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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第3章 少年と新設の魔法師団
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第35話(閑話) 宰相と初恋 2

 あの日、初めて彼女に出会った。


『こんにちは。貴方が隣国から来た方ですか?』


 みっともなく沈んでいる時に出会った。


『そうですね。私がその余所からきた“裏切り者”です』


 世界はいつも気まぐれだ。


『私、貴方を一目見たくて、ここに来ました』


 突然、別れを突き付けたかと思うと、今度は出会いを押し付ける。それも酷く落ち込んでいる時、悲しんでいる時、苦しんでいる時に限って。世界は、まだこの舞台で踊れと言うのだ。


『はて、こんな自分に?』

『はい、そんな貴方に』


 金の長髪が風で揺れる。エスペルトはそれを美しいと思った。素直な感想だ。


『それで、余所者の私を見てどう思いました?』

『とても不思議な方。そして、優しい方なのですね』


 それを聞いて、エスペルトはむっとした。優しいと言われたのは初めてだから。


『優しい? 隣国を平気で見捨てた私が?』

『はい、隣国を見捨てた貴方が。......ってなんですか、この似たようなやりとり』


 対して、彼女は笑っていた。恐らく、今のエスペルトにはできない表情。どうすれば彼女のように笑えるのだろうか?


『初陣での活躍、聞きましたよ。国中大騒ぎです。それはもう1番の手柄を余所者に取られただなんて言う人もいるくらいに』

『もちろん。たくさんの味方を踏みつけて手にした戦功ですから。私、味方の命も省みない外道なんです。貴女も罵ってみては?』

『ふふふ、そんな外道さんは墓前で泣いたりしませんよ』


 そこで思い出す。2人は今、戦死者を弔う墓前にいた。


 いつもは平静を装うことができるのに、今日ばかりはダメだった。とっさに流した涙を止めることができても、腫らした目はどうにもならない。さらに、墓前にいては説得力のない言葉。もう誤魔化せなかった。


『どうです? 少しお話ししませんか?』


 最近は説明のつかない感情が渦巻く。


『貴方のお話、是非聞かせてください』


 自分のことを仲間と呼ぶ人に抱いた感情も。目の前にいる彼女に抱いた感情も。


『隣国のお話とか、初陣のお話とか』


 世界はいつも気まぐれだ。救いの手を差し伸べるかのように、残酷な運命を押し付ける。


『他ならぬ、貴方の言葉で』


 この日、エスペルトは初めての恋に落ちた。



 ◆


「いい加減おきてくだせ〜。じゃないと捨てますよ〜?」


 静かな森の中。辺り一面緑の世界ーーではなく、所々に血で彩られた赤が垣間見える。死体の山は最近まで戦場であったことを示す。その中を少女が歩く。少女の肩には、これまた少女が1人。


「あぁ? あぁあぁ、ごめんよ。もう良さそうだね。“暴君”も王族様もいない。......よっと」


 肩にいた少女が地面に飛び降りる。衝撃で身体から血や臓物が飛び出たが、本人は気にも留めない。


「も〜その身体駄目なんです? さっきの混戦で新調したばっかなのに」

「次の身体、探すよ。今度は可愛い子が良いなぁ。いや、この子も良かったんだけどね? レティシアちゃんの身体とか志望します!」

「うわ、きめ〜」


 半眼で軽蔑の視線を送る少女。


「だって母親似だもん! で、その母親は彼女に似てて! 殺すときっと気持ちいいんだろうなぁ......君の身体も中々に良さそうだね」

「死にやがってください。何ならウチがぶち殺しますよ〜?」

「冗談だって、怖いなぁ〜。絶対に勝てないし」


 と言い、五体満足な少女を見つめる。彼女に勝てないというのは本当のことだった。今はもちろん、新しい身体を用意しても怪しい。それ程に彼女は強大な存在だった。


「しかし、もう少し眺めていたかったなぁ」

「あの少年?」

「そうそう。一瞬、彼の中から匂ったんだよね。懐かしい彼女の匂い」

「ストーカですか。本当にきめ〜ですね」


 そう貶されても、少女は笑い続ける。


「いやね、良いとこで“暴君”や王族様が邪魔してきたんだよ。彼ら鋭過ぎない? 最近、俺の行動制限されてんよ」

「あんたさんがカスなだけですよ。もっと隠れてやればい〜んです、ああいうのは」


 五体満足な少女は指を動かす。すると、目の前の景色が歪み始めた。やがて別の空間が開くと、


「じゃっ、ウチはこの辺で。後は好きにしてくだせ〜。死んでも知らんので」

「はーい。ありがとー」


 空間の中に入っていく少女。それを骸はただ眺める。しばらくして、足の機能が停止しつつあることに気付いた。早く、次の身体を探さないと面倒なことになるだろう。


「うーん、今度の身体は〜迷うなぁ」


 骸は......エルア・レインの骸の中に入った何かは、そう呟くのであったーー

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