表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れじの戦花  作者: なよ竹
第2章 少年と4人の元従者
21/141

第21話(閑話) 宰相と初恋 1

『ねぇ、エスペルト』

『うん?』


 風がエスペルトの髪を揺らす。

 主城の屋根が開けたスペースに、彼らは居た。

 彼が振り返った先に、1人の女性と赤子。


『貴方はどうして、こんなにも優しくしてくれるのですか?』

『優しい? 私が?』


 彼女の金色の髪が、夕日に照らされ輝く。

 彼女の腕の中にいる赤子も、多分金色の髪だった。

 王と彼女の間にできた子。

 グラジオラスとは腹違いの妹。

 レティシア・ウィンドベル。

 彼女に似た美人に育つのかもしれない。


『いえ、愚問でしたね。貴方はそういう人でした。誰よりも仲間を想い、今日まで戦ってきた人だもの』


 彼女は微笑む。

 グレイシア・ウィンドベルは微笑む。

 エスペルトは、彼女の笑う顔が大好きだった。

 その顔を見て、自分の心が少し痛んだ気がする。


 未だに彼女を愛してるのだと分かった時、自分に対する嫌悪感が湧き上がる。

 王も不用心だ。

 こんな男と自分の伴侶を2人きりにさせるなんて。


 彼女の幸せそうな顔を見る。

 やはり、正しかった。

 前線でいつ死ぬかと分からぬ身である自分よりも、名君と呼ばれ続けた王の元に居た方がずっと良い。


 だから、ずっと隠してきた。

 この想いを悟られないように、押し殺してきた。

 で、正解だと思う。

 愛おしそうに、自分の子を撫でる彼女を見て、そう感じる。


『今日まで戦ってきて、何人もの仲間を失ったポンコツですよ』

『ううん、貴方はポンコツなんかじゃない。みんな、そう思ってますよ』


 今日まで、何人もの仲間と共に戦ってきた。

 彼らを護ると、彼女を護ると、何度も何度も刀を振るった。


 それがエスペルトの生きる理由。

 でも、仲間を護りきれなかった。

 誰も死なない戦争なんて、そうそうない。

 回数を重ねるごとに失う。

 何人も失う。

 その度に、影で泣いた。

 ずっと悔やんだ。


 そして、彼女は自分の側に居ない。

 やはり、自分はポンコツだ。


『前から気になっていたのですがーー』

『はい』

『貴方にも想い人が居たりするのですか?』


 一瞬、ドキりとする。

 その心を必死に殺す。

 大丈夫、自分なら隠せる。

 何度も練習してきたのだ。

 グラジオラスたちには見抜かれるが、少なくとも彼女には隠せていた。


『居ません、私に見合う女性はそうそう見つかりませんよ』


 違う、居る。


『えー、本当? 私個人としてはクレールちゃん辺りと睨んでますが』


 目の前に居る。


『彼女ですか? いや、悪いわけじゃないんですけどね?』


 愛している人が、目の前に居る。


『じゃあ......他に大切な人、居たりするのかもね』


 グレイシアが微笑む。

 残酷な程に、幸せそうな微笑み。

 いや、自らが願ったことではあるのだが。

 それに、エスペルトは笑って誤魔化した。


『エスペルト、実は私、長くないかもしれません』

『はぁ、何か病でも?』


 唐突にそんなことを言う。

 今日は驚いてばかりだ。

 らしくない。


『いえ、そういうわけではありません。ただ何となく、胸騒ぎがします』

『何か知りませんが大丈夫ですよ、私が、グラジオラスが貴女を、王を護りましょう』

『あら、嬉しい言葉ですね。でも、もしものことがあります』


 彼女が赤子に視線を戻す。


『だから、私の身に何かあった時、この子をお願いできませんか?』


 エスペルトも、レティシアに視線を向けた。

 グレイシア同様、幸せそうな顔で眠る彼女。


 自分が願った幸せだ。

 2人だけは、2人の幸せだけは、絶対護ると決めたのだ。

 失った仲間たちとの約束なのだ。


『ええ、お任せください』




 そして数年の時が経ち、エスペルトはグレイシアを失う。

 レティシアの幸せを失う。

 酷く無力だった。




 それでも彼は歩み続けた。

 レティシアだけは、まだ間に合う。

 仲間である七栄道が、側に居る。

 彼らこそは護らねばならない。


 そんな彼はある日、1人の少年に出会う。

 自分と同じく、叶わぬ恋を抱く少年。

 悲しい程、無力な少年。

 でも自分と違うのは、彼が諦めてなくて、レティシアが彼に恋情を抱いてること。


 やがて少年は、仲間を失う痛みを知らない少年は、仲間という存在に価値を見出す。

 それがとてつもない苦しみを伴うと知らずに。

 最初は彼の中に眠る力を目的としていたのに、変なものを拾ってしまった。

 情など抱いてなかったに。

 抱くつもりも無かったのに。


 どこか自分と似ている彼にエスペルトはーー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ