、今自分が引き出せる最大限の魔力で身体を強化し、炎を纏わせる。


 掛け声は要らなかった。ゼデクの準備ができたと判断したプレゼンスは、すぐに飛び出す。


 ゼデクは最初の一撃を防ぐことに全てを注いだ。そもそもこの一手を防がねば、次など存在しないからだ。振るわれる拳。ゼデクはそれをジッと見つめる。動きを捉えることはできた。丸腰の相手に刀を振るうのは躊躇いがちであったが、目の前にいる存在は例外だった。やらなければやられる。


 ゼデクはその拳に容赦なく刀を当てた。生身の拳と刀が衝突する。だと言うのに、ガキン、という甲高い音が響く。プレゼンスの拳は、ワーウルフの骨格よりもよっぽど硬かった。


 刀を持つ手が震える。攻勢に転じるとか、そういった次元の話ではない。防御で精一杯なのだ。次の瞬間。


「がふっ......!」


 視界が大きく揺さぶられる。プレゼンスが放った二撃目が、自身の顎を捉えた。そう認識するのに時間がかかった。何故首が繋がっているのか、不思議で仕方ないレベルの衝撃。ゼデクは思わずその場に崩れ落ちる。


「堪えんか!」


 そう声をかけられた時、すでに向こうが手を止めている事実に気付く。これが今の力量差だ。


「立て! まさか今ので終わりではあるまい?」


 すぐに埋めなければいけない。一撃を受けても死なないことはわかったのだ。立て。ゼデクは自身に檄を飛ばす。


「......当たり前だ」


 再び降りかかる拳。やはり見えた。そして今度はその重さを、さらに先に控える追撃の速度を知っている。その分、先よりまともに対応できるはずだ。


「うぉぉぉぉぉおおお!!!」


 強くなるのは今しかない。きっと、今を逃したら二度とチャンスが訪れない。だから、諦めず自身を鼓舞し続ける。


 己の弱さを、躊躇いを払うように、ゼデクは刀を振るったーー

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