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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第3章 少年と新設の魔法師団
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第25話 少年と前夜 1

 とある一室の扉の前、そこにゼデクたちはいた。


「なんで私があんた達と同じ部屋なのよッ!」


 隣でウェンディの声が聞こえる。

 それに耳を塞ぎながら、エドムが答えた。


「しょうがない......のかな? 僕たちは兎も角、他の小隊の人は今日が初対面なんだからさ。それに戦地に出たら嫌という程、このメンバーで野宿だよ」


 入り口で一悶着あった後、官舎内にて六国の現状と魔法師団の今後の方針について説明が行われた。


 まず、六国の争いが激化したこと。

 西側の二大大国は全面戦争に突入したこと。

 我らキングプロテア王国を含めた東側にも動きがあったこと。

 そして、祠の重要性を再認識したこと。


 編成されたばかりの魔法師団も、明日出兵するのだ。

 今後レティシアが率いるであろう魔法師団は、その中でも更に、6つの小隊に別けられていた。


 1つの小隊に5人の計30人。

 ゼデクの小隊はというと、いつもの顔馴染みしかいなかった。

 この都合の良い編成にも、エスペルトが一枚噛んでるに違いない。


「他の小隊の方々は、これから隊員の魔法とか把握しなきゃいけませんからね!」


 オリヴィアの声を背に、ゼデクは部屋を見つめる。

 広くない縦長な部屋。

 両側面に二段ベッドが3つ、中央にはテーブルが1つ。

 急造のためか、いかにも簡易的なものだった。


「ベッドの配置どうしよっか? 男女別れるのは当たり前として」

「じゃあ私たちは右側貰うわ」

「了解。僕たちはどうしよ......あぁ、ガゼルは奥のベッドでお願い」

「あ? なんで?」

「なんでって君、いびき凄いし、寝相悪いじゃない。この間、僕殴られたんだけど......」

「そうだっけ?」


 二段ベッドなので殴られるかは別として、彼のいびきは相当なものらしい。

 普段のガゼルを見るに、納得してしまう部分があるため、擁護にまわれない。


 何にしても、相変わらず呑気な会話。

 つい先程まで、凄まじい剣幕でゼデクの浮気疑惑を問い詰められたのだが、その雰囲気は何処へやら、今は穏やかな会話だった。

 もちろんゼデクは正当性を主張し、どうにか弁解することができた、と本人の中では信じている。


「あんた、夜中にこっち覗いたら殺すから」

「物騒だな。覗かないから安心しろ」

「どうだかね、浮気するような人の言葉なんて信じられないわ。バリケードないの?」


 できたはずだ、と心中不安になった。

 ニヤニヤと笑うウェンディに、ゼデクは抗議の目線を送りつつも、左側手前のベッド下段に陣取る。


「いやぁ〜、それにしても売ってませんでしたね、ケーキ」

「ケーキ?」

「はい、ケーキです!」


 なんでケーキが出てくる、という顔をしているゼデクに、エドムが補足を加える。


「ほら、昨日生誕祭だったけどさ、あれこれガタガタしてたから、それらしいことできてなかったじゃない?」

「明日から戦地に行くんだぞ......」

「だからこそだよ。せめて戦争の前後は楽しまないとね。いつ死ぬかわかったもんじゃない」

「縁起でもないこと言うな」


 ゼデクは上を見上げる。

 するとエドムは、こちらを見下ろしていた。

 やはり、笑っている。

 彼は戦場が怖くないのか、はたまた空元気なのか。

 笑いながら、


「そうだ、帰ってきたらみんなで食べよう」


 なんて言う。


「良いですね! エルアちゃんも一緒に誘いましょう!」

「頼む、これ以上積み重ねないでくれ」

「え、ゼデクは食べたくない? みんなで」


 その問いは卑怯だった。

 ゼデクは顔をしかめる。

 みんなで楽しく過ごせるのであれば、それに越したことはない。

 そう思うのは当然だ。


 答えようとするにも、妙な気恥ずかしさがゼデクを襲う。


「団欒する暇なんてないだろ。俺はまだ、お前らの魔法について、全部知らないぞ。共有しろよ」

「あ、逃げた」


 回答を避けたのも事実だが、知らないのも事実だった。

 エドムやオリヴィアの魔法は目にしたが、ウェンディとガゼルの魔法に至っては、話すら聞いていない。

 促すべく、2人に視線を送る。


「......鋼鉄の物質魔法と強化魔法よ」


 最初にウェンディが答えた。

 鋼鉄の物質魔法。

 聞こえから考えるに、後方支援向きの魔法でなさそうな響きだった。

 ゼデクは思ったことを、そのまま口にする。


「それじゃあ前衛か?」

「そ。今日一日中、盾持ってたんだけど、気づかなかったの?」


 彼女は、割りに大きくない円盤を片手で左右に揺らす。


「それが盾だとは思わなかった」

「魔法で大きくするのよ。というよりね、私フェーブル家なの。大体は予想つくでしょ?」


 その言葉にゼデクはムッとする。

 フェーブル家。

 確か、現当主アイゼン・フェーブルは、七栄道の1人で、“鋼鉄の守護神”と称されるほどの男だったはずだ。


 七栄道の推薦枠を勝ち取っている彼女はもしや、とは思っていたが、やはりその家柄に通ずる人間らしい。

 それにしてもだ。


「何よ、その目。文句ある?」

「なんかお前らしい魔法だなって思っただけだ」

「それ、どういう意味?」

「家名の誇りに重きを置く、お前らしい魔法って意味」


 どこか筋力任せの彼女らしい魔法、とは口が裂けても言えなかった。

 容易に今後の展開が予想できる。


「で、ガゼルはどうなんだ?」


 納得のいかない顔をする彼女から顔を背け、話の軸を切り替える。

 相変わらず半裸な少年は、それに答えた。


「強化魔法」

「ほう、それで?」

「以上。それ以外使えない」


 沈黙が流れる。

 強化魔法。

 即ち、身体や物質を強化する魔法。

 基本的なものであり、魔法使いの身体能力が一般人の数倍ある所以でもある。


 そして彼は、それしか使えないと申し出た。

 ゼデクは少し戸惑う。

 そんな様子を見て、エドムは笑った。


「あ、今ガゼルのこと弱いって思ったでしょ?」

「い、いや、少し驚いただけだ」

「ふっ。そうやって馬鹿にしたやつから死んでいくのさ」


 謎めいたマッスルポーズを見せつけるガゼル。

 半裸といい、野生味のある生活スキルといい、5人の中で、彼が1番謎の深い人物である。


 強化魔法のみで推薦枠を勝ち取った。

 これは、彼の持つ強化魔法が、他者の魔法を圧倒的に上回ることを意味する。

 故に、ゼデクは彼を貶すことなど、断じてできなかった。


「ほい、これで説明は終わり! それでどうなのさ?」

「何が?」

「さっきの話だよ。ケーキ」

「......」


 必死の回避も虚しく、話を戻されるゼデク。

 エドムは是が非でも回答を聞きたいらしい。

 素直に食べたい、といえばそれで済むのだが、ずっと付きまとう妙な恥ずかしさが、それを拒む。

 すると、


「食べれば良いじゃないですか、ケーキ」


 背後から別の声が聞こえた。

 この場に似つかわしくない幽鬼を想起させる声に、ゼデクは思わず振り返る。

 その先には、目の隈をより濃くしたエスペルトが顔を覗かせていた。


 隣でウェンディが「ひっ」と悲鳴を上げた気がしたが、彼女のプライドのためにそちらは向かない。


「なんで、あんたがここにいるんだ?」

「準備にひと段落ついたので、夕飯食べに行こうかと」

「ここに夕飯はないぞ」

「知ってますよ。外食を貴方も一緒に、と思いましてね」


 ゼデクは戸惑う。

 確かこの時間、部屋からの外出は禁止されていたはずだ。

 それを予測するように、エスペルトが口を開く。


「あぁ、心配ないですよ。上の者には言っておきましたから」

「......職権濫用だな」


 冷静に考えれば、七栄道の庇護下にある自分たちは、多少無理しても周りから何も言われないかもしれない。

 庇護下にあるからこそ、模範的な行動を取らねばならないのだろうが。


 ただ、このまま外に出るというのも、エドムたちに申し訳ない気持ちになる。

 再度振り返るゼデクに、エドムは笑い。


「行って来なよ。気にしないで」


 と言う。

 ここまで来ると、行かないと切り出せなくなる。

 ゼデクは、エスペルトについて行くことを決意した。

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