第141話(閑話) 悪魔と過去
1000年近くも前、あの忘れもしない日があった。
『何故、ここで貴方が対峙する!? 貴方ほどの理解者が、何故始祖様の意向に背こうとするのだ!』
6人の魔法使いが1人の神を......否、人間を取り囲んでいた。
『何故? 何故かって? お前らこそ何の真似だ。今この瞬間、お前らが護ろうとしてるもんを口にしてみろ』
『民を......全ての人々の安寧に決まっています。我らの師が命を賭して護り抜いたものです』
『そいつらはアイツに何をしてくれた? 命がけで戦ったアイツをただ神と崇めて見ていただけじゃねぇか』
血だらけの男は言う。誰から見ても満身創痍だった。しかし、確固たる威厳だけは衰えず、6人の傑物を震わせる。
『......傷を負った今の貴方では勝ち目はござちません。お退きください』
『やって見ろよ。始祖の弟子風情が俺を止めれんならな。誰に向かって口聞いてんのかわかってんのか? 俺ぁ、お前らが散々崇めた男と同等の力持ってんだ。そうだな、お前らの言葉で表現するなら――』
燃え盛る火が、渦巻く水が、吹き荒れる風が、空を裂く雷が、揺れ動く地が、男の周囲で暴れ始める。
『神とやらに、挑んでみるか?』
◆
「......嫌な夢から覚めた」
身体が流れるのを感じた。見上げた空から考えるに、水面の上を漂っているようだ。こんな屍同然の身体でも、まだ感覚が残っている。が、どうやら限界は迎えているらしい。魂にも少し傷が入った。
「あは、意気揚々と赴いた西国の帰りがこの様とは、アンタさんもヘマするもんですね〜」
「......今は気分が悪いんだ。その顔を見せないでおくれ、サフラン女王」
夢の中で見たばかりの顔と似た少女がいるということは、ここはブローディア王国の何処か、ということだ。
「その様子じゃ、コテンパンにやられたか、時空間の移動中に事故があったか、2つに1つでしょーね」
この状態は後者によって生まれたものであるが、そんか選択肢を初めから提示してくるあたり、ある程度事の顛末を知っているのかもしれない。
「後者だ。......ずっと見てたのか? 趣味が悪いな」
「ホント機嫌悪そーですね、アンタさん。予想しただけですよ、予想。アンタさんほどの男がそうなるパターンは限られてますから」
「気にいらねぇ奴だ」
男の怒りを他所に、彼女は涼しげに笑っていた。
「"教皇"が死んだ今、いよいよ大詰めです。ついでにグラジオラスが消えたのも暁光。今度、六国で会議やることにしたんですよ......あー、一国は無事に滅んだので五国ですか」
「......」
カルミアは予定通り滅んだか――
自分の身体が使い物にならなくなること以外は、全て計画通りに進んでいる。彼女たちにとっても、男自身にとっても。彼は内心で少しだけ笑った。
後はいつ全てを裏切り頂点に立つか、それだけ。
「俺はしばらくの間、大人しくするよ」
「これからがいっちばん楽しーのに?」
「やりたいことは一通りやった。とりあえず休憩」
これからの計画を描くべく、男は静かに瞳を閉ざした。




