第24話 少年と団員
坂道の多い王都、グランツ・ロード。
魔法師団の官舎もまた、坂道の上にある。
ゼデクと少女は、その道を歩いていた。
「着いたぞ。目の前に見える建物がソレだ」
「へ? あ、あぁありがとうございます」
素っ頓狂な返事が聞こえたので、ゼデクは声の主の方を振り返る。
余所見をしていたのか、他ごとをしていたのか。
目の前の建物をようやく確認した少女は、慌てながら礼を述べた。
「......貴方も今日からですか?」
「うん?」
「え、えっと、今日貴方もこちらに向かわれるということは、同じ師団の仲間なのではないかと......」
そこでゼデクは納得する。
彼女は一般試験に合格したような口ぶりだった。
となると、ゼデクと同じ師団に入るメンバーになるはずだ。
「......仲間、ね」
「へ?」
「いーや、何にも。ほら、着いたぞ。流石にここから先はわかるよな?」
「は、はい。ありがとうございます」
そうこうしているうちに、門前まで来た。
ゼデクは再度、一礼する彼女を見つめる。
彼女は仲間と言った。
その言葉が、複雑な気分を起こす。
ついこの間まで1人で奮闘していたのに、気付けばエドムたちに仲間と認められ、今度は迷子の少女にさえ、そう認定された。
仲間とはこんな簡単に増えるものなのか?
容易に拾っていいものなのか?
いや、同じ師団で戦う仲間という、彼女の言葉はもっともなのだが。
そこで、少女がこちらを凝視していることに気づいた。
「どうした? まだ何かあるのか?」
「その傷、見せてください」
おそらく、エスペルトとの修行の際に負った擦り傷のことを指しているのだろう。
数は多いものの、本当に擦り傷程度のものなので、ゼデクは気にしてなかった。
もはや日常茶飯事まであるのだ。
「そんな気にするほどのーー」
「どんな傷でも放っておいてはいけません」
おどおどしていた少女は何処へやら、目の前にいる彼女は凛としていて、別人に見える。
あまりの気迫に、ゼデクは気圧された。
「あー、わかったわかった。後で何かしら処置しておくから、お前は先にーー」
「私、治療できますから。そこに座ってください」
半ば無理矢理座らされる。
道案内を引き受けたが為に、調子を狂わされる一日になってしまった。
自分が今この状況に陥ってることが不思議で仕方なかった。
腕の傷に当てられた彼女の腕が、緑色に光る。
「......魔法か」
「はい、これだけが私の取り柄ですので」
少女が微笑む。
彼女の言葉を鵜呑みにするのであれば、彼女は後方支援の回復術師なのだろう。
擦り傷程度で、この有様なのだから、戦場に出たらどうなるのか?
きっと彼女がいれば、行軍が酷く遅れると思った。
それを考えて、少し苦笑いをする。
しかし、しっかり礼を述べなければいけない。
ゼデクは胸中の言葉を表に出した。
「ありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです。そして、これからも傷があれば診せてください」
仲間ですから、と微笑む少女。
その言葉を聞くたびに、ゼデクは戸惑う。
脳裏に、エスペルトの言葉が蘇る。
ゼデクが誰かと繋がりを持とうとする度に、疑問を投げかける、彼の言葉。
ゼデクが彼女を仲間と認めたなら、彼は彼女をも踏み台にするべきだと言い放つのか?
エドムたちを守ることさえ怪しい自分は、彼女という仲間を増やして守ることができるのか?
その思考に、少し間隔が空いてしまった。
「そういえば、名前聞いてなかったな」
自身の思いを誤魔化すように話す。
仲間と言うのであれば、名くらい知っておくべきだ。
少女は少し驚いた顔をした後、
「エルア、エルア・レインと申します。貴方は?」
再び笑みを浮かべる。
それに対し、ゼデクが自分の名前を告げようとしたところで。
「男女が1人ずつ。手を握ってる。しかも笑ってる。男はなんと、ゼデク君......」
つぶさに状況を確認する声が1つ。
ゼデクは背後を振り返った。
その先にオレンジで彩られたショートヘアの少女が1人。
オリヴィアがこちらを見ていた。
「......! つまりこれは浮ーー」
「いや、違う。ちゃんと見てから判断しろ」
ワンパターンな彼女の言葉を予想し、即座に否定する。
「いえ、これはどこからどう見ても浮気ですね! 私は悲しいです、ゼデク君! 君がそんな子だとは!」
そう簡単に納得する彼女ではなかった。
このままでは取り返しのつかないことになる。
彼女が近くにいるということは、他の3人も近くにいるということ。
ややこしい事態に陥る前に、なんとかする必要があった。
唐突の出来事に呆然とするエルアを放り、オリヴィアを説得するべく、頭をフル回転させる。
「落ち着け、そして一から説明するから、よく聞けーー」
「何騒いでんのよ、あんたたち」
「ウェンディちゃん! い〜いところに来てくれました! あのですね、ゼデク君が浮気を......」
一手遅かった。
いや、目撃された時点で手遅れだったのかもしれない。
本当に今日は、調子が狂う1日だった。
エドムとガゼルが視界に入る。
彼らの誤解を解くには、かなりの時間を要するだろう。
「......冤罪だ」
ゼデクは、自らの仲間たちを見つめながら、そう呟いた。




