第23話 少女と会議
「久しぶりに会ったな、嬢ちゃん!」
「ど、どうも」
華美な装飾、床にはレッドカーペット、一際大きな長机。
レティシア・ウィンドベルは今、会議室にいた。
これから七栄道で、会議があるのだ。
前回と同じ会議室。
違うのは面々が少し変わったこと。
前回いた人物が減り、いなかった人物が増えた。
具体的には隣にいる人物とか。
「すまないな。本当は従者に娘を付けてやりたいんだが、いかんせん、実力不足なんだよ」
紫の短髪に、黒い瞳。
気さくな男が笑う。
アイゼン・フェーブル。
七栄道が1人、国の“守護神”と呼ばれる男だ。
「それに、お前の兄ちゃんが厳しいしな」
からかうように笑う彼は、グラジオラスの方を向く。
レティシアは正面に座る兄を見つめた。
名指しされて、苦い顔をした彼が視界に収まる。
「実力が足りないのは事実だ。鍵の護衛に従事させたければ、相応の修羅場をくぐらせろ」
「過保護だなぁ」
「お前はもう少し、放任癖を直せ」
そこで2人の動きが止まる。
「あ、エスペルト先輩だ!」
奥に座っていた女性、クレール・ローレンスが立ち上がった。
まだ扉が開いてすらないのに、扉の方に駆け寄る彼女。
どうやら気配でわかるらしい。
こんな日常的なところでも実力差を見せつけられ、レティシアは苦笑いした。
「エスペルトだと?」
アイゼンも彼女に伴い、席を立つ。
はたして。
少し間を空けて、エスペルトが入ってきた。
「やぁ、久しいですね。アイゼンーー」
「おう、おめぇを待ってたぜ!」
「ちょ、痛っ! いきなり何するんですか!?」
「仮にも人の娘、踏み台呼ばわりした代償だ。軽く済んで良かったな」
「あぁ、先輩! 私の妹の分も、今ので手を打ちますよ?」
遠くからそんな声が聞こえる。
レティシアの知らないところで、何かしらあったのだろうか?
再び兄の方に視線を向けてみる。
グラジオラスも彼らの方を見ていた。
そして、
「早く入れ。時間がない」
芯のある声を放つ。
それに3人は忙しく戻ってきて。
そんな様子を見ていた残りの七栄道は、楽しげに見ていて。
昔、兄が、彼らは信における仲間、と言っていたが、なんとなく理解できる気がした。
エスペルトがグラジオラスの横に座る。
額から血が流れていた。
「貴方のデコピンは洒落になりません」
「懲りたら反省するこったな」
アイゼンも元いた位置に座る。
言葉ほど怒ってない様子だった。
「どう思います、彼?」
「自業自得だ」
そうグラジオラスに言われて苦笑いするエスペルト。
少し意外だった。
いつも謎めいていて、おかしな言動をしていて、それでも余裕のある彼も、そんな顔をするのだな、と驚いた。
すると、エスペルトがこちらを向く。
笑みを浮かべる。
いつも通り、何を考えてるのかわからない笑み。
彼に関していい思い出がないので、レティシアは顔を背けた。
「相変わらず1人いないが、皆揃ったな。今日の件だが......」
レティシアは地図を見ながら、兄の説明を聞く。
内容は当然、これから起きる戦争についてだ。
始祖生誕祭の夜、各国に動きがあると報告が入った。
キングプロテア王国は、聖地の東側に位置する。
その聖地を挟んだ反対側、即ち西側には、
カルミア帝国
ヘイゼル王国
という二大国があった。
片や魔法を全否定し、科学を崇高する国。
片や始祖を神と崇め、魔法こそ神の奇跡と讃える国。
全く相容れない両国は常々仲が悪かった。
その二大国が全面戦争に入ったらしい。
要は、六国の中でもとりわけ大きい二国で、本格的な争いが起きたのだ。
その争いを見た、東側の国にも動きがあった。
キングプロテア王国の北にある、ルピナス王国が“とある場所”に侵攻を始めた。
それに伴い、キングプロテア王国の南にある、千日紅国も出兵を決意する。
「......“祠”ですもんね」
エスペルトの隣に座るクレールが顔をしかめる。
レティシアもその言葉に顔をしかめた。
今回、ルピナス王国が侵攻した“とある場所”に問題があった。
祠。
いつか、彼女も立ち入るであろう場所。
簡単に言ってしまえば、聖地の入り口だ。
北、東、西と全部で3つあり、その入り口に鍵を6つ揃えると、聖地が開くとされる。
その内の1つ、東側の入り口をルピナス王国は狙い始めた。
常々六国は、入り口の保有を避けてきた。
どの入り口も、三国間の国境沿いにあるため、守備に費やすコストが高いのだ。
鍵を揃えてもないのに、常に他の二国からの防衛を強いられる。
ナンセンスだ。
「かといって、保有されたら取り返すのが面倒になる。ルピナスの連中は損害を省みない」
闘争に重きを置く国、ルピナス王国。
彼らは、それを第一にしているため、グラジオラスの言葉には一理あった。
「まぁ、これは罠ですよね。戦闘狂の彼らが、残る東側の二国を誘き出すための罠」
それにアイゼンが反応する。
「やっぱりそうだよな。千日紅国が出兵するなら、敢えて静観して、牽制を任せるって手もあるが......」
千日紅国の出兵理由は、やはりルピナスの牽制だろう。
入り口を保有させずに撤退させる、残る東側二国の目的だ。
対するルピナス王国の目的は、入り口を餌に二国と戦争を持ちかけること。
しかも応じなければ、本気で保有するという脅し付き。
「いえ、出兵すべきでしょう。敵国に全て任せると言うのも可笑しな話です。こうなった以上、千日紅国側が保有しないとも限りません」
そこで沈黙が生まれる。
誰が、どのくらい兵力で出向くのか?
皆が考える中、クレールが切り出す。
「それだと、誰が出ます? 宰相の役割を考えると、エスペルト先輩以外ーー」
「私が出ます」
遮るエスペルトに皆の視線が集まった。
当然、レティシアも疑問を抱きながら、彼に視線を向けた。
「何か策があるのか?」
アイゼンが問いかける。
「うーん、策というか、私が出向かなければならない理由が1つ」
エスペルトは封筒を取り出し、ひらひらさせる。
「これ、なんだと思います?」
怪訝そうな視線の中、エスペルトは1人笑うのであった。




