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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第3章 少年と新設の魔法師団
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第30話 少年と戦場

 それは唐突にやってきた。

 一度の衝突だけで、何人か死んだ。

 味方は兎も角、相手は陣形を保つことに執着しないようで、場は混沌としたものになった。


 ゼデクは目の前でワーウルフが横切るのを確認して尚、子供を探し、追う。

 何故か子供の存在にしか、集中できなかった。


 アレを子供と呼べるか怪しいかもしれない。

 先程、アレを見るなと頭の中で誰かが呟いた。

 しかし、化け物じみた子供を放置することが、はたして正解に繋がるのだろうか?


「ゼデクッ!」


 後ろからエドムの声が聞こえるのと同時に、腕を引っ張られ、引き寄せられる。

 すると、先程まで自分が居た位置にワーウルフの鉤爪が振り落とされた。


「なにやってんのさ! 君らしくない」

「......すまん」

「フヒヒッ、惜しかったなぁ」


 目の前で、人型の狼が喋る。

 ワーウルフ。

 どこか人間に似ているようで、人間じゃない動物。

 人と同じように話し、道具を使い、生活する様から、かつては人間だったと噂されるが、今そんなことを考えている場合ではない。


 ワーウルフが下半身の筋肉を軋ませる。

 こちらに飛んでくることは目に見えていた。

 ゼデクは腰の刀に手をかける。


 エスペルトから押し付けられた刀。

 曰く、千日紅刀で五指に入る名刀。

 自身の魔法に呼応するような、赤い刀身の刀に、ゼデクは炎を纏わせた。

 当然、自身の強化も忘れずに。


「子供を嬲るのはサイコーだぜ!」


 気分の悪くなる台詞と共に、ワーウルフが飛び出した。

 子供。

 そう聞けば、先程の光景が浮かぶ。

 アレもまた、酷く気持ちの悪いものだった。


 向かってきたそれを、ゼデクは容易く両断する。


「がふっ」

「......くそ。お前の所為で見失った」


 ワーウルフの所為、というのは責任の押し付けかもしれない。

 最初からゼデクが追える敵でなかったことは、心の何処かで感じていた。

 それでも、気持ち悪い光景はずっと脳裏を離れなくて、それを断ち切るようにワーウルフを斬った。


 ゼデクは背後を確認する。

 見知った仲間は無事だった。

 少なくとも、いつもの4人は側で戦っていた。


 すぐに、加勢に入る。

 同じ要領で、ワーウルフを3体ほど斬った。

 元より、七栄道に育てられた身だ。

 未熟だの弱いだの言われようと、このくらいで負けるほどヤワではない。


「お世辞にも良い状況とは言えないわね」


 辺りを落ち着かせたところで、ウェンディはうんざりとしながら呟く。


「当たり前だろ、奇襲かけられたんだから」

「なんで、隙突かれたんでしょう?」


 奇襲をかけるつもりが、逆にかけられた。

 事前に探知はしていたし、情報も行き届いていたはずだ。

 なのに彼らは急に現れた。

 やはり、心当たりが子供しか見当たらなかった。


「考えるのは後でお前らに任せるとして、まずは首だ! 首!」


 ガゼルが両の手を上に突き上げる。

 彼が脳筋なのはさて置き、まだ戦中であることは確かであった。

 上を目指す以上、できるだけ値のある首を取る必要がある。


 ゼデクは戦場を見回す。

 荒れた森の中、一際目立つのが1匹。

 この場のリーダーだろうか。

 暴れている様子を見ただけで、自分たちよりも格上だとわかる。


「......あれか」

「むむむ、ちょっと大き過ぎる。勝てますかね?」

「まだ、七栄道ほどじゃないし、やるしかないでしょ」


 ゼデクの心配を他所に、彼らの中では挑むことが決定しているようだった。

 それを聞いて、ゼデクも腹をくくる。


「じゃあできるだけ静かに隙を見てーー」

「いっくぞぉぉぉぉ! 正・面・突・破ッ!」

「了解であります! 隊長!」


 ガゼルとオリヴィアが駆け出す。

 頭を抱えている暇も、いつ彼が隊長になったのかとツッコミを入れる暇もなかった。

 少人数でいけば確実に殺されるのだ。

 急いで彼らを追う。


「ははは。作戦立てる必要が無くなったね」


 根本は何も解決できていないが仕方がない。

 道中いた敵を斬りつつも、目的の前まで詰める。

 既にガゼルが、斬りかかっていた。

 隣でエドムが帯電するのを感じる。

 きっと、ゼデクより速いエドムが、先に仕掛けるだろう。


 ならば、自分は2人を陽動に一撃の機会を狙うべきだ、とゼデクは今後の展開を予想した。

 予想通り、手前の2人では仕留めきれなかった。


 その2人に気を取られていることに乗じて、ゼデクはワーウルフに斬りかかる。

 燃え盛る炎を纏った刀が、ワーウルフを襲った。


「次から次へと、忙しいなぁ!」


 完全に背後を取った......が、刀は届くことなく、ワーウルフの凶々しく発達した爪に弾かれる。


「......ちっ」

「へっ、イキの良いのが出てきやがった」


 重い衝撃に耐えながら、さらに2、3合撃ち合うも、決着が付かない。

 ゼデクは素早く距離を置いた。

 そのまま5人が集まる。


「なぜ千日紅の男がいる?」


 おそらく、ゼデクのことを指しているのだろう。

 容姿・装備諸共、千日紅国のそれにしか見えない。


 対して目の前にいるワーウルフは、遠くから眺めたよりも一層、大きな図体だった。

 いや、図体のみならず、威圧感も魔力量も、全てだ。


「彼、どのくらいの人物......狼物だと思う?」

「なんだよ、その呼び方。......でもかなり上の方だとは思う」


 情報を信じるなら、彼らの長は千日紅国と戦闘中だ。

 と、すれば副官か似たような官位だろうか?

 もっともルピナス王国に、ちゃんとした官位があるかなど、定かではない。


 向こうは、思考を重ねるこちらの事情などお構い無しに、襲いかかってきた。

 それに、ゼデクは動かなかった。


 異常に発達したワーウルフの腕を、ウェンディが盾で遮る。

 彼女の鋼鉄魔法で拡張・硬化した円盤状の盾は、攻撃を完璧に防いでみせた。

 その広くなった盾に隠れる3人。


「うっ、重い......」


 なんて言いつつも、ワーウルフと力で張り合う彼女の腕力に、ゼデクは内心恐れを抱く。


「いつまで後ろに隠れてるの! 早くしなさい!」

「言うな、3人隠れてるのがバレる」


 実は既に、2人はガゼルとエドムが側面から飛び出したことを確認している。

 つまり、やり取り全てがブラフ。

 さらに注意を引くべく、ゼデクが正面から突っ切る。

 今度は彼が陽動だ。


「くたばれ!」

「甘ぇ!」


 ゼデクが放った一閃は、簡単に受け止められる。

 少し間をおいて、側面から2人が斬りかかった。

 次こそ、裏を取ったはずだ。


「甘ぇつってんだろ!」


 必死の工作も虚しく、2人はワーウルフに蹴飛ばされた。

 と、ワーウルフだけが確信していた。


「なっ!?」


 蹴り飛ばされた2人が、煙のように消える。

 空かさず電流が走る。

 致命傷とは行かずとも、ワーウルフの動きを止めるには十分だった。


「貰った!」


 消えたかのように思われたエドムとガゼルが、右腕と左足を斬りとばす。

 バランスを失い、倒れかけるワーウルフの視界の奥に、1人の少女が映った。


「うっ、魔法使い過ぎて鼻血出てきました......」


 瞬間、悟る。

 これだけ長い間、戦っているのに関わらず味方が駆けつけないのも、先程自分が蹴り飛ばしたと勘違いしていたのも、全てこの少女に起因することを。


「てめぇ、幻惑魔法を使いやがーー」

「うぉぉぉぉおおおおお!」


 自分の脳を侵食する程、強い幻惑魔法に驚きを覚えるのを最後に、バランスを失ったワーウルフは、ゼデクに首を刎ねられた。

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